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〝人間の欲の深さを甘く見るな〟「Tony Montana (with JIMIN)」

音楽にさほど詳しくないので、自分がわかる範囲、感じた範囲で「Tony Montana」と「スカーフェイス」のサンプリングについて考察しました。
ちなみに〝人間の欲の深さを甘く見るな〟とは劇中のトニー・モンタナのセリフより引用です。

「スカーフェイス」をサンプリング

「Proof 」Disc 3およびAgust D「Agust D」に収録されている「Tony Montana」というタイトルは、ブライアン・デ・パルマ監督の映画「スカーフェイス」の主人公の名前で、アル•パチーノが演じる「トニー・モンタナ」のこと。

映画「スカーフェイス」は、キューバ難民のトニー・モンタナがコカインディーラーとしてアメリカの裏社会で成り上がっていくというストーリー。
その成り上がっていく姿がラッパーたちのマインドに響き、数多くサンプリングされている映画でもある。

この「スカーフェイス」の冒頭から流れるのがジョルジオ・モロダーの「Tony’s Theme」。
これから起こる不穏な何かを予兆させるような気配がある。「Tony’s Theme」では特徴的なフレーズの繰り返しをしており、それは「Tony Montana」にも踏襲され同じく不穏さの滲み出る楽曲となっている。
またリリックも「スカーフェイス」の内容をなぞっており、様々な方面からサンプリングされていることがわかる。
Agust Dが「スカーフェイス」をサンプリングすること=ラッパーの気骨を証明するかのようだ。

トニー・モンタナは破滅のアイコン

the world is yours 이제 전세계가 god damn 내 손안에

このリリックには「スカーフェイス」のキーワードとなる"The World is Yours"(世界はきみのもの)が引用されている。

映画ではトニー・モンタナが神の啓示を受けるような印象的なシーン。このシーン以降、トニー・モンタナはコカインディーラーとして頭角を表していく。
Agust Dのバースではその後に이제 전세계가  내 손안에(もう世界が 俺の手の中に)と、もうすでに世界を手にしているのだと歌う。ただし、忌々しく。

映画ではトニー・モンタナが〝世界を手に入れた〟あとは、身を滅し全てを手放す結末が待っている。
Agust Dの吐き捨てるような歌い方からは、〝世界を手に入れた〟バンタンの成功を妬む人間の存在と、成功の先に待つ落とし穴があると示唆しているようだ。

トニー・モンタナという存在に重ねたバンタン

①トニー・モンタナ=バンタン
トニー・モンタナというキューバ難民がコカインディーラーとして成り上がる姿と、小さな事務所からデビューした、当時としては〝異端〟の彼らがワールドスターにまで上り詰める姿が重なる。

②他者から見たトニー・モンタナ=バンタン
トニー・モンタナは劇中では成功の裏側で仲間や家族を信用できずに孤立していく。トニー・モンタナのように成り上がっても最後はトラブルに巻き込まれて、痛い目をみるに違いないという〝gentleman〟(他者)が揶揄した姿。

成功すること=幸せではないと理解した上で、それでも成功(富、名誉、金)が欲しいと主張する。トニー・モンタナのように破滅せずに成功を掴んでやるという野望のバース(①)と、様々な問題が起きていずれ潰れてしまうだろうと忠告する〝gentleman〟への「大きなお世話」だと鼻で笑うようなバース(②)で構成されている。どちらもとてもシニカルでユンギらしい。

「Tony Montana」は良い意味で無骨でハードコアな内容なのに、作りは繊細でAgust Dの感覚の良さが際立つ。

淡々と歌い上げるジミンのハードコアラップ

Proof Disc3の「Tony Montana(with JIMIN)」に注目したい。ユンギかジミンを選んだ理由は様々あるだろうが、個人的には美しいハイトーンボイスにゴリゴリなハードコアなラップをさせてみたかったのでは?と推測している。
ジミンのバースでは、先にも挙げた"The World is Yours"(世界はきみのもの)というフレーズを受けて〝Now the world is ours (今や世界は俺たち
のもの)〟と歌い、대체불가 대체불가/대체누가 대체누가という韻の踏み、さらには

악스에서 시작해 체조
(AXからスタートして体操)

JIMIN (Tony Montana)

악스에서 체조
(AXから体操)

Agust D(마지막 The Last)

と、Agust Dの「마지막 (The Last)」からのサンプリングと盛りだくさんだ。淡々と〝여전히 내 본질은 아이돌(相変わらず俺の本質はアイドル)〟と歌い上げるのも冷静で良い。
実はAgust Dの方が感情的で、ジミンの方が平然と歌い上げているというギャップにも聞き惚れてしまう。

最もハードコアだと感じるのは、ジミンのハイトーンボイスにオートチューンがかかる箇所である。美しい歌声にオートチューンをかけることで、あえてスクラッチのような傷をつける背徳感にゾクゾクする。

そして終盤では、これまでの不穏な曲調から一転してハウス調へと変化する。ジミンのディーバのような歌声+四つ打ちのサウンドは、歌物ハウス好きの私としては、テンションがブチ上がる箇所だ。

ジョルジオ・モロダーへ捧ぐエレクトロサウンド

ジョルジオ・モロダーは映画音楽、エレクトロ・ディスコサウンドの重鎮である(2013年のwire13で来日し、当時73歳でDJブースに上がる姿がめちゃくちゃカッコいいというTMI)。
「Tony Montana」のエレクトリカルな部分は、インスパイア元のジョルジオ・モロダーへ捧げられているような気がしてならない。Agust Dという音楽家の、サンプリングへの敬意を感じてしまう。

また、ジミンとの「Tony Montana」は2016年の3rd MUSTERで披露されていたが、ステージパフォーマンスやアジテーションが上手い2人の掛け合いと、四つ打ちが合間ってかなり盛り上がったステージになったに違いない。

だってほら、ゴリゴリにハードなラップをユンギとジミンがステージで演るのを想像するだけでも…ねえ?最高じゃないですか。

「Agust D」に収録されているfeat.Yankieではもっとハードコアな面が押し出され、ミックステープの世界観にマッチしている。with JIMINではステージパフォーマンスに映える楽曲になっている印象だ。


おわりに。

「Tony’s Theme」をサンプリングしたということを前提としているので、そうでない場合は解釈が違うかもしれません。しかし、この考察のために浴びるように「Tony Montana」や「Tony’s Theme」を聴くことができて、さらに久々に映画を観ることができて良かったです。

CM音楽もゲーム音楽も手がけるユンギには、ジョルジオ・モロダーのような映画音楽を期待したいです。

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