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今だ!行け行けGo Goムーミントロール

ムーミンパパ海へいく』で
ムーミントロールは、一家が移住した島の
とある場所に隠れ家のようなスペースを見つける。

そして、この物語で思春期を迎えた
ムーミントロールは父親に【心の中で】
毒づき、家族と住む灯台を出て
隠れ家に引っ越そうと決心するのだが、
その決心を切り出す場面(5章)の
Mumintrollet tog sats och så sa han ut i luften.
という一文が底本では
「ムーミントロールはふかく息をすいこむと、
できるだけ元気を出していいました」
となっている。

tog はtaの過去形で
ta satsを辞書で引くと
take a runとなっている。
ひとっ走り…したのか?
英語版を見てみるとここは
"Moomintroll took a deep breath and
said as boldly as he could."
となっていて、底本訳と近いけれど…?

それともここは
ムーミントロールはうろうろと小走りして、
まるで空気中に誰かがいて
その人に話すように言った(つまり、家族に
話しかけているのではなく、
モノローグのような感じで)という意味なのか?

詩人のHenrikaに訊いてみたところ、
Toveの表現って本当に素敵!という
前置き共に、こう解説してくれた。

"ta sats"は体の動作としての意味の他に、心理的な意味でも使うの。例えば言いにくいことを言ったり、するのが難しいことをする前にね。ムーミントロールは家を出て暮らすことを言い出そうとしてta satsしている。そしてご推測のとおり、自分自身に、もしくは、誰にという訳でもなく言っています。英語版のboldlyは違うね……。

おおっ、精神的な意味で・自分の内面に、
ということは「ためらって」ということ?

いえ、「ためらう」ではなくて、「よし、これからやるぞ!」という感じ。例えば冷たい水に飛び込むときとか…ちょっと怖いけど、さあ今だ!そういうとき人はta satsしなきゃならないのよ!

さあやるぞ、と思いつつ
ムーミントロールはモノローグ。面白いね!

そうなのよ!彼は全然「思い切って」じゃないふりをしつつ、実はすごい重荷なので、肝がすわってない。それまでもずっとウジウジしていたし。

ここは結局、
「ムーミントロールは思いきって、
でもひとりごとのようにいいました」

としたが、
「ムーミントロールは思いきって、
でも誰にというでもなく口を開きました」

の方がsa ut i luftenのニュアンスが
よく出ていたかも…。

【未来への引き継ぎ書】
同じく5章のうみうまが去っていく場面。
旧版で
「あとに残ったわらい声は真珠のようにひびき、
海にもどっていったうみうまに、
真珠の首かざりがついていくみたいでした。」

となっているところ、原書は
Kvar fanns bara långa pärlband av skratt,
hennes skratt trillade som pärlor medan
hon gick ut i sitt hav igen.

英語版の
leaving behind her little pearls of laughter.
A whole string of pearls followed her as she
capered into the sea again.
に引っ張られているけれど、ここは
Only a long string of pearls of laughter was remained,
her laughter trickled like pearls while she went out in the sea again.
つまり真珠のような笑い声が連なって首飾りになった、
という描写で、新版では
「海に消えていくうみうまの笑い声が真珠のように
ぽろぽろこぼれ落ちて、あとはその真珠の長い
首かざりが残っただけでした」

となった。でもここはボツになった、
「あとは真珠がぽろぽろとこぼれ落ちるように、
笑い声だけが海へもどって行くうまうまの後を
追って連なり、まるで真珠の長い首かざりが
できていくかのようでした」

もしくは
「あとはただ、笑い声が真珠のようにぽろぽろと
こぼれていき、海にもどっていくうみうまの後ろに
真珠の長い首かざりができていくかのようでした」

をやっぱり推したい。

一体、うみうまとは何者なのだろうか?(挿絵は3章のもの)


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