『フリークス』と『うわさの人類』の関係

『フリークス』は、トッド・ブラウニング監督が1932年にハリウッドで製作した映画である。当時一度は公開されたものの、30年間上映禁止だったという。日本では『怪物団』という邦題で一週間上映されたそうだ。舞台は移動サーカス小屋。登場するのは、小人のハンスとフリーダ、半男半女のジョゼフィン・ジョゼフィーヌ、シャム双生児のディジーとヴァイオレット、それに鳥女、ヒゲ女、胸だけ男、がりがりの骨男、とんがり頭ピンヘッドなど非常に不思議な人体を持った人々だ。

 ぼくはこの映画を佐藤重臣さんがアメリカから買ってきたコレクションとして1980年に観た。文芸評論家のレスリー・フィードラーがトッド・ブラウニングへオマージュを捧げた『フリークス 秘められた自己の神話とイメージ』という本が1978年に出版されたのを契機に、アメリカではトッド・ブラウニングへの再評価の機運が高まり、1979年にはニューヨークのシェークスピア劇場でトッド・ブラウニング・フェスティバルが開かれた。その流れの中で重臣さんが手に入れてきたのだと思う。
 物語は、財産目当てでハンスと結婚した空中ブランコ乗りの美女クレオパトラが、ハンスを毒殺しようとし、ハンスの仲間たちが復讐するというものだが、その物語よりも登場する人物たちの身体から放たれる輝きに心を奪われた。
 特に最初の方で、林の中にカメラが近づいていくとハーモニカを吹いているがりがりの骨男の周りでみんながロンドを踊っている場面は本当に素晴らしい。不思議の国に迷いこんだアリスのような気分だ。これはドラマというより夢のドキュメンタリーのように思えた。切り株から手を使って降りる足のない男のハンサムなこと。ここが天国かもしれないという幸福感に満ちている。それを敷地の主人と番人に発見されて、サーカスの世話役のテトラリニ夫人がとんがり頭たちを抱きかかえ「子供たちを日光浴させていたんです」と言う。「子供? 怪物じやないか」という番人を制して、「いいですよ。歓迎します」と言ってくれる主人。その時のまさに「子供たち」の無垢な表情も忘れられない。
 フェデリコ・フェリーニが影響を受けたというのが、よーく納得できる映画でもある。

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