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クラファン実施中の女子サッカー「福岡J・アンクラス」が500万円を目標にした理由

WEリーグを頂点に、なでしこリーグ1部、なでしこリーグ2部、その下に各地域リーグというピラミッドを形成する、日本の女子サッカー。
福岡の地から将来のWEリーグ昇格を目指すのが、2023シーズンをなでしこリーグ2部・4位で終えた「福岡J・アンクラス」です。1986年創設の伝統あるクラブは、現在「なでしこ1部リーグ昇格プロジェクト」と題したクラウドファンディングを実施しています。

目標金額は500万円。しかも目標金額に達しなければ受け取れない、All or Nothing方式です。
なぜ500万円なのか、なぜAll or Nothing方式なのか。そして2024シーズンの1部昇格の見込みはあるのか。1月17日、新シーズンに向け始動したばかりの福岡J・アンクラスに直撃してきました。

なぜ500万円という高い目標でAll or Nothing方式に?

お話を伺ったのは、GKコーチを務める有川枝里さん


2023シーズンから所属する原日樺選手


今季なでしこリーグ1部のスフィーダ世田谷FCから加入した村上真生選手

の3人。有川さんと原選手は以前紹介した「ばりキャリ隊」(詳しくは以下参照)の一員でもあります。

まず、クラブをよく知る有川さんに、率直に「なぜ設定金額が500万円?それもAll or Nothing方式?」という最大の疑問をぶつけました。

有川さん「全員を巻き込みたかったんです。ただクラファンをやるのではなく、1つ壁があるようにして。どのチームでも、選手ごとに発信の積極性に差があると思います。今回はみんなで頑張って発信して、みんなで協力しないと超えられない、達成できないよという形にしました」

なるほど。では、選手側はどう感じているのでしょうか。
原選手「達成しないと(集まった金額を)もらえないので、絶対に500万円を達成しないといけないなと思いました」
選手としても、この金額と方式によってやる気を感じているようです。

1月30日17時時点でクラファンに集まった金額は、約166万円。目標達成にはここから加速していく必要があります。
有川さん「ここから、いろいろな働きかけを強化していかなきゃいけません」
原選手「もっと身近なところから巻き込んでいかないといけません。新加入選手が合流しだしたので、その選手たちともっと情報発信をしようと思っています」

クラファンで得た金額は選手活動に還元

では具体的に、クラファンで得た金額は何に使う予定なのでしょうか。

有川さん「遠征費や用具など、選手に還元したいと考えています。例えば、現在広島や岡山での試合にはバスで移動しています。(岡山には片道)6時間ぐらい。試合後はスッと帰らないといけないのでケアも十分にさせてあげられず、選手はバスの中でアイシングしています。試合に向けての取り組みを考えると、できるだけ新幹線や飛行機を使って移動時間を短くしてあげたい。遠征先でのホテルも、全員がシングルでは取れず今は2人部屋です。セルフケアなどの取り組みを考えると、本当は1人部屋がいいんでしょうけれど」

ちなみに、2023シーズンの遠征費は約600万円だったそう。なでしこリーグは全国が舞台のため、2023シーズンであれば南は宮崎県から北は北海道まで、全国各地に遠征していました。
有川さん「ただ、選手たちはそれをネガティブに感じてはいなくて、前向きにやってくれています。本当にありがたいし、良いチームだなと感じています」

2024シーズンも選手たちがピッチ上で輝く姿に期待

「なでしこ1部リーグ昇格」の目標に向けた決意

今回のクラファンの名称が「なでしこ1部リーグ昇格プロジェクト」であるように、クラブにとって直近の目標は1部昇格です。2023シーズンはシーズン半ばまで昇格圏内にいたものの、失速して4位に終わっています。

原選手「4位では終わったんですけど、得点数が1位・2位・3位に比べたら少なくて攻撃の面で課題が残りました。勝ち点で並んだ時にどうしても得失点が絡んでくるので、リーグ戦では失点を0で抑えつつ、得点を取っていかないといけません。そこは今シーズンこだわっていかないといけない部分だと感じています」

1位のヴィアマテラス宮崎が67得点、2位・JFAアカデミー福島が45得点、3位・岡山湯郷Belleも45得点。一方のアンクラスは3分の1以下の14得点でした。失点も少なく勝負強さは発揮できていたものの、確かに昇格には得点増が欠かせません。そこで注目したいのが、新加入選手。今季に向けては12人(1月29日時点)の新たな選手が加わりました。1つ上のカテゴリー、なでしこリーグ1部のクラブに所属していた選手も少なくありません。

有川さん「1部から、主力で出ていた選手も入ってきたので、底上げは期待してもらっていいかなと思っています。いろいろなシステムを試したり攻撃のバリエーションが欲しかったりした時に、どうしてもいろいろなタイプの選手が必要になります。あとはシンプルに人数が増えているので、今年は競争が激しくなる。既存の選手たちも、踏ん張らないと試合に出られない状況になります。全体として底上げとなり、その中で11人のトップ層が出れる況になるので、そこが去年とは違ってくると感じています」

なぜ1部の選手が、そのうち数人は1部で試合に出ていた選手が、2部のアンクラスに来てくれたのでしょうか。
有川さん「1部昇格という大きい目標に向かって一緒にやってくれないか?とアプローチをさせてもらって、『私がこのチームを上に上げていく』という感覚に賛同してくれた選手がほとんどかなと思っています」

1部で試合に出ていたうちの1人が、スフィーダ世田谷FCから加入した村上真生選手です。2022シーズンにはFWとして1部で8得点を挙げ、昨シーズンはDFとして出場を重ねました。アンクラスを選んだのは、やはりクラブの思いに共感したためのようです。
村上選手「地元が九州で、九州でプレーして女子サッカーを盛り上げたいという思いはずっとあって。アンクラスで1部に上がりたいなと思ったので選びました」
プレーしたいのはFW?DF?という質問に対しては「FWで!」と少し食い気味で回答。また、「2桁得点を達成したことがないので2桁が目標です」と、得点源となることが期待されます。なお、1月26日には2024シーズンの背番号が発表され、原選手は2番、村上選手は11番を付けることとなりました。

新加入選手は積極的なコミュニケーションで早くも順応

取材日は2024シーズンがスタートして、わずか2日目。一部の選手は合流前でしたが、多くの新加入選手加わったためまだまだ緊張感があるかと想像していました。ところがピッチにあったのは、昨季同様の和気あいあいとした雰囲気。そして「あのタイミングでパス出していいよ」「ここでフォローに来てほしい」などなど、身振り手振りを使いながらの昨季以上の積極的な声掛けでした。
有川さん「昨日全体で挨拶したものの、チームビルディングとしてはまだまだ。ただ、人と人同士、意思疎通ができないとサッカーはできません。新加入や既存は関係なく、サッカーでコミュニケーションをよく取りなさいと伝えています。既存の選手が気を回してくれて声をかけてくれたり、新加入の選手たちも凄くオープンで積極的に話をしてくれたりしているからこそかなと思っています」
原選手「(所属)1年目も10 年目も関係なく、もっと選手同士が繋がることを大切にしています。そのためにコミュニケーションを各自が取ろうとしていることが、すぐ仲良くなることに繋がっているのかなと感じます」
新加入の村上選手も、早速ある程度雰囲気に馴染んだ様子でした。
村上選手「仲が良くて明るくて、練習中も『あのプレーどうしたかった』とかが言いやすいです」

おもに練習を実施する春日公園 球技場

指導者としても、選手たちの人間性や前向きな姿勢はこのクラブの強みと感じています。
有川さん「選手の年齢層に幅があるんですけど、年齢は本当に関係ありません。目の前の試合やチームのために動ける選手が揃っています。現在指導者の立場で関わっている中で、ここぞという時に同じ方向を向けたり、指導者のことを信頼してくれたりするのはアンクラスの良いところと感じています。また、河島監督などが要求したり、厳しい試合では厳しい言葉をかけたりすることもありますが、そこで腐らない選手が多いですね」

昨シーズンは第15節・ディアヴォロッソ広島戦で記録した531人が最大の観客数でした。今季は、より大きな目標に挑戦するようです。
有川さん「平均で500名、最大の動員は1,000人を目標にしようと思っています。そのための仕掛けや取り組みをこれからしていく予定です。具体的にはまだ言えませんが」

今年のアンクラスにも注目!クラファンは2/22まで

筆者は去年1年間アンクラスを本気で応援し、「選手たちの頑張りが伝わるクラブ」と感じました。クラブ・チーム全員で試合を作り上げる姿を見ると、応援したくなるものです。そんなアンクラスを応援するクラファンは2月22日午後11時まで。

有川さん「今後、新しい追加リターンの商品を増やしていきます。あとは(営業・広報担当の)ばりキャリ隊で企業に対して回ろうと思っています。また、今回のクラファンはリーグ開幕前のスタートなので、1年を通してアンクラスを応援していただけると嬉しいです。応援したいと思えるよう頑張ってまいりますので、これからもよろしくお願いします」
原選手「2部優勝・1部昇格に加えて、個人が1部で戦える選手になることがチーム共通の目標です。1部昇格することだけじゃなくて、昇格した後にそこで戦える選手というところをみんな目指しています」
村上選手「自分の個人技術だけじゃなくて、周りとの連携のプレーとかも見て欲しい。男子が注目されがちだけど、女子は女子なりに面白さがあるというのをもっといろんな人に知ってもらいたいです」

2024シーズンのアンクラスにも、要注目です。


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