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悪口を言わない人(ファッション!!のネタバレ)

○ファッション!!の感想(ネタバレ)


真に全く人の悪口を言わないでいられる人というのは、おそらく、いわゆる善人とは違うカテゴリにいる人の可能性もあるのではないでしょうか。
そう言ったほうがいいのではないか…という気持ちになった。「自分は悪口なんて言いません。悪口を言っている人は愚か。」みたいな話をしたくなるお洒落心とはまた違うものがあるように私は思う。

悪口なんか「言わないほうがどんな場面においても絶対に自分は得をする」に決まっている。「悪口を言っている人」が短期的に得をしているように見えることはあるかもしれないけれど、長期的に見れば人間性に疑いを持たれたり、自省の足りない人に見えたり、「自分も言われているんじゃないのか」と不安にさせてしまう振る舞いに該当する。悪口を言うのは、損。

「人の悪口を言わない=いい人」という式は成立しない場合があると思う。どんな場面に於いても「悪口を言わないでいられる」っていうのは…自分がどんな人生をやってきたかとか、場面との相性とは関係なく「絶対に得をする振る舞いを選べる」ということだと思う…ので、その人の設定した得がうまく周囲の人の得と合致し続けることを願ってやまない。「人の悪口を言わない選択ができる」そのこと自体は美徳だと思う。ただこの作品に於いては「あの人は"人の悪口を言わない"心の綺麗ないい人なのに、自分ときたら…」のように考える善人が全員大変なことに巻き込まれているので、怖かった。

ていうか「ピュアだから」とか「善人だから」を理由に自分の全部を差し出すようなことっていうのは、誰もしなくていいと思う。

最小限の線でものすごく巧い絵を描かれるので読んでほしい。
このタイプの狂人が出会ってしまった話が、このベクトルでここまで丁寧に描かれている漫画はこれまでに読んだことがないような気がする。
予防接種的に読むことで不幸を避けられる人がいてほしいけれど、こんなに何をしたところで回避が難しい不幸もない。

(ファッション!!5巻(はるな檸檬先生)の感想)


○「ファッション!!」の紹介(ネタバレだと思う)

・出会ってはいけない2人の狂人が出会ったことによるホラーストーリー

周囲のためにはなにもしなさすぎる狂人と、周囲のためになにもかもしすぎてしまう狂人が出会ってしまった。良心のない底なし沼系狂人と、泥沼にハスを咲かせようとしてゴミを撤去し種を撒きつづける狂人の相性は最高と言えば最高だし、最悪と言えば本当に最悪である。

「磁場を狂わせる」力があるのは基本的にいいことだと思うのだが、こういう噛み合わせになると最悪。周囲のためになにもしない狂人も「一応動きましたよ」と言える範囲のことはやっているのでタチが悪いし、周囲のためになにもかもしすぎる狂人も、善人は善人なのだが、やりすぎてもう天使(「使命」以外の全てが見えていない状態の人)なんだよ。身を守ってくれ。しかも自分で自分を天使扱いする図々しいタフさも持っていない、本物すぎてタチが悪い。周囲の人は彼をちゃんと人間だと思って接した方がいいのではないか。彼はストーリーが進むほどに周囲にとって最悪の磁場を強化していく存在と化してしまっているので「この人にもう少し小狡いところがあったら話が早くていいのにな」と思った。

○悪口

絵を描くというのは「選んだ線以外のすべてを否定する」作業なので、

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