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Vol.6【マヂカルラブリー野田が切り拓いた新しい掛け合い漫才への期待】

今年はコロナウイルスを筆頭に色々な情勢不安が我々に襲い掛かりました。不景気な時はお笑いが流行るという格言もありますが、そこにはやはりこのもやもやした気持ちを笑いで吹き飛ばしたいという願望の表れが根幹にあると言えます。そして今年のお笑いを総括し、来年への希望を魅せてくれる企画が皆様ご承知の通り【M-1グランプリ】ではないでしょうか。キングオブコントもR-1グランプリも、この大会に勝る盛り上がりはそうそう無い位、お笑い界での地位確立に成功した番組と言えるでしょう。

そのM-1グランプリ2020全参加組数5081組の頂点に立ったのは、R-1ぐらんぷり2020でも優勝した野田クリスタルと、本名が鈴木なのに村上を名乗る二人が結成したコンビ、マヂカルラブリーでした。彼らは2017年の決勝最下位をバネに無事雪辱を果たし、野田は残るキングオブコントも取って史上唯一の三冠を果たす宣言も出しました。その飽くなき向上心がこのコンビを支えているのでしょう。

彼らのネタは所謂 ”野田のキャラクター勝負” に尽きますが、例えば決勝1本目に見せてくれた【冒頭1分弱を丸々前振りに使う】等のテクニックも見せてくれました。そのキャラクターの濃さだけで言えば錦鯉の長谷川にこそ見劣りはしますが、野田の暴走に歯止めをかける役割の村上が3年前とは明らかにその重要性を増していました。野田に対する村上の ”意見” に共感を観客に対して問うネタが彼らの持ち味だと思います。

そして運命の2本目ですが、ここで賛否両論を呼ぶことになります。最終決戦のネタは野田が全身をフルに使って電車の乗り方を指南。これは1本目のテーブルマナーと構成は似ていますが、より野田の動きに重点を当て、村上がひたすら解説しながらその異常性を解説するネタでした。私はTwitterでこれを【チャップリンの無声映画を副音声で解説する水野晴郎状態】と評しましたが、一部の層にはこれを漫才とは言えない、コントじゃないかと批判する人もいました。

ですがそのお門違いな批判は批判者自身の無知を拡声しているようなもので、見ていて実に白々しさを覚えましたね。そもそもあれはコントとも言えません。コントとは元々寸劇や短編物語ないし軽演劇を指す言葉ですので、野田がひたすら舞台上で謎の行動をとり、それを村上が解説するだけではコントにすらなっていないのです。

もしあのネタを野田が舞台上で一人でやっていたら、それは間違いなくコントに分類して然るべきネタであるとは思います。ですが、そこに村上が野田の行動に対する解説を行い観客にその原理を伝達することで、立派に漫才に分類されて当然なのです。もっと言えば、野田は【ボディランゲージ】で話しかけ、それを村上が通訳して判り易く観客にその滑稽さを伝えてくれた、つまり表現方法の解釈の問題だけなのです。

そもそも『俺、○○に興味あるんだよね。ちょっとやってみたいんだけど』の下りでネタを展開すること自体、コントと一緒じゃないかと思える節がありますが、舞台装置も衣装も無く、ただ会話と身振り手振りのみでネタを展開する事が現代では漫才として広く流通しています。そういう意味で今回の野田は非常にボディランゲージでの会話に優れ、審査員3名がそれを特に認めてくれた、それが優勝に繋がったのです。所謂コント漫才とはまた一線を画す新しい形式を見せてくれたマヂカルラブリーには、来年以降の更なる飛躍を期待したいですね。

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