ヒカシューPIANOS2013

25.ジョニー・スタッカート

  海外に出ると、ランチを友だちとする。これはぼくの普段の生活にはないものなので、とてもうきうきする。この日は、マンハッタンの東9丁目にあるお寿司屋さんで待ち合わせだ。友人のギタリストの誕生祝いだという。プレゼントはニューヨークの中でもニューヨークらしいインディペンデント映画の巨匠ジョン・カサベテスが撮ったテレビシリーズのDVDだった。タイトルは「ジョニー・スタッカート」。1959年から1960年にかけての7ヶ月間NBCで放送された全編にジャズが流れる探偵もの。ちょうど出たばかりらしい。
「これは持ってる?」
「貴重だね。ありがとう」
日本でも放送されたことがあるようだが記憶に無い。今度ビデオ屋でみつけたらぼくが買いたい。カサベテスは大好きだ。だが、どうも日本版は出ていないようだ。
同じ寿司屋さんには知り合いも食べに来ていた。ブルックリンのグリーンポイントにスタジオを持っているベーシストでプロデューサーだ。彼は10歳くらいの息子と来ていた。息子はランチなのにダースベーダーのマスクをつけたままだ。どうやって寿司を食べるのだろう。
この日の夜は、ヒカシューのライブだ。誕生日の近いギタリストは娘と見に来ると約束した。
ヒカシューのライブ会場は、録音していたスタジオのそばで、PIANO'Sという名前だった。さぞかし素晴らしいピアノがありそうな名前なのに、ここにあったのはチューニングを最近してないアップライトピアノだった。この企画を手伝ってくれたのは、ヘイデン・ブレレトン君で、ジャパンソサエティーのSさんが紹介してくれた。PIANO’Sはなかなかの繁盛店であるが、ライブ会場はおまけのようなものだ。ぼくのテルミンの音を増幅するアンプはなく、なぜかアコーディオン用の小さなアンプに入れて音を作った。なぜここにアコーディオン用のアンプだけがあるのか。その方が謎である。大都市でも小さな会場はニューヨークに限らずこのようなもの機材が不足している会場が多い。日本なら中都市程度までなら立派な機材のあるライブ会場がたいていある。そんな日本に慣れていると、ニューヨークのライブハウス事情はかなりびっくりものだ。
たぶん機材はやたらにいいのがあると盗まれてしまうのだろう。だからミュージシャンが持参でくる。それが普通になっている。
しかし、ここニューヨークから日々興味深く、世界に発信していく音楽が作られていると思うと、とても不思議な気がする。
PIANO’Sは、友人たちの家に近いらしく、昼間ランチしたマークは娘と、カナダで会って来ると約束したドラマーのジョーイも見に来てくれた。まるで映画の中にいるみたいだ。ぼくらはとんでもなく盛り上がった。
「ジョニー・スタッカート」はまだ観ていない。2013年5月24日


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