モラン過ぎる!
謎多きキャラクター、モラン。
代名詞から女性であることはわかるが
体が冷え切っていてひとりぼっち、
ということくらいしか知られていない。
旧版では「ばあさん」「おばさん」と
訳されていたが、原書を見ても
根拠となる語は見当たらず、
若いのか年寄りなのかはわからない。
トーベの物語には辞書にはない独自の表現が
登場することがあるが、
förmårradeもそのひとつ。
förmårrade =「モラン過ぎる」といったところ。
förmårradeだと「モラ過ぎる」じゃん!と
思われるかもしれないが、
「モラン」は定冠詞(英語だとthe)が
付いた形であり、もともと(というか不特定の
単数名詞形)はen Mårraなのだ。
en Mårraの定冠詞が付いた形がMårranなので
förmårradeはförmårrandeではなく
förmårradeとなる。
ちなみにmårra自体、トーベの造語っぽい。
それを更に形容詞として使っているのが
förmårradeである、という次第。
さて、この「モラン過ぎる」をどう訳すか。
トーベはこの語を
「とんでもない」「忌々しい」
というようなニュアンスで使っていて、
場面によっては「モラン」に言及すると
唐突すぎてしまう。
それくらい、結構多用しているのだ。
まずは「モラン」に言及しているケース。
ここは、このシーンの前にパパが
「これからおもしろくなるんだよ。まもなく、
竜のエドワードと、モランが出てくるんだ」
と前置きしている場面があるため、ここは
敢えてモランと訳出した方が面白い。
そして旧版では単に「モラン川」となっている
ところをförmårradeの不穏さがでるように
新版では「モランみたいに不吉な川」とした。
ちなみにskruttは「ねずみの子」ではなく
ロクでもない奴というニュアンスなので
「どんなにバカなやつでも」とか
「どんなボンクラだって」あたりがよいのだが
旧版の「ねずみの子」が残留となってしまった。
せめて「そんなの誰だって知ってるよ」と
したいところである。
(新版の翻訳事情についてはこちら)
この他のケースは「モラン」を訳出していないが
どれもförmårradeと表現されているもので
いくつか例を挙げると……。
そして、ムーミンママのこの台詞。
「やけに」は旧版の訳語を踏襲となった。
この後に「もちろん、ママがやけになんて
わるいことばを使ったのを聞いたものは、
だれもいませんでした」と続くのだが
実は私自身、子どもの頃に読んでいて
「やけ」ってそんなに悪い言葉なの?と
疑問に思っていた。
旧版出版時のお母さん像ならこれで充分
だと思うが、今となっては物足りない。
新版でも基本的にママの口調は丁寧さを
引き継いではいるが、ここは未来への
重要引き継ぎ事項としたく。
「べらぼうに」(江戸っ子過ぎる?)
「めたくそ」(「めっちゃ」では弱いぞ)
現時点なら
「上等。ヤバいくらいに上等よ」とか。
(50年後だとヤバいも陳腐かな)
さて、この場合、最適な訳語とは……?
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