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ティンカーベルがやってくる。


ある晴れた日曜の朝のこと。
布団からゆっくりと起き上がった、息子(当時3歳)が窓のほうを見上げて
「あ、ティンカーベルがきたみたい」と言った。
「え、ティンカーベルが、おうちに来たの?」 
息子のあまりに可愛らしい発言に微笑みながら、私は彼に顔を寄せた。そして小さな指が差す先を見ると……朝日を受けて金色に光るホコリが、キラキラ、キラキラとゆっくりと漂っている。
「ほら。ティンカーベルのこな」
わかってる。
「きれいだよ……」
もう、わかってるよ。それ以上ママを責めるな。

そう。我が家にはよく妖精が来る。
私は第一子を妊娠したときから喘息持ちになってしまったのだが、よもやティンクのせいではあるまいな。
子どもの頃から気管支炎をよく起こしていたので、もともと肺が弱いのだが、だからなのかどうしても掃除機の排気が苦手だ。あの生暖かいホコリは、本当にイヤ。

そこで私はもっぱら「ほうき派」だ。職人が手がけたという美しい棕櫚の長柄ほうきを愛用している。
さらにこだわる私は、作家もののかわいらしい赤いちりとりと、ちりとりサイズの手ほうきを用意。このちりとりと手ほうきの2つだけでも、さっと床に落ちた猫砂やちょっとしたゴミを集めて捨てるのにサッとできて機動力は抜群。

さて肝心の掃除なのだけれど、使い終えたお茶がらを新聞紙で絞って水気を切り、それをビリビりと細かく破いてから家中に撒いている。NHKの朝ドラで戦前の人がやっていたのを真似してみたのだ。
これがなかなか効果的で、軽く水気を含んだ新聞紙やお茶がらはゴミをよく吸着するし、ホコリを湿らせてくれるので、掃くときにホコリが撒き散らないのである。掃除を始める前に、そらそらそらと家中にお茶がらと新聞紙を撒くのは爽快でもある。そして長柄ほうきでそれらのゴミを掃き集めるのである。
そして中央に寄せられたゴミを見れば、いい仕事した感は100%。作業は成果を振り返ってこそ、やり甲斐があるというもの。黒い綿棒で耳垢をとったときの快感と言いましょうか、脱毛テープでバリッと剥がした抜け毛を確認する達成感と言いましょうか。これが掃除機だったら、よくわからないうちにゴミが消えているわけなので、喜びは半減なのだ。

それにしてもいつもたった1日でよくこれだけのゴミが出るものだと息を飲む。新聞紙やお茶がらを撒き散らして、ゴミのかさを増やしているのを差し引いても、毎度驚くばかりだ。その多くが2匹いる猫の毛、そして砂だからだ。
なぜなら現在、我が家の息子2人はバリバリのサッカー少年なので、そのグラウンドの砂の量たるや、「ほんとは床に撒いているんじゃないのか? 砂かけ婆ぁのようにさぁ!」と胸ぐらをつかんで問いただしたいほどだ。
「お願いだから、どうか練習から帰ったらお風呂場に直行して」と毎回懇願しているのだが、なぜだかいろんな場所に汚い格好で出没するから、タチが悪い。散歩あとの犬のように玄関先でホースで洗えるものなら、真っ裸にして洗いたい(児童相談所に通報される)。
あの砂というものは不思議なもので、お風呂で徹底的に頭から耳の穴まで洗ったはずなのに、湯船の底に砂が沈んでいたり、ベッドのシーツの上に砂があったりする。なぜ? おそるべし、砂。
なので掃いた後の仕上げに、ウエットシートを装着したフロアワイプをかけて、細かい砂と対峙するのだ。

思い返せば、昔は大きな掃除機をクローゼットにしまっていた。その扉を開けて掃除機を出して、コードを伸ばしてコンセントにプラグを挿して、コードが絡まらないように掃除機を引っ張って……とやっていたのだが、ズボラな私はその動作を想像するだけで「あとでまとめて掃除機をかけよっと」と後回しにしてしまうのだ。

しかし今、掃除道具はすべて視界に入るよう壁に吊るしてある。壁にほうき一式が吊るしてあればゴミまでワンアクションなのである。
壁かざりの一つとして掃除道具を吊るすのならと、ちりとりを可愛いものにしたり、フロアワイプもプラスチックのものではなく、わざわざ木製のものを取り寄せてインテリアに馴染むようにした。それらを引っ掛ける素敵なスタンドも買った。なに、ちょっと値が張ったが、ダイソンを買うのに比べたらずっと経済的である。
さらに壁に吊るしたり立てておくだけで、ていねいに暮らしている感が出るのもいい(実際はさておき)。

ちなみに同じ動機で、絨毯の部屋だけはハンディタイプの掃除機を部屋の隅に立ててある。もちろん充電式なのでコードレス、ボタン一つで稼働する。このワンアクションというのが、私にとってキーポイントなのである。

このように砂も猫毛もバッチコーイの体勢なのだが、それでもどうして、ズボラでおサボりな私はティンカーベルをたびたび家に呼び寄せ、その都度、舌打ちしてしまうのである。



ここまで読んでくれただけで、うれしいです! ありがとうございました❤️