[メモ]ヤコブの子孫のエジプト寄留期間について

出エジプト記6章で
レビ(享年137歳)
ケハト(享年133歳)
アムラム(享年137歳)
モーセ

の四代が記されている。レビとケハトはヤコブのエジプト下りのリスト(創46)に含まれているので当時ケハトは生まれていたはず。

また、モーセは出エジプト時点で80歳であることが書かれている。(出7:7)

つまりこの系図を信じ、かつ系図に抜けがないとすると、ヤコブのエジプト下りから出エジプトまでの期間を最大にするパターン(ケハトがエジプト下りの年に生まれ、死ぬ年にアムラムを生み、アムラムも死ぬ年にモーセを生んだとした場合)でも
ケハト133 + アムラム137 + モーセ80 = 350年
である。

これは重要な数字。なぜならイスラエルがエジプトに寄留していた期間はおよそ四百年であると多くの人が思っているから。聖句もそのように思わせる記述が多い。

"時に主はアブラムに言われた、「あなたはよく心にとめておきなさい。あなたの子孫は他の国に旅びととなって、その人々に仕え、その人々は彼らを四百年の間、悩ますでしょう。しかし、わたしは彼らが仕えたその国民をさばきます。その後かれらは多くの財産を携えて出て来るでしょう。四代目になって彼らはここに帰って来るでしょう。アモリびとの悪がまだ満ちないからです」。"
創世記 15:13-16

「ここ」がどこかと言うと、広く言えばカナンの地で、狭く言えばマムレの樫の木のところ(創14:13)。マムレは後のヘブロンの近くぽい。(創23:19)

四代目って、アブラハムの子イサクから数えるとイサク-ヤコブ-ケハト-アムラムとなるので還ってこれない。モーセは約束の地に還れなかったので、アロンの子エレアザルから数えるとするとエレアザル(四代目)-アロン(三代目)-アムラム(二代目)-ケハト(一代目)という計算になる。

"そして、ヨセフは死に、兄弟たちも、その世代の人々もみな死んだ。"
出エジプト記 1:6

つまりこの箇所の「その世代の人々」が一代目という計算か。するとやはりアブラハムへの予告の四百年はナイーブにはヤコブのエジプト下りから出エジプトの期間を数えているように読める。でも普通に考えて四百年の期間を四代で越えるのは至難の技で、何か違和感を覚える。つまり四百年の寄留期間と四代の寄留期間は別の話の可能性がある。

一方で出エジプト記はこう記録している。

"イスラエルの人々がエジプト(ミツライム)に住んでいた間は、四百三十年であった。"
出エジプト記 12:40

ここもエジプトの寄留期間が四百年程度であったと思わせるように書かれている。

この430年間という数字、見覚えがある。

"わたしの言う意味は、こうである。神によってあらかじめ立てられた契約が、四百三十年の後にできた律法によって破棄されて、その約束がむなしくなるようなことはない。"
ガラテヤ人への手紙 3:17

律法の授与は出エジプトと同年である(出19:1)から、パウロの言及する430年と出エジプト記の430年間はほぼ同じ期間を指している。では、パウロの言及する「律法の430年前の契約」とは何のことか?

"それは、アブラハムの受けた祝福が、イエス・キリストにあって異邦人に及ぶためであり、約束された御霊を、わたしたちが信仰によって受けるためである。兄弟たちよ。世のならわしを例にとって言おう。人間の遺言でさえ、いったん作成されたら、これを無効にしたり、これに付け加えたりすることは、だれにもできない。さて、約束は、アブラハムと彼の子孫とに(τω σπερματι)対してなされたのである。それは、多数をさして「子孫たちとに(τοις σπερμασιν)」と言わずに、ひとりをさして「あなたの子孫とに(τω σπερματι)」と言っている。これは、キリストのことである。"
ガラテヤ人への手紙 3:14-16

なんとパウロは律法授与の430年前にあったことはヤコブのエジプト下りらへんの出来事ではなくアブラハム契約であると述べている。

やはり、パウロの発言からも、エジプトの寄留期間は四百年より随分短いと思われる。

実は、これは七十人訳聖書の記述を採用するとうまくいく。

"イスラエルの人々がエジプトとカナンに住んでいた間は、四百三十年であった。"
出エジプト記 12:40(七十人訳)

この異読はサマリア五書(サマリア人が継承したモーセ五書)でも確認されているので確度が高い。おそらく、430年はアブラハムらのカナン滞在から始まっている。

一応430年の起点の候補として、子孫についての約束がされたポイントは三度ある。

1.召命

"時に主はアブラムに現れて言われた、「わたしはあなたの子孫にこの地を与えます」。アブラムは彼に現れた主のために、そこに祭壇を築いた。"
創世記 12:7

当時アブラハムは75歳(創12:4)

2.ロトとの別れ

"すべてあなたが見わたす地は、永久にあなたとあなたの子孫に与えます。"
創世記 13:15

3.割礼

"わたしはあなたと後の子孫とにあなたの宿っているこの地、すなわちカナンの全地を永久の所有として与える。そしてわたしは彼らの神となるであろう」。"
創世記 17:8

当時アブラハムは99歳(創17:24)。


430年がカナン寄留期間を含むとすれば、ナイーブには430年の起点はアブラハムが75歳の時と思われる。するとヤコブのエジプト下りは25年(イサク誕生時アブラハム100歳)+60年(ヤコブ誕生 創25:26)+130年(ヤコブのファラオ会見時の年齢) = 215年となり、カナン寄留とエジプト寄留は丁度430年の半分ずつということになる。

よってヤコブの子孫らのエジプト寄留期間は215年間となる。
出エジプト時にモーセは80歳であるから、モーセが誕生したのは寄留期間の135年目である。
レビ(享年137)とケハト(享年133)はヤコブのエジプト下り時にそれぞれ44歳程度と1歳以上であるので、確かにモーセ誕生時に死んでおり、出エジプト記冒頭の「その世代の人々もみな死んだ」の記述に整合している。

この135年間は(ケハトがアムラムを生んだ年齢) - (ケハトのエジプト下り時の年齢) + (アムラムのモーセを生んだ年齢) と等しい。最低でも、平均するとそれぞれ67歳で生んでいることになり、レビ族はヨセフ族と異なりかなり高齢で子を設けたらしい。ただ、アブラハムが100歳以上で、イサクが60歳で子を設けていることを考えれば、あり得ない数字ではない。よって一応215年の寄留期間はちゃんと四代で越えられてそうである。

もう一つ留意すべきこととして、単純な解釈では、アムラムの妻、モーセらの母ヨケベドはアムラムの叔母であるということがある。

"アムラムは父の妹ヨケベデを妻としたが、彼女はアロンとモーセを彼に産んだ。アムラムの一生は百三十七年であった。"
出エジプト記 6:20

つまりヨケベドはケハトの妹なので、レビの娘である。レビはエジプト下りの頃におよそ44歳である(前のメモ参照)ので、モーセが生まれるおよそ90年前に死んでいる。つまりヨケベドはモーセを生んだ時90歳以上となり、サラ(90歳で出産)以上の奇跡となる。うーんここだけはちょっと怪しさが残る。

ヘブライ語は親族関係の語が日本語より広義であるので、ケハトからエレアザルへの代数を崩さないようにすると、ヨケベドの親族関係をいじる必要があるかもしれない。と思ったら、ここも七十人訳が先手を打っていた。七十人訳はדודה(aunt)をθυγατερα του ασελφου του πατρος…「父の兄弟の娘」と訳している。つまりヨケベドはレビの孫娘でアムラムの従姉妹ということになり、不自然な高齢出産は必要なくなっている。七十人訳がどのような過程でアムラムとヨケベドの親族関係を特定したかは不明。(口伝 or 解釈?)



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