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夕日

小学生の時、16時頃家に帰ると玄関の窓から夕日が差し込んで床がオレンジ色に染まっていることがあった。ミステリアスな雰囲気とノスタルジックな雰囲気をちょうど50%ずつ抱えているようで、とにかく美しい光景だった。あの少し陰った玄関と眩しい夕日を眺めながら宿題をしていたのを思い出す。ランドセルを広げて、のっそのっそと漢字ドリルと筆箱を取り出した記憶が微かに残っている。

やはり記憶というものは美化されるもので、当時の記憶はどれもキラキラしている。当時の私なりにしんどい事もあったはずなのに、今となっては一切覚えていない。感覚では17年間生きてきた中で「明日を迎えるぐらいなら一生眠ってしまいたい」と感じた事が20回はあり、小学生の頃にも何度かそれを感じたはずなのだが全く覚えていない。結局その程度なんだと思う。乗り越えてしまえば良い思い出も悪い思い出も同じ価値。笑い話に出来なければ、今日あった出来事もすぐ記憶から消えてしまうのだろう。

あの夕日を最近は見ていない。同じ時間に玄関を見ているはずなのに、いつ見ても玄関は少し陰っているだけで、小学生の頃に感じた美しい光景は広がっていない。

小学生の心でしか感じられない光景だったのだろうか。私にはその心がなくなってしまったのだろうか。分からないが、それでいい。夕日があれば、それでいい。


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