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Voi.10【有吉弘行の転換から読み取る次世代芸人の軸】

【有吉反省会】(NTV毎週土曜日23:30~23:55)が2021年9月をもって終了する、という発表があった。この世の万里は栄枯盛衰とは言うものの、この番組に関してはMCの有吉弘行本人から終了の申し出があったという噂である。

通常、テレビ番組は制作会社やスポンサー、事務所や局の意向が複雑怪奇に絡み合い、一方では続けたいのにもう一方の思惑で強制終了という事態は珍しくないが、そこで最前線に立つ出演者自身の意向が反映されるのは稀である。それは某グラビアアイドルがラジオの生放送で不意打ち行為による半強制自主降板が話題になったことでも明らかだ。

しかし今回は出演者本人の要望を局が聞き入れ、了承した円満終了の形がとられている。各媒体の記事によれば今年結婚した有吉が、家庭を大事にするために仕事をセーブし始めたとされている。勿論それは理由の一つだろう。

しかし私はここで少し穿った見方をしてみたい。この番組の司会は有吉、レギュラー陣に博多大吉、バカリズム、大久保佳代子、友近、指原莉乃となっている。20代バラドルの頂点に立つ指原以外はなかなかの高年齢域に達したメンバーだ。有吉47歳、大吉50歳、バカリズム45歳、大久保50歳、友近47歳(2021年6月30日現在)。

彼らを20代の頃から見ている私のようなボキャブラ&オンバト世代からすれば、TV界の第一線を続けている彼らを見られることは非常に喜ばしい。だが少し前に松本人志がコア視聴率について言及しているように、現在のTV番組はスポンサー受けの良い視聴者層をコア視聴層と呼び、13歳から49歳までの男女をメインターゲットとした番組作りが進行している。有吉自身は日テレで、有吉反省会以外にも【有吉ゼミ】【有吉の壁】をゴールデン帯で受け持っている。この2番組と比べると、【有吉反省会】出演者がいかに高年齢化しているか分かる。ゲスト出演者に若手俳優や若手芸人を持ってきても、あくまでゲストという枠であれば若年層の固定客を掴み続けるのは難しい。

ここで誤解のないよう述べておくが、私は別に彼らのことが嫌いなのではない、むしろ好意的な存在だ。博多華丸・大吉は鶴屋華丸・亀屋大吉時代からその安定感抜群の漫才の虜だったし、バカリズムがコンビ時代に披露した【ラジオ挫折】は今でも見返す程だ。

だが、押し寄せる世代の波という抗い難い流れが存在するものまた事実だ。TBSでは霜降り明星がMCを務める【オトラクション】を始めとし、数多くの番組で20代後半から30代前半の芸人が活躍している。フジテレビでも【新しいカギ】【Do8】など、ここ数年賞レースやバラエティ番組で結果を出している面々が前線に出てきている。

そして、有吉本人が看板となっている日テレの【有吉の壁】を見るに、彼自身がお笑いの最前線から一歩引いて、若手に道を譲る段取りを始めたのではないか、と思いたくなるシーンが散見される。

まずは進行形態。有吉自身は完全に脇に徹し、〇と×で芸人のネタに対してフォローするだけの存在である。それはまるでかつての【内村プロデュース】(テレビ朝日、2000年~2005年)の内村光良を彷彿とさせる。有吉本人が語っているように、彼はこの番組で猫男爵として不定期から定期出演を果たし、番組後半を支えた。だが、その起用に至るまでの段階まで紐解けば、有吉の持つ【大喜利力】が多大な貢献を果たしている。彼は当時番組内の大喜利では無双状態だったさまぁ~ずに肉薄するほどの技術と力量を見せ、ただのアイドル芸人ではないことを内外に示した。その後様々な場面で起用されることになり、他番組でも頭の回転の速さと一度ブレイク後どん底を見たという無二の芸風を生かし、【アメトーーク】での再ブレイクにつなげることが出来た。

そして特筆すべきは若手との絡み方だ。【有吉の壁】でとにかく明るい安村やシソンヌ長谷川、パンサー尾形と絡む様子は、【内村プロデュース】で内村が出川哲朗やレッド吉田、ふかわりょうの良さを引き出した部分と重なる。一歩間違えれば大火傷しそうな滑り方に対して、彼独自のサゲ方で見事に笑いに昇華されている。ケツ持ちを有吉がしてくれることの安心感は、現在では他に類を見ない。

つまり有吉は時代の転換期を読み取り、いち早くその準備に入ったとも読み取れる。あと3年もすれば有吉も50代になり、コア視聴者層の枠から外れていくことになる。【水曜日のダウンタウン】におけるダウンタウンも、自身は進行とパネラーに徹し、企画のプレゼンや演者は若手に任せている。

所謂【おしゃクソ事変】で世間的にも再び受け入れてもらえた有吉だが、そこに至るまでの過程は【内P】時代に凝縮されている。彼は自身の冠番組を通し、自身が通った道を若手にも示すことで、次世代の軸を生み出すトリガーとなれる存在である。あとは果たして誰がその引き金を引けるのか、私たち一般視聴者がそういう視点でバラエティ番組を見てみるのもまた一興だと思う。


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