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40歳からのライターDAYS⑤~始動3~

目の前のコップに水が半分入っている。

世の中には「やった、半分も入ってるじゃん!」と喜べる人もいるらしいが、私は「ああ、水は半分しかないんだ」とがっつり落ち込むタイプだ。

失敗するのが怖く、勝てる勝負しかしたくない。つねに他者からの評価も気になるし、多分、自己承認のバランスもガッタガタ。

が、この時ばかりは「誰かの評価が怖い、落とされたらどうしよう」なんてつべこべ言っている場合ではなかった。

絶望して泣くのはさんざんやった。1回ほとんどの希望を捨てた。多くのことを勝手に諦めた。ここで一歩踏み出さないと一生家の中でテレビとPCだけに向き合う人生になるかもしれない。

だから下手でも何でもその時のベスト原稿を作って、キャリアの無い人間にも門戸を開いている場所に送った。必死だった。

ひとりで歩く恵比寿の街はまぶしくて、気後れしながらエレベーターで綺麗なオフィス階に上がり、連絡をくれたA社のプロデューサー・Bさんと初めて挨拶を交わす。第一印象は「音楽やってた人かな?」どこか宮藤官九郎さんに雰囲気が似ている。

Bさんから言われたのは「文章力も経歴も問題ないと思います。まあ、文章に関してはこれからのテスト期間内にブラッシュアップしていくことになりますが。それよりひとつ提案がありまして」

えっ?

「じつは、ご希望のミュージカルガイドですが、先ほど2人目の内定が出て枠が一杯なんですよ。上村さん、よかったら演劇……せりふ劇の分野で書いてもらえませんか?」

は、はあ。

「じゃあまず、2本ほどテスト記事を書いて僕の方に送ってください。ネタはお任せしますので」

あ、あの、使用する画像の許可取り等、興行元との交渉はBさんにお願いすればいいんでしょうか?

「いや、ウチの場合、ガイドさんご本人にお任せしています」

……お、おう(心の声)。

「テスト期間中に書いていただいた記事が一定のクオリティに達していればサイトに掲載します。それが正式な採用となります」

恵比寿を出てバスで帰宅するために渋谷に戻り、宮益坂下のゴンドラン・シェリエで遅いランチを摂る。

1歩進んだ……小さな窓はまだ開かれてた。

嬉しくて幸せでパンを食べながらちょっと泣いた。

Twitter @makigami_p



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