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ラーゲリーから愛を込めて

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先々月のことだったかな?
『ラーゲリーから愛を込めて』を弟と一緒に観てきました。(私は2回目)

原作は、『収容所から来た遺書』
ノンフィクション作家の辺見じゅんさんによって、30年以上前に書かれた小説です。

この小説を読んだのは、10年以上前で、母からボロボロの文庫を渡されました。

当時、管理職で結果を出すのに、一生懸命だった私は仕事の役立つビジネス書やハウツー本ばかりを必死で読み漁っていました。

「90歳のお客様が教えてくれた本なの。ビジネス書もいいけど、たまにはこういう心に残る本を読みなさい」と渡され、「忙しいのに、小説なんて読んでられない」と不貞腐れながら開いたような記憶があります。

戦争を知らない私にとっては途中で、何度も読むのが辛くなったりもしましたが、私の生涯、忘れられない1冊になりました。

(映画の感想。以下、ネタバレ含みます)

第二次世界大戦は終わったのに、無実の罪を着せられソ連軍に捕えられ、過酷すぎる状況で強制労働させられる元日本軍人の捕虜たち。

劣悪な環境の中に何年も何年も置かれ、いつ帰れるかもわからない・・・
日本に残した母に、妻に、子ども達に、弟や妹に「愛する家族に会いたい」
ただ、それだけを心の支えに、生きる希望に、なんとか生きながらえてきたのに、その家族さえも戦争で命を奪われていく。

「どうして生きていかなきゃいけないんだ」

戦争を知らない世代の私ですら、戦争はなんて残酷なんだ、世界はなんて理不尽なんだ、どこに憤りをぶつけていいのかわからない気持ちになった。

もしも私なら、不当にあんな場所で、10年以上もの長い間、拘束され、家族まで亡くしてしまったら・・・希望を失わずに生きられただろうか。

世界を憎み、運命を呪い、自暴自棄になり、生きることを諦めたに違いない。

それでも小さな希望を見出して、自分を保ち、仲間を支え続けた山本幡男さん(島根県出身の方で、実話なんです)

「希望を持って生きなきゃダメなんだ」
「それでも生きろ」と・・・

彼らの心の支えになっていた山本さんも、とうとう病に倒れ収容場で最期を迎えることになり、生きて日本の土を踏むことはできなかった。

彼がノートに書き残した家族への遺書さえも、文字を書くことは、スパイ行為だとされ、ソ連の衛兵達に没収されてしまいます。

それでも、〝彼の家族への想い〟を収容所の仲間達が心に刻んで持ち帰るんです。

漁師の家に生まれ、学校に行けなかった青年に隠れて文字や俳句を教えていた山本さん。作った俳句を没収されて落胆する彼に「でも、覚えているだろう?」と・・・「頭の中で考えたことは誰からも奪われない」と教え、励まします。

そんな彼らが、山本さんの想いを手分けして、それぞれに記憶して家族の元に届けるのです。

どれほど会いたかったか
どれほど想い、どれほど愛しているか

その想いと言葉は、誰にも奪われず、
ちゃんと母国に帰り、家族に届くんです。

自分達がなんとか生きて帰らなければ、この想いを届けなければという使命感が、仲間たちの生きる意味や理由となり、死んでもなお彼らを支え続けた山本さん。

その凄まじい強さと優しさと生き様に、自分はこんなにも恵まれた時代に生まれたのだから、強く優しく生きなければと思わせてくれる映画です。

弟も泣いていました。

ラーゲリーの中で黒パンを食べるシーンが何度も出てくるので、初めて観た日から、パン職人の弟にも見せたかったんです。

「パンはたくさんの人の命を救ったんだね。
形あるものはいつか壊れてしまったり、失ってしまうこともあるけれど、仲間達が必死で記憶して持ち帰った山本さんの遺書や想いと同じように、私が学んできた紅茶の知識も君が修行してきたパンを焼く技術も、きっと誰からも奪われないんだよ?
君は、世界中どんなところに行っても、パンを焼いて人を幸せにできるんだよ。目に見えないものこそほんとすごいね」と話しました。

とにかく素晴らしい映画ですし、小説はさらに細やかに書かれているので、ひとりでも多くの人に知って欲しい、観て欲しいで、読んで欲しい作品です。


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