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#63 乾季にウユニ塩湖で鏡張りを見る

※この文章は2013年〜2015年の770日間の旅の記憶を綴ったものです

念願のウユニ塩湖の鏡張りを見たのは、5月20日の夜明け。
チリを出てボリビアに入国したのが5月17日だっただけに、正直なところ、今回鏡張りを見ることは、9割がた諦めていた。鏡張りと言えば雨季。この時期は、乾季に突入して既に2ヶ月近く経っていた。

ところが「乾季でも雨が降れば水の張っている所はある」という話しをブエノスアイレスに居た時に聞いたので、ウユニの町に着いた時、ダメ元で旅行会社を訪ねてみた。すると、本当に「水はある」と言う。ここ数日の間も、何人もツアーで鏡張りを見に行っていると言う(塩湖内の見どころを周って、最後にサンセットを見るツアーが、この時期でも毎日催行されていた)。

驚いた。水があるというのなら、見に行かないわけにはいかない。
ただ時期が時期だけに、日本人が大挙して訪れる時期はとっくに過ぎていたので、車をチャーターするのにちょうど良い人数を集めるのは、さすがに難しいらしい。ウユニにそれほど長く滞在するつもりの無かった私は一人で行くことも覚悟していたら、幸運にも「誰か見つかれば行きたい、と言う日本人の女の子が昨日来たよ」と言われた。即座にその子と連絡を取れるよう手配をお願いした。そして、我ら二人で車をチャーターし、翌朝4時にウユニの町を出発して、サンライズを目指すことが決まった。

乾季、つまり冬に突入しているウユニの早朝は、極寒。
30分ほど車で走って水のある場所に着いた時、「わぁ~!!」と感嘆の声をあげ、二人して車の外に飛び出したはいいけれど、そのままサンライズを待つことは到底できず、数分後にはヒーターの効いた車の中に逃げ込んだ。旅行会社で借りたゴム長靴をはき、可能な限りの重ね着をして挑んだけれど、この寒さは尋常じゃない。よくシーズン真っ只中に訪れた人の写真を見ると、水中でサンダルをはいている人が居たけれど、少なくともわたし達の行った時期にそれはあり得なかった。かじかんだ手足を車の中で必死に揉んで、感覚が戻ってくると外に出る、それをサンライズまで何度か繰り返して待った。

南米周遊や世界一周の旅をした人が挙げるランキングを見ると、必ずと言っていいほどランクインしているウユニ塩湖の鏡張り。たしかにこの絶景、日本では(および近郊でも)そう簡単に見られるものではないだろうから、その希少性や神秘性な趣さえ感じる絶対的な美しさに、否定の余地はない。

けれどもここ数年のブームで、「世界の絶景ランキング」にはほぼ必ずと言っていいほど素晴らしい写真がこれでもか、というほど掲げられているし、旅人のブログやFacebook上にも、鏡張りの写真が溢れている。そのせいか、わたしに関して言えば、想像を超える圧倒的な感動を味わうことはできなかった。
むしろ二年ほど前、この旅に出ることを計画し始めた時に、ある人のブログで初めて「ウユニ塩湖の鏡張り」という写真を見た時の方が、感動は大きかったように思う。

まぁ、よく言われることだけれど、予備知識や期待が大き過ぎると、感動しにくく幻滅しやすい、というのは常識。もちろんこの景色を見て幻滅は全くしなかったけれど「ずっと来たいと思っていた所に来れた」という達成感?の方が大きかった。

わたしに関して言えば、これまでの旅の経験を振り返ってみても、例えどんなに有名所であれ、事前にあまりビジュアル的情報に触れていない方が新鮮な感動は大きい。そして何より、ただ視覚に訴える景色よりも、そこに至るまでに(あるいはその場で)、何かしらの体験やエピソードを伴っている方が、圧倒的に心に深く刻まれるのだ

まぁ、旅を長く続けていると「絶景ボケしてくる」とか「感動のヒダが鈍くなる」というのもよく言われる話しで、実際こんな風に行きたい所を好きなように巡る旅をしている身としては、贅沢な悩みとしか言いようがない。

その年の状況にもよるけれど、オン・シーズンを外した鏡張り体験は、実は結構な確率で成立する模様。
「旬の時期には行けないけれど、どうしても」という人は、乾季に入ってからでもチャレンジする価値は十分あると思う。
メリットは、人が少ないこと → 360度どこでも自分達だけの写真を思う存分撮れる。 まさに独占。
(実際わたし達の他には、誰一人居なかった)
デメリットは、人が少ないこと → 車をチャーターする負担額が大きい(一人でチャーターする覚悟が必要)。
そして、極寒。

極寒の中、東の空が徐々に橙色に染まるのを眺める
極寒の中、東の空が徐々に橙色に染まるのを眺める


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