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原書バージョン騒動③ターザン問題

『たのしいムーミン一家』は旧版と
新版とでは大きく異なる箇所が
いくつかある。5章のターザンごっこの
くだりもその一つ。
最終版原書(1968年)を参照すると
旧版訳の『一家」にはない一節が出てくる。

何と、ムーミントロールが
”Tarzan hungry” "Tarzan eat now!"
と英語で叫んでいるのだ。

評伝でも言及されているが、
トーベはターザンの物語が大好きだった。

若きトーベは冒険譚を読みあさった。一九二九年の日記には「物心ついた頃から、私はいつだって冒険が大好きだった」とある。ジャック・ロンドン、ヘンリー・ライダー・ハガード、ジュール・ヴェルヌ、エドガー・ライス・バローズなどを読んでは妄想にふけっていた。特にお気に入りだったのは、ターザン。子ども時代、トーベとペル・ウーロフは夏のペッリンゲでターザンごっこをして遊んだものだった。トーベの冒険物語は、その頃から始まっている。ノートに清書された物語の中には、上流階級のジャングルヒーローを主人公にした作品まであった。

『トーベ・ヤンソン 人生、芸術、言葉』7章「ターザンとアトス」

『たのしいムーミン一家』にターザンごっこの
場面が登場するのも自然なことではあるが、
旧版訳の『一家』に”Tarzan hungry”
せりふがないのは、原書バージョンの違いによる
ものだと思っていた。

ところが旧バージョンの原書を入手
読んでみてびっくり。
Tarzan hungryの箇所は旧バージョンにも
そっくりそのまま存在しているのだ!

旧バージョン原書には会話部分に
"―"が付いていたり、
UppeがOppeになっていたり
(これは単なる表記の問題)
といった違いはあるものの、
両バージョンとも、変更はない。

と、なると英語版の問題?
旧訳『一家』は英語から訳されている(筈)
なので、英語版を見てみたら。
Tarzan hugryのくだり(上記画像で
四角囲みした部分)が
そっくり削除されている
のだった!

”Tarzan hungry” "Tarzan eat now!"
といった表現が差別的と見做されたとか?
うーん、しかし英語版の出版は
イギリスが1950年
アメリカが1951年であり
表現が引っかかった…という時代では
なさそうな気もするのだが。

英語版の謎は謎として、
新版日本語版の訳をどうするか。
"Tarzan hugry"を
「ターザン、腹減った」と
カタコトな喋り方にするのか。

そして、原文ではターザンは
「腹減った、食う」しか
喋れないとか何とか…うーん
これをそのままでいいのか問題もあり。

もっとも、これは差別意識云々ではなく
ムーミントロールの英語がカタコト
だったから、なのかもしれない。
それを受けてのおじょうさんの発言、
なのかもしれない。
うううむ。
結局新版ではどのようになったのか。
そこのところは読んで確かめてみて
頂きたく。

Toveの原書朗読にももちろん、
この一節はばっちり入っている。
Avsnitt 5: Kapitel 5 をクリックすると
お聴きいただけるので、ぜひ。


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