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『本日は大安なり』

#note100本ノック
Day 70

文学を読む度胸を持とう、と決めた。

そして、手に取ってしまったのは…
またしても、辻村深月。

辻村深月(2011)『本日は大安なり』.角川書店

こちらは、わたしが出会った3冊目の辻村作品なのだが…ひとことで言えばかなり好き!

爽快で、読後感もよく、もう一度読み返したい作品であった。前に読んだ2作は、なんだか心がえぐられるような苦しさがあったのだが、この作品は一歩引いたところから眺めていられる安心感があった。

読むことで感情が揺らがず、それでいて現実世界からはきちんと離れさせてくれるような。こういう本が必要なときがある、そのために持っていたい本だと思った。(残念ながら、図書館で借りたので返却してしまうが)


価値観は植えつけるもの

本のなかの幾人かのキーパーソンのなかに、ウェディングプランナーの山井多香子がいる。彼女の上司が語る、会社の方針がこちら。

価値観とは植えつけるもの。

辻村深月(2011)『本日は大安なり』.角川書店.pp306

莫大な金額を要する結婚式では、式の準備をしている間、お客さまがハイになる、通常では考えられないような一日の消え物への出費を「ウェディングとは、そういうものです」という合言葉で懐柔し、金銭感覚を麻痺させるのだ。

辻村深月(2011)『本日は大安なり』.角川書店.pp306


彼女はこの方針を受け入れようとしながら違和感を感じ、やがてあることがらをきっかけに正面から対峙しようとしていく。

わたしが感じた読後感は山井多香子の仕事への向き合い方、葛藤、そして乗り越えていく展開の爽快さから来るものだと感じる。

彼女は会社のピンチの局面において、この方針を超える価値観を提示することで、その違和感を自ら超えていく。

わたしはある意味、教育における学校で植えつける価値観に閉口し、そこから立ち去ってしまったような人間なので、こんなやり方があるのだなあと感心しきりだった。


目黒雅叙園

学生時代に熱中したアルバイトがいくつかあったのだが、そのうちのひとつが目黒雅叙園での仕事だった。たくさんの結婚披露宴に配膳として関わったが、わたしはその仕事が大好きだった。

いわゆる「親族席」を任されることも多く、お料理を配膳することに加えて、新郎新婦のご両親をはじめとしたご家族ご親戚が、心地よく立ち回れるような配慮をすることが仕事のひとつでもあった。

この本を読みながら、もうすっかり忘れて記憶の引き出しにしまいこんでいたその頃の想いがよみがえってきた。

一般企業への就職を考えていたわたしは、雅叙園でのアルバイトを通して、そういえばウェディングプランナーという仕事にも興味を持っていたなあ、ということも思い出した。

この本では、新郎新婦の想いを実現するお手伝いをするというウェディングプランナーの仕事の楽しさや厳しさが描かれていたが、それはどこかで学習者の想いの実現のお手伝いをするという教員の仕事にも通じている気がした。

自分の関心のあることって、深いところで必ずつながっているのかもしれない。


励まし

だからこそ、この本で彼女がやり遂げたことは、学校教育に絶望しかけているわたしに励ましを与えてくれたのかもしれない。

とにかく、この本はもう一度読みたい。
そして、まだまだ辻村作品を手にとってしまいそうなわたしなのであった。

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