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原書バージョン騒動①ラジオ?オルゴール?

『たのしいムーミン一家』の初版原書は
1948年に出版されていて、1956年に一部改訂
そして1968年に大きく改訂されている。

こちら↓のハードカバー版と、

講談社文庫と青い鳥文庫は1948年の原書からの翻訳。
(「新装版」というのは装丁のことであって中身は不変)

文庫の中身もそのうち新版に入れ替わるらしいですが……

そして、新版は最終バージョンの原書からの翻訳。
この巻に限らず、
新版翻訳にあたっては旧版の訳を見直す根拠を
ひとつひとつクリアにする作業を伴うのだが
ここで大きな問題が一つあった。

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000321753

英語版は結構自由な翻訳で、意訳が多い。
これについては、Tove評伝でも言及されていたし、
Tove書簡集にも英語版決定の経緯が書かれた手紙が
掲載されている。しかし、
どこがどのように意訳されているのかは
1948年版原書を参照しないと
実際にはわからない。つまり、

【英語版を翻訳した日本語版】と
【1968年版の原書】とを比較した場合の差異が
<原書の改訂によるもの>なのか
<英語版の意訳によるもの>なのか、それとも
<英語版から翻訳された際の意訳>によるものなのか。
そこの判別がつけられなかった。

例えば旧版日本語訳で
ラジオセットの中には、どくのある
ピンク色のつる草が見つかりました」
とある部分は、最終版原書から訳すと
オールゴールの中からはシダの葉っぱ が見つかりました」
となるのだが、オルゴール(speldosa)の箇所は
別の単語が使われているかもしれないし、
スウェーデン語系フィンランド人のスウェーデン語だと
speldosaはラジオのことを指すのかもしれない。

フィンランドのスウェーデン文学協会に
問い合わせて、speldosaにラジオの意味は
ないことはわかったが
このやりとりだけでもメールが数往復となっていて
この先も負担をかけるわけにはいかず。

同時に、ムーミンシリーズの 改訂版による
違いを研究した、ヘルシンキ大学の学生論文が
見つかり、
原書バージョンによる差がどんなものかが 少しずつ
見えてきてはいたのだが、
この論文に載っていることが 全てなのかは判断がつかない。
やっぱり一次資料にあたらないと。
でも、そんなヴィンテージ本、手に入るのか?

うだうだと悩んでいたある日、逗子にある
スウェーデン洋菓子&絵本のお店Lilla Kattenさんの
ブログ写真でそれらしきものを発見した。
早速問い合わせ、旧版に違いないと確信して伺い、
買い取らせていただくことができた。
当時のことをLilla Kattenさんがブログに
書いてくださっている。
その節は大変お世話になりました!

Lilla Kattenさんのおかげで
原書バージョンによる差異を
全て洗い直すことができた。

まずは、新旧原書を一行ずつ読み比べて
リストアップする作業からスタート。
「間違いさがし」のようでいて
「宝さがし」のような日々だった。

『たのしいムーミン一家』でアメリカ進出を目論む
トーベの作戦については、評伝8章
「ムーミンへの情熱」をご覧ください。
ボツになった挿絵も掲載されています。

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