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デビル・フレンド23 母親

父の葬儀は教会が執り行いテレビ放送されるほど規模が大きかった。

悪魔による殺人の多くが無罪になる事への、社会的関心が高まってる中で、聖職者が悪魔に殺された事件は国民の関心をひく事件だったのだろう。

それも理由の一つなのか、私と母が生きて行くのに困らない援助を教会がしてくれた。

母は感謝しながらも、教会との関係が深くなる事を嫌がって居た。


私の母は教徒だった訳ではなく、普通の主婦だった。

母はあくまで、人間関係を円滑に保つ為の道徳として、聖書を学び、父の言葉を聞いてるだけで、神や悪魔の存在を信じてるタイプでは無かった。


やはり母親の影響が強かったのか、私も非科学的な事は信じてこなかった。

しかし、犯人が無罪になった事を受けて、私は神学、悪魔学を学んだ。

人を殺した殺人犯に、刑罰を執行しない司法の判断に納得出来なかったからだ。


そして、悪魔について学べば学ぶほど、超能力の存在を証明する科学的根拠を知っていき、確かに悪魔は存在して居て、人を操っていると納得が出来た。

そんな悪魔と戦うエクソシストの存在を知り、私は自分もエクソシストになろうと心に誓った。

そして神学校在学中に、私は司祭に叙階されるのに必要な条件を全て満たし、自らが望む形でエクソシストの道を歩むことを選んだ。

学校の卒業を前に、母は私に深い眼差しで「アンリ、貴方には特別な力が備わっている。それを人のために、正しく使って欲しい」と言った。

その言葉は、憎しみに囚われることなく、人々を救うために力を使うよう母の願いが込められていると感じた。

そして母は突如として私の前から姿を消した。


何の前触れもなく、私と2人で住んでいた教会に2度と戻る事はなく、忽然と居なくなった。

初めは事件かと思ったが、担任だったシスター・アンジェが、私の元に訪れ、これから困った事が有れば、自分を頼る様にと、伝えてきた。

その事から、母が私の元を去るのは計画されてた事だと知った。

母がなぜ去ったのか、その理由は今も分からない。もしかしたら、私が一人で立派になれるようにと望んだのかもしれないし、母自身が抱える何か深刻な事情があったのかもしれない。

母が私を残して去ったその日から、私の心の中には大きな問いが残された。

母は何故、私をここに残して去ったのだろう?その問いへの正確な答えは判らないが、自分の人生を歩むと決めた私にとっては、母からの無言の応援の様にも感じた。


キュミルがなぜ、自身の母を憎むのかを知るために、私は自分の過去を彼女に打ち明けた。「私は学生の頃に母親に捨てられたんだ」と。

この言葉に嘘はない。母が私を突然置き去りにした事実は、捨てられたとも言える。私の母は、一般的に考えれば、あまり良い母親とは言えないかもしれない。

私とキュミルに違いが有るとすれば、私は母を恨んでいない。それどころか、母の選択に対して感謝していた。

反対にキュミルは、彼女の母親に対して深い憎しみを抱いていた。

我が子に恨まれる可能性が有る母親の元に生まれたという点では、私たちは似た境遇だ。

それだけに、キュミルの感情を理解出来るのでは無いかと思った。

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