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24.ジョン・ゾーンの還暦記念

この年のFIMAV(Festival International de Musique Actuelle de Victoriaville)の大きな目玉は、ジョン・ゾーンの60歳を記念しての特集だった。ぼくの大切な友人でもあるジョン・ゾーンはこの年各地のジャズフェスティバルや現代音楽祭で特集が組まれていて、その一端を垣間見るまたとないチャンスであった。
 午後2時からは弦楽を伴ったジョン・ゾーン作曲の現代曲やアカペラコーラスを町の映画館で観て、4時からはホッケー場の特設ステージで、マイク・パットン、ショーン・レノン、ジェシー・ハリス、ソフィア・レイ等が詩を提供しているソングプロジェクトを聴く。マイク・パットンは歌から叫びに至るまで見事に手中にして見ごたえがあった。その後はジョン・ゾーンによる快適音楽の試みであるドリーマーズ。そして、ザッピング感とスリル満載のネイキッドシティと続き、これだけでもゴキゲンだった。
ぼくらはFIMAVの会場であるヴィクトリアヴィルの町を散歩し、ヴィクトリアヴィル的な味の夕飯(カナダケベック州はフレンチにも関わらずなぜかイギリスぽいもの)を食べ、ジョン・ゾーンの音楽と仕事について語り合った。その旺盛な創作力や、ニューヨークのライブスペースthe StoneをはじめCDレーベルのTZADIKを運営するプロデュース力。そのどれもがずば抜けている。60歳までにジョン・ゾーンが創作した広範な音楽の仕事の深さを感じるとともに、果たしてぼくは60歳までにこれほどの仕事ができるだろうかとも自問した。ジョンとは3つほどしか年は変わらない。つまり3年後にはぼくも60歳なのだ。「なにかできるといいなぁ」とぼんやりとしかも自覚的に思った。ジョンはいつもぼくに強烈なエールをくれる唯一無二の友人である。
午後7時半からは、 « Moonchild : Templars »を観た。Moon Childというマイク・パットン、ジョーイ・パロン、トレバー・ダンによるトリオにジョン・メデスキーがオルガンで加わったグループである。マイク・パットンのスピード感ある破壊力のシャウトが畳みかける。
10時からは、最近のジョン・ゾーンのメイングループであるThe DreamersとElectric Masadaの公演。このふたつのバンドメンバーがほぼかぶっている。
そして、深夜は教会でジョン・ゾーン自身によるパイプオルガンソロで幕を閉じた。
これだけのヴォリュームの仕事をやり終えて、さぞ満足だろうとジョンと話しをすると、フェスティバルの対応に不満げだった。ドイツのメールスでもここヴィクトリアヴィルでも、これだけやったのに感謝されないというのだ。それがどういうことなのかはぼくにはわからないのだが、仕事をした分、向こうから返ってくるものが少ないと確かにがっかりするものだろう。
 しかし、世界各地で開催された60歳記念が、日本で開催されないのは本当に悲しい。ジョン・ゾーンが日本の音楽シーンに与えた影響を思えば、本当におかしなことだと思う。

2013.5.19 巻上公一


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