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くれないの?豚 〜くれたのは鶏〜 (だら子様リクエスト)

「で、どういうわけで豚肉を?」

「まぁ、いろいろあって……」

私はとある地方新聞の女性記者。養護施設へ定期的に豚肉を寄付する青年がいると聞きつけ、取材にやってきた。

「施設の方が謝礼を渡そうとしたら『飛べない豚は、ただの豚だ』と言い残して受け取らずに帰っていったなんて話も聞いてるんですが……」

少し間があってから、青年が口を開いた。

「……記者さんは、空を飛ぶ豚、って聞いたことありますか?」

「え?」

「頭のおかしいヤツだと思われるかもしれませんが、探してるんです……もう3年も」

「その話、詳しく聞かせてください」

「3年前、親友が突然失踪したんです……『空を飛ぶ豚』という謎の書き置きを残して。ひとまず僕は、各地から子豚を取り寄せ育てました。でも、みんな体は大きくはなってもちっとも飛ばない。可哀想とは思いつつも、このまま老いて死ぬよりは、と豚達をさばいて肉にしました。そして、自分で食べきれない分は近くの養護施設にただで……」

青年の告白に、私は心底驚いた。

「……あなたもですか」

「え、どういう意味です?」 

「私が新聞記者になったのは、父を探すためというのも理由のひとつなんです……10年前に『空を飛ぶ豚』という書き置きを残して失踪した父の」

「……なんだって?」

「父は一般企業に務める普通のサラリーマンでした。それがある日突然……」

「僕の親友も突然だった……あの、記者さん……ひとつ提案が」

「なんです?」

「僕たち、組みませんか?」

「え?」

「空を飛ぶ豚、この謎を一緒に解き明かしませんか?今日の出会いは偶然じゃない……きっと運命だ」

あまりの急展開に頭がついていかない。でも、今まで少し恥ずかしくて誰にも明かせなかった父の失踪の真実、それを共有できるかもしれない人に初めて出会ったのは事実だ。

「……わかったわ」

「よし、そうと決まれば、お近づきの印に……ちょっと待ってて」

青年はおもむろに立ち上がると、奥の冷蔵庫からビニール袋に入った何かを持ってきた。

「それ、もしかして……」

「鶏肉です、よかったらもらって」

「豚じゃないんですか!くれないの?豚」

「あいにく今、ストックがなくて……でも、鶏もおいしいですから!」

「普通、初対面の人におみやげで生肉渡します?」

「まぁ、それは……ナイストゥ“ミート”ユー、ってことで」

私は思わず吹き出してしまった。そういえば父もダジャレが好きな人だったなぁ。

連絡先を交換し、青年の家を出る。鶏肉は持って帰って塩焼きにでもするか。この少し軽い足取りは、長い間抱え込んでいた秘密を吐き出した開放感からなのか、それとも、青年が言うように運命の出会いだからなのか……まだわからない。

見上げた空は青く澄んで、白い雲が流れている。あの雲みたいに、豚が空を飛ぶなんてあり得るんだろうか?この10年間繰り返してきた問いに再度思いを馳せながら、駅へと向かった。

密かに私の後をついてくる、黒ずくめの男の存在には気づかないまま――。

・ ・ ・

新聞記者のモモエに忍び寄る黒豚団の影!
急げ、富田林青年!
次回『くれないの?豚』第二話、
「となりのトントロ」……お楽しみに!

(ウソです、絶対続きません笑)


タイトル「くれないの?豚」
サブタイトル「くれたのは鶏」
サスペンスなのにラブコメ

上記の無茶ぶりにこたえた結果です。途中で自分でもなにを書いているのかさっぱり……笑

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