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〝微笑み〟のうしろに潜むもの【ショウコの微笑】

チェ・ウニョン=著
牧野美加・橋本麻矢・小林由紀=訳
吉川凪=監修

3ヶ月ぶりに感想文を書く。
ずいぶん前に読了していたので内容が曖昧で、再度読み直してみたら前回とは少し違った視点を持てたのでとても良かった。
表題以外で刺さる作品は前回と一緒。セウォル号事件を取り扱いする作品もあるので、BTS「봄날」を何となく想像してしまうのも変わらず。

「ショウコの微笑」
文化交流のために韓国へやってきた日本人のショウコ。ショウコをホストファミリーとして受け入れた韓国人のソユ。二人の17歳から30歳になるまでの物語。
決して明るくない内容で、読んでいると時々深呼吸を必要とした。

二人の関係性は不思議なものだ。心を通い合わせる親友ではない。だからといって単に「外国に住む友達」でもない。ホームステイ後から始まる手紙でのやりとりの中に心の機微が描かれていて、二人だけの特別な関係が築かれていたように思う。時々交流が途絶えながらも共に長い時間を過ごすが、二人の共通言語は英語である。どちらかが相手の国の言葉を習得する描写はない。そこからも二人の関係性が垣間見ることができる。

ショウコとソユはずっと平行線のままなのだ。

ソユがショウコと腕を組もうとして、拒絶されている。またショウコの元を訪れたソユに、ショウコから腕を絡ませたことがあったが、ソユは引き離している。互いを信じて腕を組むことがない二人。
平行だからこそ鏡のように向き合えるのかもしれない。互いに好きでもない嫌いでもないのに離れられない二人がいる。

ショウコとソユを取り巻くそれぞの祖父との関係性も穏やかな描写がない。祖父との関わりを軸に愛憎の感情がより二人を絡めている。

ショウコは微笑みを見せる。
ショウコが微笑む時、ソユは寒さを覚える。
「微笑」という言葉は物静かで淡白な印象を受けるが、ショウコの微笑にはどろりとして濃い情が秘められている。

表題以外に6篇の短編が収められている。
「秘密」は読んでいて泣いてしまった。具体的な描写がないが、愛情深さ故の残酷な現実が浮き彫りになってしまい、私自身と祖母の関係を重ねてしまう。
「ミカエラ」ではセウォル号事件との関わりも描写されており、実際の事件背景の知識があると読み方も深まりそうである。またこの短編で描かれる母の作る料理やチマチョゴリを汗に濡らす様子、硬いチムジルバンの床などの描写がなによりも生々しく感じた。

全体を通じて明るくない内容が多い。時々涙ぐむような作品もある。わずかな希望の兆し程度は感じられるかもしれないが、幸せに満ち溢れたハッピーエンドが全ての物語の結末とは限らない。
でもそれでいいんだ。人生と一緒で。

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