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去る女の顔 (永遠の赤い薔薇)

あの顔は何度か見た事ある表情だった。最初に見たのは「私はアナタが思ってるような人間じゃない」言った時だ。

悪い悪戯を隠してる子供が、自己嫌悪しながら嘘を隠してる事に傷付いてる顔。

あの顔をした女の1人は遠くに行って、1人は浮気をして、1人は俺を捨てた。


彼女が、あの顔で私を見た時に感じた。何かを決めている。それは私が悲しんだり苦しむ事で、きっと別れの言葉なのだろう。

だけど不思議と悲しい気持ちにはならなかった。あの顔は、思い入れが有る相手にしか向けない顔だからだ。さよならを言われないより、言われた方が大事に思って居てくれた証拠だと思うから。

それに、彼女が居なくなっても私の彼女に対する好きの気持ちが消えるわけでは無い。ちょうど良い機会だと捉えて色んな女性の色を感じとけば良いだけだ。

そして、再び運命が2人を巡り合わせてくれるのを待てば良いんだ。そう理解してるのに、悲しさは湧き上がる。その悲しさに絶望感は無かった。前向きな未来に繋がる暖かい寂しさに思えた。


この気持ちは今まで何度も感じてた。ようやく彼女と心が繋がったと思っても、次に会った時には心変わりした彼女に2番手3番手だと釘を刺されるように素っ気ない態度を取られる。

彼女にとっての好きの感情は瞬間的に最大値まで湧き上がるもので、相手によって違いは無い。

それが、彼女が多くの人から愛される特性であり、優しい女神のような魅力の理由なのだけど、同時に誰も彼女の事を独り占めに出来ないと、私に確信させて居た。

だから、例え彼女が誰かと結婚して数年間逢えなくても、必ずまた逢う機会は訪れると確信のようなものが有った。


彼女の姿が、自分と同じだと感じた。私は赤い薔薇の事を思いながら、ひと時の恋愛を楽しみ瞬間的な好きを積み重ねて行く。けれど、誰のものにも決してならないだろう。私の心は赤い薔薇に捕われてるままだからだ。

自由なのは肉体だけだ。この身体を抱いた人達はきっと私を恨むだろう。絶対に手に入らない私の心を手に入れようと踠き苦しむ。そして、いつしか悪い男に体だけ弄ばれたと憎しみを募らせていく。

なんだか、良くわからないが私の中から乾いた笑いが込み上げてくる。


私を捕らえて離さない彼女と、彼女に囚われた私を愛する女性達が、手を繋いで輪になって踊ってるようだ。

彼女が描いてた終末の絵の光景が、私の頭の中に浮かんで、思わず吹き出した。

その絵はとても悲しい世界で、頭のおかしい化け物や人間達が泣きながら踊り狂ってる絵だった。

あんな絵の世界に入りたく無い。悲しい気持ちが沢山描かれている絵だ。部屋に飾ろうなんて、とてもじゃ無いけど思えない絵だった。だけど、私はあの絵が好きだった。

彼女は、未来を予知して絵を描いたのだろうか?それとも自分が描いた未来を引き寄せたのだろうか?

どちらにせよ、私には分かって居た。ここで物語は終わらない。終わるわけがない。みんなで泣きながら笑って、手を繋いで迎える終末。これで終わる物語なんて酷い戯曲だ。

こんな出来の悪い映画を観させられたら、観客は激怒するだろう。この結末には違和感が残る。その違和感が、続きがある事を私に確信させて居た。

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