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SESはなぜこんなにも嫌われるのか?

TwitterではSESが話題になるとかなり殺伐としたお話になります。以前はプログラミングスクールを出たばかりの未経験プログラマが「自分の努力不足でSESになった」という話がありました。

一方でここのところは真っ当なプライム案件を受注することで高還元率を達成しているSES企業なども登場しております。SES全体を指して嫌うには主語が大きすぎるということ、真っ当なSES企業であれば何ら問題ないということ、ITエンジニアのうち一定数は自社サービスではなくSES(あるいは似たような契約形態であるフリーランス)が向いているということなどを伝えたいところです。私自身、準委任契約で動いていたり、営業活動をしていたりもしたのでそのあたりのお話をしていきます。

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SESが嫌われる要因

SESが嫌われる要因はいくつか挙げられます。結論としては問題ない働き方をしている人も増えている一方で、不利益な雇用を経験した人からの不満が根強く、響きやすいというものです。

多重請負の闇

前回開発営業についてお話をしましたが、営業力が低いとプライム案件が取れず、日銭を稼ぐために深い商流に甘んじることになります。

商流の深いSESで働かれている方もあまり意識されていないケースがあるのですが、入場時には変な風習があります。例えば発注元であるA社から一次請けのB社、二次請けのC社を挟んで三次請けのD社に所属しているEさんが居るとします。

この際、オフラインの時代にはA社への入場時の際にはリレーが行われていました。まず始業時間よりも早くA社近くの喫茶店などにD社の営業担当と集合します。次にC社の営業担当が現れ、EさんをC社に引き渡します。次にB社の営業担当が現れ、EさんはB社に引き渡されます。そしてB社の営業担当と主にA社に行き、初めてA社の名義で入場します。

この際、A社の支払い金額からB社、C社からいくらか抜かれた状態でD社に支払われます。これが非常に嫌われる多重請負です。

発注者からしてみてもこのEさんがトラブルを起こした際にはC社、D社の存在を知らされていないため、B社経由でC社、D社と伝言していく形になります。大きなトラブルが起きた場合、連絡が取れなくなる企業が出てきます。非常に発注者目線でもリスクの高い商流です。

常駐派遣という日本語名称と指揮命令系統

常駐派遣という日本語が良くないという意見があります。

「派遣」と言うものの実態は準委任の業務委託契約であるため、派遣契約ではありません。派遣契約は資産要件などが厳しいため、小規模事業者では通りません。

資産要件
基準資産額≧2000万円×事業所数
基準資産額≧負債÷7
自己名義現金預金額≧1500万円×事業所数
事業所の必要面積条件
事業に使用する事務所の面積がおおむね20㎡以上である事。
これは厚生労働省の規定であり、申請時に現地立ち入りによる調査が行われます。
また、キャリア・コンサルティング相談窓口を設置するという条件、研修・面談スペースを設けるという条件があります。

派遣のミカタ 派遣事業許可の取り方・基準まとめ

派遣契約であれば指揮命令系統が発注元企業にありますが、準委任契約であれば発注元企業に指揮命令系統はありません。少し前にTwitterにて「業務委託の人が業務外のことをやってくれない。これは問題だ。」という主旨の投稿がありました。暫くして投稿は削除されてしまいましたが、ある程度指示を自由にしたいという意味では準委任契約ではなく派遣契約ができる企業に当たるべきでしょう。

一方、派遣契約というものに対する印象と、業務内容を契約書で絞れないことから一般的に派遣契約を好んでするITエンジニアは少ない傾向にあります。職種によっては居なくはないですが、探すのは難しいです。

受託かと思ったらSES、自社サービスかと思ったらSESの内定通知書

私自身2012年に遭遇したことがあるものなのですが、ある自社サービスの求人票に応募したところ、一発面接で内定が出ました。しかし内定通知書をよくよく読むと他企業への常駐派遣だったというものです。オファー面談など無かったので、通知内容を飲むか蹴るかの二択だったのですが、なかなかに詐欺まがいです。

こうしたアプローチは残念ながら過去には少なからず存在していました。入社してから違ったことに気づいたというケースも耳にしており、SESに影を落としている一因になっています。

SESの将来

ここまではSESの影の部分についてお話をしてきました。次にポジティブな観点にも触れつつ、将来予測をしていきます。

ITエンジニアの少なさ、高単価化を踏まえるとSES企業に人員を集約するのは合理的

現在のDXの文脈では内製化に重きを置いています。そのためITエンジニアの有効求人倍率はJavaでは21.8倍とも言われています。また、Pythonのような特定の言語に絞ってでは53.1倍と発表している資料もあります。

私も様々な企業様より採用戦略についてご相談を受けたり、セミナーを実施したりするのですが、並の予算ではITエンジニアを採用することは不可能です。採用しても採用コストを回収する前に辞めてしまうリスクがあります。また、未経験を育成しても待遇などがついていかないと1-2年で辞めてしまうため、教育コスト・採用コストとその回収率を天秤にかけて悩む傾向にあります。定着が不明な20代より、50代・60代採用に進む企業も出ています。

そのため、無理に求人を出して採用するよりも、SES企業に適切な金額で出した方が事業が前に進むケースは多いです。SES企業自身はそれなりのサイズ感のある企業であれば教育体制もしっかりとしています。特に実装するものがまとまっていないようなものであったり、コンサバなものを対象とするのであればIT人材をSES企業に集約するというのは合理的です。市場感に合わせた契約、待遇提示をしやすいということも利点でしょう。

また、もう一つの観点として「正社員で受け入れるほど継続的にタスクがあるのか」という疑問があります。新規事業の多くは頓挫しますし、よほどの施策を繰り返し必要とするような人気プロダクトでない限りは落ち着くものです。Excel上では長期的には正社員の方がコストパフォーマンスが高く見えるのですが、実際問題としてそこまでプロダクトが持たなかったり、予期しない外的・環境要因によりコストの高い開発部門を縮小したくなったりします。

技術的負債とその解消などについても、きちんと需要があり、それを認めるような経営判断が無い限りは承認されないものです。個人的にもスタートアップ~ベンチャーの話が入って気安い環境にありますが、2-3年で人員構成を見直すのが適切なプロダクトは多いと考えています。

リモートワークが和らげる「常駐派遣」のネガティブイメージ

「常駐派遣」という働き方がネガティブに捉えられる理由として、自社では無く他社にて働くという点が挙げられることが多くありました。そこでは入場した客先での「自社」「他社」の区別にありました。「自社」の社員でしか使えない設備などの区別もあり、不満を耳にすることがありました。

しかしこれがコロナ禍を経て大きく変わります。リモートワークが一気に拡がったことで区別を感じることが少なくなりました。中には自社の社員は出社、業務委託はリモートワークなどの座組を取る企業もあり、リモートワークを志向するITエンジニアとして見ると逆転現象が起きていると言えます。

あるお客様のところで「リモート常駐」という言葉を耳にしています。なかなか含蓄と矛盾のある言葉です。

自社サービスには向いていない人、SESに向いている人

自社サービスの場合はサービス共感を求める企業が少なくありません。自社サービス、SES・受託開発の採用を両方やってみた経験からすると、サービスへの興味自体が特にない方というのはかなり多いです。

以前は「自分はこういう経験があります。サービスは何でも良いです。ここで働かせてください!」という千と千尋の神隠しの「千」のような方が多く居られました。しかし売り手市場になってからは「自分はこういう経験があります。サービスは何でも良いです。案件があると聞いてきました。待遇はこれでお願いします。」というコミュニケーションを取られる方を多く見かけるようになりました。主にチームワークの観点で採用しにくいパターンです。

また、1年程度で飽きる方も多いです。スカウト媒体を見ていると社会人経験は5年ですが、経験社数は5社などという方が多く確認されます。こうした方々はSES、あるいはその派生形であるフリーランスで良いと感じています。純粋に技術が好きであるという方もSESやフリーランスで各社を渡り歩く形で良いと思います。

そろそろSES自身、名前の替え時なのではないか

この投稿をしている2022年11月現在はTwitter社のレイオフの話題で賑わっています。この話題でも挙がっていますが、日本は法的に解雇がしにくい国家です。ITエンジニアが少なく希少性が高いが故に採用市場が狂っている状態です。人材の流動化というところを考えると、SESのような形態は合理的です。

そのためには直接契約による対等な契約環境の浸透と、ネガティブイメージの払拭が不可欠です。道理で言えばネガティブな印象づけをしているプレイヤーにネガティブなイメージと共にご退場頂くのが理想なのですが、なかなか時間がかかります。

私は過去にマッチングサービスの中の人をやっていましたが、当時出会い系サイトが荒らしていた市場を「我々はマッチングサービスです」と差別化をしながら訴えて行った経緯があります。その結果、副次的な効果として転職市場や不動産市場、M&Aや営業に至るまで、多くの他業種で「マッチング」という言葉が使われるようになりました。

このマッチングサービスのように新しい概念と新しい言葉と共に、言い換えていく必要がある頃合いなのではないかと考えています。

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