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13 - 新たな扉・2

でもやっぱり、異なる環境で慣れないことも多く、成り行きで始めた仕事も当然のことながら順風満帆とはいきませんでした。それまで高い塀となって、周りから守ってくれていた会社を飛び出した私を、容赦無く世間は「個」として評価し始めたような気がしました。

高い志をもってNYにやってきた沢山の人たちに囲まれて、「あなたはここで何をする人なの?NYに来た目的は?」と真っ先に聞かれるこの土地で、特に自分のやりたいことも見つからず、私は自分への信頼がどんどん揺らいでいきました。

(いつまでたっても私は、他の人のように熱中できることの無い、虚しい人生を送るのかな?このまま生ぬるく、死ぬまで緩く生きることが、私にとっての『生きる』ということなんだろうか?)

そんな風に、自分の軸が少しずつブレていくのを感じていました。


でもそうではなかったのです。

やりたいことは、ちゃんと自分でわかっていたのです。ずっと前から、知っていたのでした。私は、作ることで得られる喜びに、子供の頃に気づいていました。絵を描く喜びを、自分の感じるままを表現できる楽しさを。でも大人になるにつれて、周りにいる人たちと自分を比べてしまい、何事も中途半端な自分には資格なんてないんだ、と勝手に決めつけてしまっていました。チャレンジすることさえ放棄していたなんて、考えもしなかったのです。

それを気づかせてくれたのが、チョコの言葉でした。


「他の誰のことも気にせず、自分の幸せを考えて生きていい」


自分の幸せを願わない人はいません。どうやったら今よりももっと幸せになるか、きっと誰しもがそんな風に思い、願うことでしょう。私も、自分なりに未来への希望を思い描いていたつもりでした。どんな仕事をして、どんな家に住み、いくら稼いで、何を着るか。結婚して、子供を何人産み育てて、定年退職までにはローンを返済して。。。

でも。。。チョコの言う「幸せ」という言葉は、意味合いが違っていました。全くの他人(他犬?)から、面と向かって(千華さんを介してですが)あれほどまでに自分のことを全肯定してもらったのは、物心がついて以来初めてのことでした。すると、今まであることすら気づかなかった扉が、ガチャリと少し開いたような気がしたのです。

(私は私の好きなように生きていい。。。)

好きなように生きる為に、この地球に生まれることを自ら選んできた。誰の目を気にすることもなく、自由に生きていい。それが、私のやりたかったことだ。。。

きっと、周りからは「真由ちゃん、今までだって、十分好きなことをして生きてるじゃない?」と思われることもあったでしょう。でも、どこかでいつも制御していたのです。これ以上やってはいけない自分、言ってはいけない自分、楽しんではいけない自分、思い切ってはいけない自分。恐らく、パズルのピースとしてピタッとはまるために。そして、どことなく人任せにして、なんとなく生きていくために。

そのちょっとした息苦しさが、地に足のついていない感じが、違和感となり積もり積もって、いつしか体の奥底にヘドロのようにこびりついてしまっていたのを、チョコの言葉が溶かしてくれたようでした。

行きたいところに行けばいい。会いたい人に会えばいい。食べたいものを食べて、好きなようにカタチにしていけばいい。思う存分、作ってみたらいい。世間体など気にせず、人と比べることもせず、親からの言いつけも気にせず、大人だから、女性だから、日本人だから、移民だからと一切気にすることなく、思い切り、とことんやってみたらいい。英語が満足に話せなくたっていい。わかってもらおうとしなくたっていい。いい人だなんて、思われる必要だってない。お金すら、稼ごうとしなくたっていい。

もちろんだからといって人を傷つけたり、嫌な思いをさせようとは思いません。自分が幸せになることで、周りも幸せになってくれたら、一番いい。


誰のために生きるのか。

私。

私のために。自分の幸せのために。


人間に限らず、地球上にいるありとあらゆる命ある存在が、意思を持って地球を選んで生まれてきた。その目的はそれぞれだけれど、全ての存在には意味がある。意思がある。どうしてこの世界が出来上がったのか、なんていうことはわからないけれど、私は私でありたいから、私に生まれてきた。楽しむために。それは私という存在を、今までよりもハッキリと色濃く感じとることができる、魔法のような言葉でした。

いつか、また宇宙に還っていく時のために。今の私の終わりの時まで、地球を沢山感じよう。精一杯、人や動物や自然を愛して、生きていこう。沢山、自分の感じたものをカタチにして、自由に、更に自由に、羽ばたこう。


それを教えてくれた、かけがえのない存在である、チョコと、
この人なくしては、今回のことは起こり得なかった奇跡の人・千華さん、
そしてこの機会を作ってくれた、つゆみおばちゃんとメグへ、

心からの感謝と、愛を込めて。

この物語を読んで下さった方達にも、チョコのメッセージが届きますように。


いとうまゆ
2020年 夏

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文章の中で皆が生き続けて、
読む人の心の中でも生きられるなんて奇跡。
 私たちは永遠の命を貰ったの…

by Choco


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