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地頭って何なのか?ジョブ型でもまだ使われるのか?

 地頭。個人的には学術に居たときはそんなに意識しなかった言葉なのですが、就職活動をし始めたあたりから耳にし始めたように記憶しています。どうも著しく抽象度が高く、上から目線な気がして好きになれない言葉ですが新卒採用・若手採用ではよく使われる言葉のようです。

 ところがアラフォーミドルの転職でもキーワードとして出てきて驚いたわけです。どうやら雇われる側にいる限り、地頭云々はどこかで議論されているもののようです。更にはみちょぱさんまで使っていてこれは一般用語だったのかと気付いた次第です。

 今回はこの地頭とは何で、ジョブ型の社会にどう絡んでくるのかをお話していきたいと思います。

地頭の定義

 Weblioを見ると下記のように定義されていました。

学校(教育や勉強)で身につけられる知識とはまた別種の、また学校での勉強ではなかなか身につかない種類の、基礎的で汎用的な頭の良さを指す言い方。思考の回転の速さ、論理的な考え方、柔軟で洗練された発想力、あるいはコミュニケーション力などが念頭に置かれることが多い。

 次にフォロワーさんから頂いたリンクですが、20年ほど前から使われていたという証言があります。こちらには下記のような要素が紹介されています。

・頭の回転が早い
・発想力が高い
・思考力がある
・いろいろなことを知っている
・1を聞いて10を知る

 そりゃどれも良い方が良いですが、かなり抽象的な概念故に適性検査などによる数値化が一般化しているのでしょうね。しかし残念なことに多くの適性検査は若い人の方が有利でして、おじさんになるとExcelをどんなに批判しても割り算の筆算とか使わないので忘れます。

地頭を問わなければならない理由

 これはシンプルに新卒一括採用、終身雇用時代の名残だと考えています。従来型の企業は大学での教育を信じておらず、入社後に教育・研修をすることで1人前として現場に迎えていたわけです。そのためには教えることを余すことなく受け取れる人材が必要です。勢い、吸収力の高い人材=地頭の良い人材が必要になります。

 今後ジョブ型にシフトしていく風潮が出る中で、地頭をどうするべきかは判断のしどころです。地頭も問いながらスキルや経験が1人前であることを求めなければ行けないというのがジョブ型のスタートラインです。地頭に追加してスキルや経験も問うとなると、たださえ少ない牌をどう奪い合うのでしょうか。そしてそれは生産性の高い結論なのでしょうか。

 本マガジンの目的は労働資源の最大化を図るためにはどうすれば良いかの探求ですが、限られたリソースでアウトプットしなければ行けない以上、適材適所をもっと問うていく必要があると考えています。つまりは総合的な地頭を中心にした採用でなく、向き不向きとその配置です。

頭の基本性能ってなんだろうか

 向き不向きを議論する上で、上記の地頭の解説のような抽象的なものだと不十分です。イメージしやすいようにコンピュータになぞらえて基本性能として分類をしました(してしまいました?)上から順番にお話してみたいと思います。

20200816 地頭

1)DB:知識、経験/インデックス

 お題を出したときに返ってくる引き出しが多い、などはこの項目に入ります。

 日本型の暗記ありきの教育はこのDBに対するベンチマークテストであると考えています。以下に限られた時間に記憶に対しての問い合わせを正確にjoinを含めたselectを達成できるかの試験です。大学受験などで数学を数式レベルで理解して回答するのではなく、回答パターンを暗記して回答するのもこちらの能力が強いと言えそうです。

 一方のインデックスは実態にアクセスするための見出しです。

 私が高校生のとき、98年頃の話です。その後ITにどっぷりと入ることなど露知らず、当時の憧れは立花隆氏でした。何となく6教科覚えるとなると浪人するなという直感があったのと、親が早稲田クラスなら学費を出すというので天の邪鬼に慶應を受けようと思っていました。哲学をやりたかったので文学部を見てみようと思い、世界史の過去問を見たところギリシア時代の柱の名前が出題されました。「そんなの教科書にあったか?」と思って調べ直すと挿絵の下の小さい文字から出題されていることに気付きました。丁度「超」整理法も読んで感化されたところだったこともあり、「これからコンピュータが当たり前になるのに検索して出てくることを暗記することの意味とはなんだろうか」と引き返し、SFCと出会うことになります。

 他方、90年代後半のとある音楽雑誌の編集室のコーナーで「東大卒の社員を漢和辞典として使っているが便利。」という下りがありました。単純な知識の蓄積力を問うた場合、極端な有効活用シーンはこうなってしまいます。インターネット時代では実務を考えるとインデックスのように(断片的な知識から)知識を引き出してくる機能の方が適当と考えています。停電の前には無力ですけどね。

2)ソフトウェア:思考方法

 アルゴリズムなどはここにかかってきます。同一の課題に取り組むにしてもアルゴリズム(思考方法)によっては計算量が少なくて済む場合もあれば、莫大な計算量を必要としたり(ものすごく遠回り)もします。ただそもそも当該課題を解決すべきソフトウェア(興味や環境)がないとその役割を担当することはできません。

 この項目で議論されるべきの一つは具体・抽象です。具体・抽象の往復をスムーズに行き来する癖がついているほど思考方法として優れていると言えます。この際、他者とのコミュニケーションの際に抽象度を合わせる作業が発生します。抽象度が合わないと同じことを議論していても「QAズレ」として片づけられます。最悪のケースとして抽象度の高い方は低い方を「視座が低い」と感じ、低い方は高い方を「感覚的」「ビジョナリー()」などと片付けて不毛です。

3)OS:(疑似)マルチタスク・シングルタスク

 他人の脳を使ったことがないので断言しかねるところですが、マルチタスクってできるんですかね?時折マルチタスクをウリにしているかたが居られますが、せいぜいが疑似マルチタスクだと思っています。疑似マルチタスクは20年以上前のMacOS(Xではない)にありましたが、基本的に単一タスクを実行し、マルチタスクに見せかけるためによそ見をして割り込みに備えるというものです。私は漢字Talk7.6.1が好きでした。

 エンジニア界隈で言うと、ゾーンなどの言葉とともに集中していることが尊重される風潮ができてきているので、シングルタスクが許されるようになってきました。むしろそこを目指している節もあります。

 差し込みの多い業務(バックオフィス・マネージメント・情シス)は(疑似)マルチタスクでないと発狂しますし、差し込まれてなんぼの需要みたいなところがあります。これは適材適所で良いと私は考えます。

4)OS:プロセス管理

 自己マネージメントです。適性検査に出てきがちなものです。

5)CPU:汎用的な計算、GPU:特化型の計算

 所謂頭の回転というやつです。

 従来型の日本の教育ではCPUのような汎用的な計算ができるヒトを優先して採用する傾向にあったかと思います。

 しかしよく見ると特定の処理が(異様に)早いヒトというのは居られるわけで、このヒトが汎用的な計算が苦手な場合、社会は彼らを拾えていないように感じられます。計算機でGPUが徴用されるようになったように、ヒトについても特異な能力を特化型のジョブに切り出して任せるということが必要なのではないでしょうか。正社員で抱えるほどの当該タスクが無くても、従業員シェアなどで実現できると考えています。

6)メモリ:視野

 ここが大きいことにより、一度に抱えられる事象のサイズ・数が大きくなります。

7)バス:伝送容量

 上記の仕組みをスムーズに連絡するためのパイプです。ここが細いと各パフォーマンスが高くても実力の発揮は難しくなります。 

8)NIC:伝達

 上記の計算結果を対外的に伝達しなければ独りよがりになってしまいます。アウトプットの仕方は文章だったり、デザインだったり、ソースコードだったり、コンフィグだったりします。これが対人になるとコミュニケーション力と言われるようになります。

 アウトプットする種類は数あれど、その表現の帯域幅は広い方が望ましく、狭いと伝達に時間が掛かります。

9)パワーサプライ:心身の健康

 ストレスチェックなどで判断されているものです。従来の働き方ではオフライン出社が前提だったため、きちんと朝起きる、満員電車に乗るというタスクを熟すだけの体力が前提でした。朝決められた時間から始めて8時間(+残業)するという安定した稼働も必須能力でした。

 このあたりもジョブ型やフルフレックスの導入、リモートワークの導入により必ずしも大容量である必要はなくなってきます。より働けるヒトが増えるという意味で歓迎すべき改革と捉えています。

メンバーシップ型採用における地頭

20200816 地頭 (1)

 従来のメンバーシップ型採用で重要視していたであろう項目を赤枠で囲ってみました。教育前提なのでベーシックなところを集中的に「地頭」として評価してきたと捉えています。

 AWSのインスタンスで言うと、全てがバランスの取れたM型で揃えたのが従来型のものであれば、CPUが突出したC型、メモリが突出したR型、ストレージ最適化のi型のように役割を鑑みた上で特性に応じた採用と配置をするべきです。

ジョブ型採用と地頭

 ジョブディスクリプションベースで契約をするジョブ型採用では、教育が不要になり、軽いオンボーディングを整えれば理屈上は問題ないはずです。地頭は教育する土壌と捉えた場合、ジョブ型採用における地頭の比重は下がって良いのではないか、もしくはジョブに紐付いたいずれかの機能が突出しているという観点で採用することも成立するのではと考えています。

 メンバーシップ型採用では企業に入ってから教育研修を施し、スタートラインを整えて「1人月」として現場に出す設計でした。これがジョブ型ではジョブディスクリプションの達成と教育を前提としないことによる個性・タレント・特化について道筋を付けていくべきだと考えています。

この議論の先

 ヒトの頭をコンピュータに置き換えてどうするんだ?という御仁も居られるでしょう。

 私のD論は(今は恐らく消滅した領域だと思われますが)P2Pに関するものでした。今は仮想通貨で一部使われていますがWinnyやWinMXなどと言えば思い出されるかもしれません。その上で広帯域リアルタイムライブ配信をするための網構築が私の研究テーマでした。

 現在はインターネットライブ配信は当たり前になっていますが、しっかりとした計算機資源をCDNとして並べて1:多で提供する形ではなく、受信する一人一人(ノード)が受信も転送もするという世界がP2Pリアルタイムストリーミングです。転送を担当するノードが一般のPCなので非常に不確実性が高い世界です。網のどの位置にどのノードを配置するか、どう網を構築するかも無根拠だと破綻します。

 これが非常に組織構築に似ていると考えています。これまで本マガジンでは労働資源の最大化を目的にお話をしてきましたが、そしてその根幹が各ノードの計算機資源のスペックであり、基本性能が大きく影響してくるのです。こちらのコンテンツについては目下準備中なのと、鮮度の高いネタがあるのでしばしお待ち下さい。


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