見出し画像

『急急如律令/はよやりん』

◉あらすじ
平安時代中期、のちに天下に知られる安倍晴明なる陰陽師が、諸国修業時代に三河の荘の官吏の屋敷に逗留していた。ある日、屋敷の雑色の女が高熱を発して斃れ、次々と病(天然痘)が村に広まってゆく。困ってしまう官吏は晴明に助けを求める。晴明は加持祈祷やお札を使って鎮静化に努めるが効果を表さない。これは何者かの呪ではないかとと「長屋王」の祟りを疑い、術をなすと、痘瘡神があらわれ、その背後にむスサノオがいることを知る。式神を駆使して激しい闘いののちに彼らを倒す。しかし、病は広がりは収まらない。官吏と晴明は村積山を訪ねることを決意する。

◉登場人物
安倍晴明
 式神 ふたり
 三河守・大江定基
 力寿
 三河介・紀雪雲
 宋からの女中医・般若
 雑色の女
 落葉
 小豆
 病人数人
 役人数人
 式神 三人

 痘瘡神
 スサノオ(声)


◎シーン1 三河国・額田、紀雪雲の屋敷

●座敷にて、瓶子の酒を交わし、静かに話し合っている。そこにどかどかと賑やかに三河守の大江定基とその愛妾・力寿が入ってくる。

定基「菅生の川遊び、堪能したぞ。そちも来たらよかったに。」
雪雲「私は至って不調法なものですから。三河守様も、力寿様も梅の花で目を休められましたか?」
力寿「(無言でほほえみうなづく)」
定基「真面目に勤めるもそこそこにな。空蝉。蝉の抜け殻。世は儚いのじゃ。わしは都を出る折りに、長年連れ添った妻を離縁して来た。儚い余生、力寿と存分に楽しむのじゃ。で、ところで、そちらの御仁は?」
晴明「(頭をさげる)」
定基「どこかでお会いしたな。」
晴明「一条で・・」
定基「おお? 一条、戻り橋・・そうか、晴明。安倍晴明。」
晴明「(肯定するように頭をさげる)」
定基「都の陰陽師がなぜ、鄙の国、三河に?」
雪雲「御所の陰陽寮に出仕する前の諸国漫遊のところ、無理を言って引き留め、都の話をお聞かせもらっております。」
定基「そうかそうか。(あまり興味なさそうに) ちと川屋に。(力寿に) そちの愛する三河守大江定基、ちと留守をいたすが、力寿、寂しがるでないぞ、はっはは。」
力寿「ほほほほほ(面白そうに、扇で口元を隠す)」

ここから先は

10,886字

¥ 500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?