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窓の謎

ムーミンパパ海へいく
6章「月がかけていく」は
この物語がママの物語でもある
ことがよくわかる章で
冒頭の印象的なイラストは
ママの心情を見事に描いている。

この灯台の窓の描写が旧版では

「あけっぱなしの窓が、ちょうつがいをきしませてバタンバタンと鳴りました」

となっているのだが、
原書を参照するとこれが
辻褄が合わない。

というのも、原文は
Det öppna fönstret rörde sig på sina hakar.
となっていて、
窓の動きはhakarゆえのものだが、
hakarというのは窓を半開きのまま
固定するフックのことであり
蝶番はgångjärnという語なのだ。

そして
蝶番を軋ませてバタンバタンと
鳴る、というのは
窓が開いたり閉まったりするのを
思い浮かべるし、でも
一度閉まった窓が自然に開くには
内側からも強風の力が要るし。

いくら考えてもわからず
ふたりのnativeに訊いてみた。

赤い丸印のがhakarで、
青い丸印のがgångjärnですよね。
gångjärnのことをhake(hakarの単数形)と
呼ぶことはあるの?

Thomas先生:
Gångjärnをhakeとは言わないよ。
窓のGångjärnはコレ↓

hakeはこういうの…ですよね?

https://vaderstadbyggnadsvard.se/produkt/fonsterhake-tradarbete/

これはちょっと現代的なやつっぽいね。
ムーミン屋敷や島の家だとたぶん、
もっと古いタイプのだと思う。


古いタイプは、こういう感じの?

そうだと思う。
挿絵の赤い丸印のやつも
こういう風にリングで
固定するタイプだと思うよ。

Henrikaの回答:
hakarは蝶番でも鍵でもなくて
窓の下の方に付いていて
窓をちょっと開けておく状態に
固定しておくのに使うの。

でも、挿絵だとママはhakarを
使ってないように見えるよね…
だからわかりにくくなっている!

それか、もしかしてToveは
挿絵を描く段階ではhakarを掛ない
イラストがいいと思ったけど、
テキストを修正するのを忘れたとか…?!

ううむ、とにかくhakarが
蝶番ではないことはわかったので、
新版では、このように改訳。

半開きの窓が、ガタガタと音をたてています。

新版『ムーミンパパ海へいく』
hakar

ちなみに、トーベの夏の島
クルーヴハルの小屋の窓にも
hakarがある。

https://www.selmastories.se/artikel/tove-jansson-klovharun/


これです、これ!!


https://purjehdusope.com/product/2023-heinakuu-23-29-7-klovharun-muumimamman-saari/

hakarの紐は、案外細い。
クルーヴハルにも
灯台のあるパパの島も
ぐるりと海に囲まれていて
ちょっと風の強い日には
hakarの紐はすぐに
切れてしまった…のかも。


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