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やつら、きっと手を回すからな

スナフキンが、追っ手たちをまこうとしていることは、ムーミントロールにもわかりました。ヘムルの警笛が、はるか遠くに暗闇の中でけたたましく鳴り響き、それにこたえる声が聞こえます。

新版『ムーミン谷の夏まつり』13章

元はといえばスナフキンが引っこ抜いた
公園の看板を夏至のかがり火にして燃やしたため
投獄され、何とか脱走したものの、警察に身を
追われることとなったムーミントロール。

スナフキンは今後の作戦をムーミントロールに
言い聞かせる。

きみはみんなのところへもどって、ムーミン谷へ帰りたい人を、全員つれておいでよ。家具は、持ってこさせないようにね。ヘムルたちが劇場の見張りを立てないうちに、いそいでやらなきゃだめだぜ。

新版『ムーミン谷の夏まつり』13章

この後のせりふが旧版では
ぼくは、みんなを知っている
とちゅうで、ぐずぐずするなよ。
こわがることはない。六月の夜は、
おそろしくないんだ」
となっていて、太字部分が謎だった。
意味が通じないのだ。

ここは原書を参照すると
Jag känner dem. つまり
I know them. ではあるが、何しろ
話し言葉なので、単語は簡単だけど
訳すとなると、なかなか難しい。

ムーミン谷に帰りたい人を全員連れておいで、と
言っているということは
「ムーミン谷に帰りたい人=劇場の舞台にいた人」
であり、
スナフキンは芝居を観ているので、出演していた
ミーサやホムサも知り合いじゃないけど
顔はわかるし、
彼等は一家と一緒にいたのだから敵じゃない、と
わかってるから大丈夫ということなのか。

それとも
ムーミントロールは芝居を殆ど観ておらず、一方、
洪水からの経緯をスナフキンは知らないので
スナフキンとしては
【君は舞台にいた人たちの顔を知らない人たち
だろうけどぼくはわかるから】
大丈夫だよ、ということなのか。

ん?これはもしかして前文の
「ヘムルたちが劇場の見張りを立てないうちに」を
受けているのでは?でもそれならば
demではなくてdet(it)になるのでは?と思い
皆の顔はわかってるから、で進めていたのだが
ゲラの段階になって、やっぱりここは違う!
と思い直し
残り時間があとわずかとなっていたこともあって
native3人に3つの選択肢を挙げて
解釈を訊いてみた。

スナフキンが言っている"Jag känner dem."のdemは何を指していますか?
①ムーミン谷に帰りたい(この時点では劇場にいる)者たちの顔 
②劇場に見張りをつけるヘムルたちの顔
③ヘムルたちが劇場に見張りをつけるだろうという行為を指している
(ヘムルたちの顔ではく行動)

すると、3人とも解釈は③だった。
「知っている」ならJag känner demではなく
Jag känner igen demというのが自然だし、
demはhemulernaだと思う、と。
となると"Jag känner dem."のdemはそうか、
「知覚動詞+目的語+原型不定詞」の目的語で
更に原型不定詞が省略されているということか!
つまりここは
「ヘムレンたちなら劇場に見張りをつけるはずだと
(その予測される行為を)わかっている」
ということになる。

最終的には
「あいつらのことだから、
きっと見張り役を呼ぶはずだ」
となったが、ここは
「あいつらなら、きっとそうするから」
「あいつらのことだから、きっとだ」

とか、ここは思い切って
「やつら、きっと手を回すからな」
あたりにしたかったな。

これに続くスナフキンの台詞「六月の夜は、おそろしくないんだ(Nätterna i juni är aldrig farliga)」と原書タイトルの”FARLIG”との関連も面白い。


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