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75.コルネットのくしゃくしゃ

 コルネットの修理に銀座に行った。コルネットはヤマハ製、ヒカシューがデビューした頃、購入したので、かれこれ40年近く経つだろうか。ベルがつぶれ、三ヵ所がへこみ、バルブ近くのハンダが弛んでいた。コロナのおかげで楽器の修理の時間ができたともいえる。
 1989年の3月に、作曲家でピアニストの三宅榛名のイベント「飛行船日誌vol3 偶発バンド」に、ぼくは参加した。ゲストは他にトランペッターの日野皓正。このイベントでぼくは、ベースを弾きながら歌ったのだけど、日野皓正との共演というめったにない機会だったので、自分のコルネットを持参していた。日野さんはその頃コルネットを吹いていて、ヤマハから日野皓正モデルをだしていた。ぼくのコルネットはその日野皓正モデルであった。
 楽屋にそれとなくコルネットを出しておくと、日野さんが気づいて、「これ誰のコルネット?」と訊いた。「ぼくのです」「おお、いいね。一緒に吹こうよ」と気軽に言ってくれた。渋谷ジャンジャンのステージで、ぼくは日野皓正とコルネットデュオをした。
 そんな思い出のコルネットである。そう簡単に廃棄するわけにはいかない。
 しかし、あまりにひどくベルがくしゃっとなってしまっていて、これをきちんともどすのは難しいようだ。ある時、主催するJAZZ ART せんがわのステージ袖で、やはりトランペッターの沖至が、ぼくのコルネットのベルのくしゃくしゃをみて、「ちょっとかしてみて」と、なにか金具のようなもので、いきなり直しはじめた。20分か30分か、沖さんはずっと集中して直してくれた。ベルは驚くほど回復して、カタチはなんとか整ってきていた。それでもまだまだ直したいようだった。「これけっこういい音するね」とも言ってくれた。
 1974年に渡仏して、トランペットのコレクションと製作に興味を持った沖至は、リオンの工房で、トランペット製作と修理を習い、自作の特殊トランペットを自作している。
「貴族の狩猟用のラッパがあるんだけど、あれよくベルをつぶすんだよ。よく修理したんだよ」
 ベルのつぶれをみて、直したくなった気持ちがよくわかった。本当にトランペットが好きなことも。これでますますぼくのコルネットは貴重なものになった。この楽器をいつまでも吹けるように、修理してもっと大事に演奏していこう。

2020年11月


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