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ヘクサメーター?

「ヘクサメーターで、お書きよ! ヘクサメーターで! ことばじりなんか、そろえないで」

新版『ムーミン谷の夏まつり』8章

「ヘクサメーター」は瑞語でも英語でも
hexameterというのだが
hexはギリシア語の数詞「6」の意味
meterは「韻律・歩格」の意味なので
hexameterは「六歩格の韻律」
一つの長音節と二つの短音節が
一組の「歩格」となり、その歩格が
六組つながって一行を形成する詩型、
それがhexameterだ。

ホメロスの叙事詩
『イリアス』と『オデュッセイア』が
hexameterで書かれているそうなのだが
そもそもこれらの叙事詩はギリシア語で
書かれている。
ギリシア語の単語の韻律をスウェーデン語に、
更には日本語に当てはめていく…のは
そもそも無理な話ではある。
さて、どれだけ近づけるか?

初めて書いた演劇の脚本をエンマに
強烈な駄目出しをされ
ヘクサメーターで書きなはれ、と言われたパパ。
ヘクサメーターって何なんですか?と訊くと
エンマはこんな感じだよ、と
口ずさんで説明する。
Tamta-ratam-tarara-tara-tam-tam-tamtara-tam-tam
これを字面どおりカタカナにすると、旧版の
タムタ・ラタム・タララ・タラ・タム・タム・タムタラ・タム・タム
となるのだが、既にどこをどうカウントすれば
六歩格の韻律になるのかわからない(涙)

そして、この箇所の
Tove朗読はどうなっているかというと、
タンタラ・タンタラ・ラータラ・タンタン・タンタラタンタン
という具合。
(8章 "Om hur man skriver ett skådespel" 参照)

https://svenska.yle.fi/a/7-887619

じゃあ、こういうことですか?と
パパがhexameter風にした台詞はというと:
Rädslajag-
aldrigharkänt-ochettlej-onjaggla-deligt nackar?
Rädsla jag aldrig har känt och ett lejon jag gladeligt nackar?)
というもの。

エンマが、「まあ、いいか」
と言っているとおり、ここは
日本語訳も完璧を目指さなくてよいわけで、
それでも
タンタラ・タンタラ・ラータラ・タンタン・タンタラタンタン

Rädslajag-
aldrigharkänt-ochettlej-onjaggla-deligt nackar?
と日本語訳を交互に声に出して試しながら
ああでもない、こうでもないと繰り返して
hexameter調にした訳は
「こわくは・ないわい・ライオン・なんぞは・お安いごようだ・首はねてくれるわ」
となった。
「首はねてくれるわ」を字余りを気にせず
言い切るのがポイント(なのかもしれない)。

ちなみに10章のタイトル
「劇のリハーサル」の原語タイトルは
Om generalrepetitionen
いわゆる「ゲネプロ」のこと。
文中では「総仕上げの練習」としたが
「通し稽古」が一番しっくりくるかも。

「劇場は、世界でいちばん大事なものなんだ。そこへ行けばだれでも、自分にどんな生き方ができるか、見ることができる。実際、変わる勇気がなくても、なってみたい自分になれるし、そうなったらどんなことが起こるのかも、味わえるのさ」新版『ムーミン谷の夏まつり』8章


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