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#53 ドミトリーでの出来事

※この文章は2013年〜2015年の770日間の旅の記憶を綴ったものです

旅の最初の頃は、他人と同じ部屋に寝泊まりするドミトリーが苦手だった。
アジアではホテルやゲストハウスの値段はそれほど高くなかったので、シングル・ルームに泊まっても、あまり大きな負担にはならなかった。ところがアフリカに来てから、南下するにつれて宿の値段はどんどん上がっていったので、贅沢は言っていられなくなった。10人近くのドミだろうが、男女共同のドミだろうが、できるだけ安い部屋を見つけて泊まる日々が始まった。

レソトのセモンコンで泊まった宿は、一番安い6人部屋のドミでも一泊145ランド(約1,300円)と決して安くはなかったけれど、チェックインした時、幸いわたし以外の宿泊者が一人だけだったので、大人数に気兼ねすることなく、比較的部屋を自由に使うことができると思ってホッとした。
相部屋の男性はドイツ出身で、今は仕事休みを利用してレソトを一人旅中だという。髪の毛が真っ白なため年齢不詳だったけれど、(元からの白髪の可能性を加味しても)顔立ちから、おそらく若くても40代後半~50代だろうと推測。

写真が趣味で、Nikonの立派なカメラを持っている彼は、この旅でも多くの写真を撮っているという。ちょうど今日、セモンコンの大きな見どころの一つであるマレツニャーネの滝を訪れたばかりだと言って、撮れたての写真を沢山見せてくれた。こだわりありそうな構図で撮られたそれらの写真にわたしが感嘆の声をあげると、写真を撮る時の心構えについてのアドバイスと、「最高の瞬間が来るのを静かに待つことと、パッションがあれば、必ず良い写真を撮れる」と言ってくれた。
そして、「もし良かったら僕が撮った写真をデータで送ってあげる」と言い、メールアドレスを教えてくれた。レンタカーで旅をしている彼は、翌朝4時にここを出て、レソトの絶景で有名なサニパスに行くとのこと。早朝の出発準備を詫びると共に「もしうるさくても、気にしないで」と言って、夕食をとりに出て行った。

その日も長時間のバス移動で疲れていたわたしは、8時過ぎにはベットに入って眠りについた。そのせいか、まだ真っ暗な中で、弱々しく鳴った彼の目覚まし時計の音で目が覚めた。ちょうどトイレに行きたい気もしたので、ベットから起き上がって「Good morning」と言うと、彼は驚きつつも、起こしてしまったことを詫びた。

昨日沢山の写真を見せてくれて、写真についてのアドバイスもくれたので、わたしはまだ眠たかったけれど、彼の出際に「Have a good journey」くらいは言うつもりで、ベットに座っていた。準備の整った彼がわたしの所へ来て「それじゃあ」と言うので、立ち上がって挨拶をすると、西洋人らしくハグ。そして何かをつぶやいた。

寝ぼけ頭でよく聞き取れず「え? え? What?」と3回ほど聞き直したわたし。
そして、ようやく彼が何を言ったのか理解した。
「Do you want to have sex?」 そう彼は言っていた。
「!」「No! No! No! No!」 ものすごい勢いで否定するわたし。

すると「Oh, don’t be afraid…」苦笑しながらそう言って彼はドアの方へ行き、「僕が出た後、もし一人で恐かったら、ドアのカギを閉めたらいいよ」と笑顔で去って行った。しばし呆然とした後、脱力してベットに座り込んだわたしは、その後はもちろん一睡もできなかった…。

このエピソードを人に話すと、驚き笑われると共に、わたしの行動にも誤解を招く余地があった、と何人かから指摘され、猛省。今後ドミトリーでは、よっぽど親しくなった女性以外には「絶対に夜の見送りの挨拶はしない!」と心に誓った。

いろいろあったけど、素朴な子供達に癒された…
いろいろあったけど、素朴な子供達に癒された…
いろいろあったけど、素朴な子供達に癒された…
いろいろあったけど、素朴な子供達に癒された…

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