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未経験エンジニアを取り巻く地獄絵図と、私がプロデュースしてきたキャリアチェンジ例

 本noteでも時折話題にするエンジニア未経験者層。またしても見てられない状況が出てきました。未経験者層を巡るビジネスがどうなって居るのか、その解説と私が手掛けた成功事例を交えながら、あるべき像をお話させていただきます。ネガティブなことばかり書くと当の未経験者の皆さんに届かないので、希望に繋がるようなことも残したいなと思います。

 特定の個人や団体を非難する意図はありません。ただし、他人の人生を弄ぶのは、IT業界の健全化からすると許しがたいものです。一人でも多くITエンジニアとして立ち上がって頂ければと願うばかりです。

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人が居ないので未経験エンジニアには期待したい

 2000年以降増加した大学の情報系学部。本来であればエンジニアの供給元としてここに期待したいところなのですが、AIや機械学習ではなく純粋にプログラマになりたいという人は減っています。2019年には新卒の逆求人イベントに行くと9割がAI・機械学習じゃないと話すら聞いてもらえないこともありました。

 この背景はいくつか考えられます。2000年代前半までは高速インターネットを所有していた大学はそれだけでアドバンテージがありました。その後、ブロードバンドインターネットはすっかり普及。リーマンショック、事業仕分けで大学へのお金の流れが止まります。そこへ2010年のビッグデータブームが到来。肝心の解析対象であるビッグデータを大学は持っておらず(自分の大学のアクセス履歴くらい出せるでしょうが、おもしろサイトだらけの結果が出ても困りますし、何より2回の長期休暇はデータすら取れません)、企業に提供をお願いする立場になりました。企業に頼れない場合は「オープンデータ」と称してTwitter解析くらいしかなくなるのが辛いところでした。このあたりから大学と企業の先進性の逆転現象が起きたように思います。

 大学という研究機関たるものビジネスに遅れをとっては行けないという焦り。先進性を求めた上でAI・機械学習に注力したという理由が一点。予算獲得のための資料を想定するとバズワードに近い新し目のキーワードを散りばめないと行けないという事情が一点。勢い、AI・機械学習が勢いよく拡がりました。時代が求めてのAI・機械学習なのか、時代を求めてのAI・機械学習なのかは難しいところです。

 事業者の採用担当としてはコンピュータの基礎とかネットワークの基礎を踏まえたものづくり人材を提供してほしいのですが、学生からするとAI・機械学習に一度傾倒すると特にWEBプログラミングあたりは前時代のものに見えるようで志望者は少なめです。AR/VR/MR、IoTくらいでないとなかなか注意を引けません。一方でソフトウェア開発に面白みを感じている学生は、学部のときから大手自社メディア企業にアルバイトで入り、そのまま入社していくので転職市場に出るのはだいぶ先です。A社さんのビルの前でキャッチ行為をしたほうがよほど効率的なのでは?と思ったりしています。

 その一方で多くの企業が20代、経験者、きれいな職歴、円滑なコミュニケーション、外国籍の場合は日本人と見紛うような堪能さという似通った求人票を出しています。企業の末永い継続を考えると40歳以上だけで開発を進めるのも厳しいわけですが、本気を出した際の求人量が未知数なDX勢が温まってきている昨今、ソフトウェア開発を志望している未経験者層というブルーオーシャンは本来であれば期待したいところです。

 人が居ないのに排除している場合ではない。ただその閾値を超えるほどの香ばしさが未経験者層にあるのが2020年です。次はどうしてこうなったのか、その経緯をお話していきます。

経緯1:2018年からのプログラミング学校の乱立

 2013年頃にAndroid職業訓練校が一時的に軽い盛り上がりを見せたことがありました。JavaやPHPを教えるコースもありましたが、Androidのキャッチーさには勝てなかったようです。初期はSIerを退職して受けている人など非常に優秀な方の採用もできましたが、後半では職業訓練校卒業者3人のSESがセット提案で現れ、「私達は皆、未経験ですが3人集まれば何とかなると思います!」と言われたこともありました。光るのかな。やがて「出席すればもらえる給付金」を目当てにした人達が集まって母集団としては精彩を欠くようになりました。その後、民間のプログラミング学校が登場します。

 2015年頃だったと記憶していましたが、マインドセットから始まる過激な学校が登場しました。スティーブ・ジョブズやホリエモンの言葉を引用し、「自分を追い込まないと意味がない」と現職からの退職を奨励し、「通勤は無駄。その分勉強に充てないと行けない。IT企業は渋谷に集中しているから渋谷近郊に住むべき」と説き、サンプルコードを写経しては表彰状フォーマットで単元ごとの修了書をつけ、分厚い紙の束をアウトプットとして候補者に持たせていました。教えを忠実に守ったその候補者は退職後に家賃10数万円の恵比寿に引っ越し、分厚いサンプルコードの紙の束を持ってキラキラとした眼差しで現れました。

 2017年頃はこのような極端な学校を除けば、キャリアチェンジを画策する社会人や、意識の高い学生が通うプログラミング学校が主流でした。学費は25万円程度。学生がそういったところに行ったとなると「意識高いね!」となっていました。

 2018年にはプログラミング学校が乱立し始めます。詳細は先のコンテンツと重複するのでそちらに譲ります。学費は80-100万円というのも多々あります。

プログラマを志すのは大学生だけではなく、社会人の方も増えました。プログラミング学校が乱立・過当競争になり、売り文句が過激化していった2018年−2019年。「現職より100万円多い給与」を信じた方は目の前に提示された年収200万円台に目を疑い、「1年でフリーランスになれる」と信じた方は忠実に1年でフリーランスに転向し、「自分を追い込むためには退職して背水の陣で挑むことが必要」だと言われて信じた人は前職のある程度の地位を捨てて転職活動をしています。どういうことでしょうか、これは。

 一時期は過激なLPを展開していましたが、2020年11月8日現在では煽り文句は控えめになり「手に職をつける」「フリーランスが目指せる」が主要なようです。ただ、入れ替わるように過激化しているのが情報商材であり、オンラインセミナーです。

経緯2:「エンジニア未経験層向けビジネス」の情報商材化

 現在、まさに炎上中の某氏のサイトを見ると下記のような記載があります。鳴りを潜めたプログラミング学校の勧誘合戦に入れ替わるように、派手な数字を出しながらオンラインサロンへの勧誘を進めている状況です。

 一応ですが、2019年のCTO nightで語られたCTOの年収についての記事も貼っておきますね。ボリュームゾーンは10-20万ドルだそうです。

 これはヒトである以上仕方のないことですが、同じ時間をかけるなら少しでも儲かる人材になれそうな方に集まりがちなものです。「こっちの水は甘いぞ」。プログラミング学校やオンラインサロンの門戸を開く方の多くは「現在の生活を変えたい」「自由になりたい(いつでもどこでも自由に働きたい、旅をしながら働きたい)」という強いモチベーションをお持ちです。これらはもしかしたら入会までの課程で喚起されたものかも知れませんが。

 こうした「現状を変えたい」というモチベーションに呼応するのが派手なウリ文句であり、オンラインセミナーなのです。そして少なくはない課金をしていくとどうしても「課金した自分の正当化」を求めるようになり、「信仰」が始まります。そしてここでも持ち出されるスティーブ・ジョブズとホリエモン。

 一度どっぷりと入り込んだ信仰を揺るがすのは高難易度です。個人的にも迷った人にアドバイスして好転したことは多数あれど、どっぷり信仰している人を変えたことは思い当たりません。そもそも厳しいことを言うことが分かっているようで、目の前に現れない。このIT業界に見られる「信仰」は別に譲りましょう。この信仰の壁をどうするべきか、時折宗教学や歴史学を齧っては難しさを感じています。

経緯3:フリーランスに憧れるが故の定着性の問題

 無事にエンジニアにキャリアチェンジできても問題は起きています。

 去年から今年のコロナ禍前にかけて確認された問題です。未経験エンジニアとして企業の門戸を叩き、スキルはないけど気概を買われて採用されたものの、1年きっかりでフリーランスや他社に転職する人たちがまとまって現れました。この珍シンクロニシティは冒頭のLPに対応付けられます。

「1年経てば自由に選択できる」

 これを忠実に実行しただけなんですね。ただコロナ禍の影響でビギナーフリーランスの多くは厳しい環境に晒されました。そして経営者は軒並み激昂し、「未経験者なんて採用しない!」「情けをかけた俺がバカだった!」と息巻く事態に繋がりました。冒頭のタケシさんのエントリはまさにその声を集めています。よく集めたなぁと思いますが、先輩がやらかすと同じ属性の後続が困るというのはいつの世もあるものです。プログラミング学校卒業者各位には、ぜひ後輩を意識した行動を取っていただきたいものです。

※11/10 1年で辞める問題についてリンクの追加

 一年ほど前、企業の人事の方に向けた採用セミナーで頂いた質問で「未経験者からの直接応募が多くて抽出に難儀している。どこの学校だと通してOKか」というご質問を頂きました。大学であれば学歴なので多少の地頭なりに基づいた足切りができるにしても(個人的にはその足切りは嫌いですが)、プログラミング学校はまず課金しただけであり、実に気の毒なお話です。その場はやんわりとご回答申し上げたものの、先のように入社後一年の時限爆弾が炸裂した格好となってしまいました。

現状:ズレた年収期待値とリセマラ志向

 驚きの歪みを伴った未経験者市場ですが、最もズレるポイントはプログラミング学校在籍中と、卒業後の実際のキャリアの年収です。

 まず、実際のエンジニア、特に年収の改定されやすいベンチャーの年収イメージは簡易な図にすると下記のようになります。リーダー・マネージャー・テックリード・CXOなど役職についたり、条件の良いところに転職するとやや大きめに上がりますが、あとは能力や行動・業績などに基づいた微増です。

 一方、未経験者が抱きがちな幻想年収はこんな感じ。プログラミング学校・オンラインサロンを経て人生一発逆転というパターンです。何故?ゴールドラッシュと同じで儲かるのは金を取る人達ではなく、スコップ屋でありジーンズ屋です。

「手に職をつけないと人生100年時代に困るシンドローム」もかなり蔓延しています。プログラミング言語やフレームワーク自体、数年単位で変化するので学び続けなければならないのですが。こうした投機に近いキャリアチェンジの妥当性については何とも言えないところですが、前職の年収が自分より高い人が何かを求めて未経験エンジニアとして門戸を叩かれるのはなんとも言えない気持ちでした。

 実際に未経験者で歩みがちな年収の推移は下記のような形になります。全くの未経験の場合、採用されたとして良くて200-300万円台がスタートだと思っていただくのが適当です。暫く我慢して就労しても、厳しさや年収の上がり幅が思ったようなものと違ってまた別の道(転職・フリーランス・全く別のなにか)に救いを求め、ゲームで言うところのリセマラに向かわれます。ある意味、積んでは崩す賽の河原のような様相と言えるでしょう。

オススメのキャリアプランA: 経歴のアドオンとしてのプログラミング

 私は前職では4名ほどのエンジニアへのキャリアチェンジを後押ししました。営業職2名、マーケ職1名、人事1名。キャリアチェンジの様相をブログにしてね!と伝えたものの気配がないのでいくつか要素をピックアップしてご紹介しておきます。

 キャリアチェンジを緩やかに実現する方法として、当該ポジションの業務効率化から始めるということをオススメしています。営業職にしてもバックオフィスにしても何かしらのデータに塗れていたり、非効率なExcelに囲まれていたり、パートさんを雇って人力で回しているところがあるものです。これらを自動化する。VBAだったりGASだったり、もしかしたらPythonやRPAかも知れません。この界隈で存在感を示すのが第一歩。現役エンジニアの師匠を見つけてコードレビューをしてもらったり、バージョン管理したりするのが第二歩。

 更に現職中にキャリアチェンジできれば更に良いでしょう。履歴書的にもダメージがありません。異動が認められなくても職務経歴書に書けるようなツールを作って、工数削減の実績を残すべきです。それを機に異動ができるやも知れませんし、受け取った企業も興味深く拝見します。

 現職が接客業や営業職など、対人コミュニケーションが苦でない方々であれば情シスもオススメできます。

 学習手段としてまとまったカリキュラムが存在しないと不安な人は、良心的なプログラミング学校に行くのも良いでしょうし、Progateを入り口にしても良いでしょうし、有償でメンターをつけるサービスに登録しても良いでしょう。

 ここで重要なのは先のキャリアにプログラミングスキルをアドオンするイメージです。現在の業務をしっかりと回し、業務フローを把握した上で、非効率なところをプログラミングにより自動化して解決する。ここがポイントです。先の業務を否定するのは先のリセマラ的キャリアになってしまいます。


オススメのキャリアプランB: 社会人大学生、社会人修士生

 本来、こうした学び直しは大学を頼ってほしいところです。社会人入学も良いですし、退職して再入学も良いでしょう。何せ履歴書にも書けますしね。AI・機械学習の椅子は埋まりつつあるので、ものづくり人材として帰ってきて頂きたく。

2021/3/16追記 まずはじめにやってほしいこと

 ITエンジニアを志すにあたり、まずはじめにやってみて欲しいことをまとめました。ぜひ一度ご一読ください。

オススメのアウトプット

 面接官が見たいのはTwitterのクローンでも、Instagramのクローンでも、メルカリのクローンでも、メルカリ風のクローンでもありません。

まとめに代えて:矢田地蔵尊のお話

 京都の商店街の一角に矢田地蔵尊というのがありまして、京都訪問時は必ずお参りしている場所になります。ここで祀られているお地蔵さんは、地獄の火焔の中で亡者を助けようと一心に働いている僧が起源とのことです。転じて人々を苦しみから救う代受苦地蔵となっています。

 現在の生活に悩み苦しむところに、ITエンジニアとしてのキャリアを差し伸べる。それをビジネスにするのはやむなしとして、単に儲かるからと食い物にするというのは、控えめに言って地獄です。それは教育ではありませんし、情弱ビジネスと言われても仕方がないでしょう。矢田地蔵尊で手を合わせる度に、ITエンジニアのキャリアの闇、特に未経験層のことを思い出してはどうしたものかと思い悩むわけです。

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