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02 - 出会い・1

私がチョコの名前を初めて耳にしたのは、かれこれ10年近く前のことでした。

叔母のつゆみおばちゃんが、我が子のように可愛がっていた飼い犬を亡くし、暫くペットロスに 陥っていた時のことです。毎日泣いているおばちゃんを慰めようと、娘の直子ちゃんがみつけてきたのが、チョコでした。最初は別の犬を引き取る予定でしたが、ちょっとした出会いからこの茶色いダックスフンドの女の子を連れて帰ることになりました。


まだ手のかかる子犬の面倒をみている内に、つゆみおばちゃんに少しずつ笑顔が戻り、気がつけばチョコは立派な家族の一員として、幸せに毎日を過ごすようになっていました。


なかなかどうしてチョコは頑固な犬で、お散歩もご飯も、大好きなつゆみおばちゃんと一緒でないと、決して行かないし食べません。1日以上家を空けると、その間はチョコがご飯を食べないので心配で旅行に出られない、とおばちゃんが嘆くのを何度も耳にしました。


そんなチョコの話を聞く度に(ずいぶんと臆病者のワンコだなあ)と私は思っていました。


それから数年が経ち。
小心者のチョコに、最初に会うチャンスを得たのは私の両親でした。


たまたまつゆみおばちゃんを訪ねた時のこと。
「ずっと吠えて触らせてもくれなかったチョコを、上手くオヤツで手懐けたんだ」と、犬好きの父はとても得意そうでした。それ以来、チョコの名前が話題にのぼる度に、愛情を込めて「あの子は吠えてばかりのバカ犬だ」というのが父の口癖でした。


そのおかげで、私も「そうか、食いしん坊で臆病者なのね。私が会いに行ってもおやつで懐いてくれるかしら?」なんて考えていました。そして父と同じく私も犬が大好きなので、話を聞く度に、(いつかチョコに会ってみたいな)と思うようになりました。


同じ頃、私は妹のメグから「ちょっと面白い人がいるんだけど」と、ある女性を紹介されまし た。その人は千華さんといって、第一印象はほっそりとした色白の、儚げな美人さんです。千華さんは色々な不思議な力を秘めていて、その内のひとつに「動物と話をする」ことができるのよ、と聞いていました。


以前あるTV番組で、様々な動物達と会話ができる女性を取り上げていたことがあり、その女性の大ファンだった私とメグは、いても経ってもいられなくなりました。犬や猫、鳥やリスと話しができるなんて、まるで夢のようではないですか。一度でいいから、千華さんが動物と話すところを目の前で見てみたい ! そう思いました。


でも残念なことに、私たちには話を聞きたいと思えるペットがいません。仕方なく、「いつかそのうちね」と諦めていました。


ところが、思わぬチャンスが飛び込んできたのです。


ある日の昼下がりに、我が家に遊びに来ていたつゆみおばちゃんと、お喋りに花を咲かせていた時のことです。ふと思いついて、私と同じように不思議なことが大好きなつゆみおばちゃんに、 千華さんの話をしてみたのです。すると、「わあ! ぜひ、チョコに引き合わせたい」と興奮気味に身を乗り出しました。


「なぜ、私からしかご飯を食べないのか。手からあげないと食べてくれないのか。どうして他の人とだと、お散歩にも行かないのか。」ぜひチョコの気持ちを聞いてみたい、と言いました。


善は急げで千華さんに連絡してみると、あれよあれよという間に日取りが決まり、夏の終わりのある日、私達は揃ってつゆみおばちゃんの家を訪ねることになったのでした。


つづく。

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