『文体の舵をとれ』練習問題④ 重ねて重ねて重ねまくる 問2

問2:構成上の反復
語りを短く(七〇〇〜二〇〇〇文字)執筆するが、そこではまず何か発言や行為があってから、そのあとそのエコーや繰り返しとして何らかの発言や行為を(概ね別の文脈なり別の人なり別の規模で)出すこと。

 金網の穴をくぐると、大回りしなければ行けない丘の上の公園に最短距離でいけた。ぼくらだけでなく丘の上のマンション住民が坂の下のスーパーに直線距離で行ける抜け道であったし、そんなふうに塞がれて困る人が大勢いたし、実際その穴は長いこと塞がれなかった。ある日、転校してきたばかりの鈍いヤツが金網の切り口で怪我をした。ヤツの親は市の管理不十分を訴え散らした。すぐさま金網の穴はきれいに塞がれた。以降のことはあまりおぼえていない。最短距離を探す癖だけがぼくに残った。
 バカ高にしか入れない勉強で形ばかりの高校生になると、吸いたくもない煙草を吸った。煙草を吸えば、まともには仲良くなれない悪い奴にかわいがられた。実際校内の秩序は悪い奴に守られている部分もあって、教師も片目をつぶっていた。悪い奴は少々やりすぎた。体育教師を病院送りにして退学になった。あとのことはあまり覚えていない。煙草を吸う習慣がぼくに残った。
 就職先を選ばなかったため早々と就職できたぼくは、先輩にかわいがられて秘密の行きつけの店を教えてもらった。常連客の中でも先輩クラスになると、裏メニューを作ってくれ、採算取れるのか危ぶまれるほどのサービスがあり、ぼくもたびたび相伴の機会に恵まれた。しかし先輩は連れてくる人間を誤った。空気の読めない新人くんが、コスパの良い店としてSNS上で拡散してしまったのだ。以来、裏メニューも感激するサービスも初めからなかったことになってしまった。新人くんは半年でやめていった。先輩とぼくの関係もなぜか微妙になった。あとのことはあまり覚えていない。行きつけの店をつくるようになったが、あれほどのサービスには出会えていない。
 頭の悪いやつがよく言う人生苦労してなんぼみたいな周り道に嫌気がさしはじめたぼくは、宗教に道を求めて修行に入った。この世の正解を知れば無駄な苦労をしなくてよいならば、目の前の修行の苦しみなどは何ということもなかった。最短距離はここにある。真理も尊敬も崇拝もここにある。お金に功徳がついてくる。法人は少々やりすぎた。内部の黒いカネとインチキが文春砲で明るみに出て、法人はちりぢりになり、幹部は金を持って身をくらませてしまった。ぼくの喜捨した一千万円もどこかに消えてしまった。あとのことはよく覚えていない。抜け道を探す癖だけが残っていた。
 ある日、よくみると草むらの景色が歪んで見えた。歪みはぐるぐると回転しだし、円形の黒い穴のようなものが唐突に現れた。ぼくは迷わず腰をかがめそこをくぐった。今度こそ、閉じてしまう前にくぐらねばならなかった。