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FFX歌舞伎感想~FFXの原作が大好きで、ただ歌舞伎Verはどうかな、そもそも長すぎるよな、と思っている人へ。

FFX歌舞伎をみにいった。原作が大好きで、ただ前編・後編と、休憩時間を合わせて9時間という拘束時間の長さ。役者さんの後援会に入っている友人に声をかけてもらわなかったら、観たいという気持ちだけで終わっていたかもしれない。それくらい、上演時間の長さがひっかかっていた。

当日になっても、もしかしたら途中で帰るかも?と思っていた。先週末も子を置いて1泊2日で旅行に行っていたばかりで、豊洲で21時に終演、帰宅22時見込みはさすがに、と思った。が、実際は第1幕が終わってすぐに、家族には謝り倒して、最後までいることにした。
幕間に本を読もうと持参したけれど、全く読む気にならず、観劇の帰りには感想をTwitterに呟くのが習慣だけど、何を呟いたらいいのかわからないくらい、胸がいっぱいだった。家に帰り、子どもを寝かせながら、舞台を思い返したら泣けてきた。いったい何が良かったのか、をこうして翌朝になって思い返してもうまく言葉にならず、ただ「よかった」ということを、FFXは好きだけれど、上演時間の長さにひっかかっている人に何とか伝えたくて、これを書いている。

そもそもFFXをゲームとしてプレイしたのはもう20年以上前のこと。にも関わらず、一幕冒頭、ティーダがファンに囲まれてサインをねだられている場面、ザナルカンド・エイブスという単語、シンに襲われアーロンが現れ、言葉を交わし、そしてビサイド島でティーダとワッカが会う場面まで一気に駆け抜けた時に、私にとっていかに「FFX」という作品が特別だったかを思い出した。色々なコンテンツをこれまで手にとってきたけれど、こんな細部まで記憶に刻まれている作品はないんだと気が付いた。そして私が強烈に感動した最初の場面が、ユウナの異界送りだった。

ワイワイガヤガヤ進行していたストーリーが原作でもこの場面からぐっと深刻さを纏うのだけれど、この世に留まりたい死者を強制的にこの世から追い出す、そんな悲しいけれど、ただ本当に美しい儀式が、原作ゲームの世界から飛び出した、というか、そもそもこちらがオリジナルで、ゲームがそれを忠実に再現したのではないか、そんな気持ちになった。そしてそんな気持ちになった箇所は、この場面だけではなく、ほぼすべての場面が記憶と現実が融合して進んでいった。

そもそもなぜFFXを歌舞伎にしようと思ったのか、は、企画/演出/主演の尾上菊之助さんが、コロナ期間中、公演がままならない時期にFFXを再びプレイしたことがキッカケだという。改めてすごいストーリーだと感じ、ビジネス的なプレゼンではなく、原作愛をビデオレターにしてスクエア・エニックスに送り、そこからこの公演が実現した。そんな舞台をみて思ったのは、FFXが私にとってだけではなく、尾上菊之助さんをはじめ、多くの人にとって特別な作品だということ。冒頭から私だけではなく泣いている人が多かったのは、FFXという作品が、いかに自分にとって特別かに気づいたからではないかと思う。そして同じ思いで舞台を作った人たちがいて、その作品に対する強い思いが、舞台と客席で共鳴しあった9時間だった。

ここ数年、毎年100冊以上の本を読んできて思う。細部を覚えていられるような作品なんて、その中のほんの数冊にすぎない。ましてや20年以上前にプレイしたゲームのストーリーどころか細かい場面を鮮烈に覚えているなんて、本当に奇跡みたいなことなのだ。ただ、生きている中で、本当に稀にそんな作品に出会うことがあって、そしてそんな作品に出会った私達が更にラッキーなことといえば、超一流の表現者もFFXに出会って、そしてそれを舞台にしてくれた。

ビジネス的なことを考えるなら、3時間くらいにまとめ、2回転させた方がよっぽど儲かるのではないかと思う。ただそれをしなかったのは、作品愛が故だと思った。3時間におさめるなら、あの原作のどこかを大幅に削る必要があり、帰る時に、「FFXの名場面を集めた歌舞伎の舞台をみた」とは思えても、今の私みたいに「FFXを舞台でみた」とはいえなかったのではないかと思う。

FFXの原作が大好きで、ただ歌舞伎Verはどうかな、と思っている人へ。すごくFFXです。絶対みた方がいいです。チケット、まだあるみたいです。長いけど、通しでみた方がいいです。席はどこでも、絶対に、楽しめると思います。


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