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【商品開発秘話-1】新潟の町工場アトツギのつぶやきを千葉のデザイナーがキャッチした話

こんにちは、千葉県でメイクスアンドシングスというデザイン会社を運営している眞鍋と申します。普段は町工場さんの製品開発・販促の支援や、最近ではデザイン経営フレームワークを用いた中小企業さんの新規事業開発支援をしています。

メイクスアンドシングスでは、2023年5月に初の自社製品『momo Rice Plastic Plate』を発売開始しました。廃棄されてしまうお米を樹脂化した新素材『ライスレジン®︎』で出来たファミリー向けの食器です。※ライスレジン®は株式会社バイオマスレジン南魚沼の登録商標です。

https://makesandthings.jp/

日々、町工場さんの製品開発支援をしていく中で、デザイン制作を受注するだけでなく、デザイン会社自ら企画し、思いを体現する商品を作り、自ら売ってみたいと考えていました。

2022年3月に開発スタートし、2023年5月に販売開始するまでの400日間。その間、胃の痛くなるような問題、一筋縄ではいかないものづくりの難局、協力者との別れ・・・色々ありました。今も万事がうまくいっているわけではありませんが、発売できた今は『チャレンジして良かった』と思っています。

このnoteでは、開発の裏側を複数回に分けて記して参ります。忙しい日々の中であっという間に忘れてしまいそうな、開発の日々を書き留めておかねばと思ったからです。ものづくりの話に偏っていますが、誰かのためになれば幸いです。あくまで私の経験談であり、HOW TO的な記事ではないのでその点ご承知おきください。

初回はライスレジン®︎を使った製品を作るきっかけとなった人物について書きます。


苦悩する新潟の町工場アトツギのつぶやき


メイクスアンドシングスでは日頃から仕事を通じて関東の多様な町工場さんと繋がっており、すぐにでも製品が作れそうな環境が周りにありました。が、今回自社製品の製造を依頼したのは、一度も会ったことのない新潟の町工場さんでした。

きっかけは1つのツイートでした。https://twitter.com/RyosukeUjita/status/1495414055892582400?s=20

投稿者の氏田遼佑さんは新潟県三条市にある(有)一成モールドのアトツギさん。プラスチック製品を作るために欠かせない金属製の型=金型を作る町工場です。車の外装・内装に使用されるプラスチック部品用の金型や調理器具の金型などを手掛けています。金型製造は非常に高度な技術・設備を保有していないとできないお仕事です。

金型ってお高いんでしょう?


金型を作ってもらう費用=金型費は一般的に高額です。私の認識では手の平サイズ程度の製品を作る金型でも100〜200万円くらい。耐久性が高い金属材料そのものの価格、緻密な設計に係る工数、切削から研磨までの工程、大きな金型の取り回しの手間など、理由あっての高額であり納得しています。が、やはり高額です。相当の生産数が見込まれている企画でない限り初期投資のハードルが高く、新規で金型を起こすのは小規模事業者にはぜったい無理と思い込んでいました。

そんな中で出会った氏田さんの前述のツイート。最初は私もこのツイートに面食らい、『この人、こんなこと書いちゃって大丈夫なのかな〜』と。しばらくは静観していました。次第に投稿に対する反応は増え、身近な製造業界隈では話題になり始めていました。同業の金型製造者の中にも『勇気ある投稿だ』と賛辞を送る人も。それに対する氏田さんの丁寧な受け応えをしばらく眺めながら、私はあることを考えていました。

若い金型職人が同じ日本にいて、苦しい中でも新しい販路を開拓しようと奮闘しているなんて、すごいなぁ・・・なんとか協力できないものかなぁ・・・

氏田さんのもがきに情が湧いてしまったのです。同時にこんなことも考えていました。

・過剰に複雑な形状でなければ手の届く価格で金型が作れるかもしれない
・従来のプラスチックとは違う、面白みのある素材で物作りがしたい
・自分や、自分の周りの人に使ってもらえるものを作りたい

ちょうど自身が個人事業から法人化したのも相まって何か新しいチャレンジもしてみたいという機運もあり、早速氏田さんにオンライン面談を申入れました。2022年3月のことです。

zoomの画面越しに現れた氏田さんは良い意味でフツーのお兄さんでした。専門用語を並べ立てず、丁寧で分かりやすく話してくださる気さくな姿が私をとても安心させてくれました。30代前半、と若いながらも色んな経験、苦労をしているからなのか、絶賛子育て中のパパさんだからか、年齢よりもずっと落ち着いてみえました。

初めましてのzoom面談。

ライスレジン®︎という提案


事業のことや自社の強みなどをプレゼンし合ったのち、氏田さんから『ライスレジン®︎を使った製品開発はどうですか?』という提案を受けました。私は数ヶ月前にサステナブルマテリアル展(通称サスマ)のバイオマスレジンHDブースでライスレジン®︎の存在を知ったばかり。面白い素材だなぁと思っていたところでした。

改めて写真を見返したら手前のグレーの人はバイオマスレジン南魚沼の弊社担当の方でした。

早速氏田さんに依頼しライスレジン®︎のサンプルを複数点提供していただきました。しかし、サンプルを受け取った直後は、正直『う〜む』と考え込んでしまいました。氏田さんと町工場仲間が独自で製作したお米の配合比率別テストピースは、色や質感に不安定さがありそのまま製品に使えそうには見えませんでした。お米という有機物が原因なのか、条件出しには時間がかかりそうな気配がしました。

しばらくはバイオマスレジンHDの資料を漁ったり、世界のバイオマスプラスチックの現状を調べる時間が続いていましたが、調べるほどライスレジン®︎への期待は高まってきました。廃棄されている米の現状、それを丁寧に管理・加工・製造するバイオマスレジン南魚沼の取り組みに、日本の未来の資源としての可能性を感じました。また2022年春当時はライスレジン®︎を採用した製品数は今よりも少なく、スピーディに開発すればまだ参入する余地があると考えました。

環境配慮型素材 × デザインを会社のフィロソフィーに

製造制約は未知のままでしたが、ライスレジン®︎を使った環境配慮型プラスチック製品を作ろう!と開発テーマを固めました。環境配慮は喫緊の課題、まずは自分達ができることからやってみる機会と捉えました。

同時にメイクスアンドシングスの自社製品開発におけるフィロソフィーとして【環境配慮型素材を用いた製品開発・デザインに特化する】と決めました。この時の判断は振り返っても良かったなと感じています。今でも様々な局面でこのフィロソフィーが役に立っています。

目標はギフトショー出展


半年後の2022年9月に予定されていた東京インターナショナルギフトショーLIFE × DESIGNへの出品をターゲットとしました。私が自社とは別で運営に関わっている町工場プロダクツ(メイカーズリンク)共同出展ブースを製品発表の場と定めました。ギフトショーは運営サイドで複数回参加していましたが今回は初めて出展社も兼ねることとなりました。この時、事前に補助金などを申請していなかったのでとりあえず自己資金で始めることとしました。何を作るか決まっていない中で金型費がいくら掛かるのか、このときは深く考えていませんでした。(この時の無策が1年後大変なことに・・・)

遠く離れた、新潟の地で発せられたアトツギの苦悩のつぶやきから、私たちの長い開発の日々が始まりました。

初回はここまでになります。
ありがとうございました。

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