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おいしいソース?

新版『ムーミン谷の十一月』
ボートや海のすばらしさを散々
語っていたヘムレンだが、実は
海に出た経験はなかった。ところが
20章でスナフキンに無理矢理誘われ
仕方なく舵を取る破目に。

ヘムレンさんは、夢中で舵をあっちこっちへ動かしました。帆がはげしく風に鳴り、ボードに水が入ってきました。スナフキンはやっぱり、水平線をながめたまんまです。ヘムレンさんは考えるゆとりなどないくらい気持ちがわるくなって、ただ勘だけで舵を取っていました。

何とか舵を操って沖へ出て、戻って来たヘムレン。
今まで虚勢を張りまくっていた相手であるホムサに
海へ出たのは実は今回が初めてだったと打ち明ける。
怖くてびくびくし通しだたこと、でもきっと
スナフキンには気づかれなかったと思う、と。
(そこがいかにもヘムレンなのだが……)
そして、自分にはもうボートは必要ないと
吹っ切れたヘムレンは、ムーミンパパの帰りを待たず
「さあ、体があったまってきた。
くつしたと長ぐつがかわいたら、
ぼくはさっそく家へ帰るよ」
と決心する。

このあとの台詞が旧版では
「うちには、おいしいソースがたっぷりあるんだ」
となっているのだが。

ソース?手ぶらで家を出てムーミン谷に
来てから軽く1ヶ月は経っているけど
腐ってるんじゃない?!と突っ込みたくなる
ここの原書表現はというと
Där är nog en skön sås!

たしかにsås=ソースだが、
ここでいうsåsは「乱雑」「散乱」
「めちゃくちゃ」あたりの意味。
取っ散らかったものやことが
ぐちゃぐちゃになったソースのよう、という…。
そしてskönは"beautiful" "nice"の意で
skön såsは皮肉・自虐表現。

直前の文章が
Så fort kängorna och strumporna
har torkat far jag hem. だから
Där=hem 「うち」はきっとskön såsだ、
とヘムレンは言っているのだ。

新版では
「きっとごちゃごちゃだろうからね」
となったが、skönをもっと活かして
「きっと見事なとっちらかりぶりだろうな!」
「きっと結構なゴタゴタぶりだよ!」

あたりにしたかったな。

ちなみにskön såsよりもskön röraの方が一般的な表現だったりします




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