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米陸軍教範「マルチドメイン作戦における米軍2028」の解説と要約

アメリカ陸軍司令官のスティーブン・J・タウンゼントが、上記の陸軍教範を策定(2018年11月27日)した。この教範は、米海兵隊の「遠征前方基地作戦」(EABO)に対応した、米陸軍の琉球列島へのミサイル配備計画である。周知のように、米海兵隊のEABOに基づく、琉球列島へのミサイル配備計画は、よく知られているが、米陸軍のそれは、ほとんど知られていない。
しかし、例えば今年8月、奄美大島で行われた「オリエントシールド2022」での日米による地対艦ミサイル訓練のように、実戦的にも海兵隊に先行している。https://www.mod.go.jp/gsdf/news/press/2022/pdf/20220721_02.pdf

この先行する米陸軍の琉球列島配備の実態を以下、拙著『ミサイル攻撃基地化する琉球列島』から引用するとともに(拙著、第3章「米海兵隊・陸軍の第1列島線へのミサイル配備」から引用)。米陸軍教範による、その作戦・戦術の要旨を記述したい(DeepL翻訳)。
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米陸軍ミサイル部隊の第1列島線配備

(『ミサイル攻撃基地化する琉球列島―日米共同作戦下の南西シフト』第3章)

米海兵隊の第1列島線配備については、叙述してきたように日本でも問題になってきたが、米陸軍の第1列島線配備については、日本でも認識がほとんどなされていないかも知れない、しかし、米陸軍の第1列島線配備は、おそらく、米海兵隊のそれよりも先行して行われる可能性がある。

 すでに筆者は、クレピネビッチ提言による、米陸軍の第1列島線配備問題を取り上げてきたが(海洋プレッシャー戦略ほか)、それは「米軍の地上戦力・地上軍は、第1列島線上の防衛に貢献できる」として、「米陸軍は第1列島線上に地対艦ミサイルを配備」するとともに、「島嶼戦争で海峡封鎖の機雷戦・魚雷戦に貢献」できるというものであった。

 だが、米陸軍は、この提言以前から独自の第1列島線配備についての戦略を打ち出してきた。その始まりが、2014年版「陸軍作戦コンセプト」(AOC) の提示である。ここでは、「陸軍の作戦は、本質的にクロスドメイン作戦である」とした上で、米陸軍が「陸上から海洋、航空、宇宙、サイバードメインに対して戦力投射を行うことを通じて、統合戦力の移動と行動の自由を支援」することが強調されている。

 この「陸軍作戦コンセプト」以後、2017年には、米陸軍・海兵隊の共同構想として「マルチドメイン・バトル」(MDB)が発表されている。しかし、このMDBは、2018年からは陸軍だけの構想「マルチドメイン・オペレーション」(MDO)へと発展している。米海兵隊については見てきたとおりだ。

 MDOは、マルチドメイン――多領域・全領域で、同時進行での作戦遂行を想定――陸上、海上、航空等の物理的な環境だけでなく電子戦やサイバー攻撃、情報作戦と、作戦領域は宇宙にまで広がる。つまり、軍の垣根を越える、多様な作戦領域の能力を統合し、同時進行できる作戦能力を形成するとしている。

 このMDO構想下で編成されるのが、マルチドメイン・タスクフォース「多領域任務部隊」(MDTF)であり、これらは、特別部隊として、「電子戦やサイバー攻撃、情報作戦、およびミサイル能力を有する部隊として運用され、長距離精密兵器、極超音速ミサイル、精密ストライク・ミサイルなどの装備を保有するとしている。
(注 最初のMDTF-2017年に合同基地ルイス・マッコードで実験部隊として設立され、インド太平洋に焦点を合わせている。陸軍の2番目のMDTFは、2021年9月16日にドイツの米陸軍ヴィースバーデン駐屯地で活動し、ヨーロッパに整列している。陸軍はさらに3つのMDTFを創設する計画で、インド太平洋地域向けの2つ目、北極地域向けの1つ目、グローバル対応向けの1つ目がある。[マルチドメイン・タスク・フォース:2035年の米陸軍を覗き見る - 米陸軍協会])

 また米陸軍は、「米陸軍マルチドメイン戦闘団」 を最小限2個新設する計画があり、新設される1個隊は、欧州、もう1個隊は太平洋地域に配置されるとしており、アメリカ陸軍のライアン・マッカーシー長官は、この戦闘団は2022年に起ち上げるとしている。だが、その詳細はまだ明らかになっていない(日本・沖縄配備の可能性あり)。

さて、米陸軍の第1列島線配備が、米海兵隊よりもいち早く進んでいる証左が、米陸軍と陸自との「マルチ・ドメイン・オペレーション(MDO)」による共同演習である。この演習が最初に注目されたのが、2018年6月から8月にかけて行われたリムパック(環太平洋合同演習)だ。

 ハワイのカウアイ島の太平洋ミサイル射場、オアフ島のスコフィールドバラックス基地で行われたこの演習に参加したのは、陸自西部方面隊・第5地対艦ミサイル連隊などの約100名で、12式地対艦ミサイルが派遣され、米陸軍との共同の対艦ミサイル実射演習を実施した。米陸軍は、ノルウェー製の対艦ミサイルであるナーバス・ストライク・ミサイル(NSM)を装備した陸軍第17砲兵旅団等から約100人が参加した。これは、新編の「多領域任務部隊」(MDTF)との共同訓練でもあった。

 実際の射撃演習は、オアフ島沖の約90キロに「浮遊」する米軍戦車揚陸艦をミサイル攻撃し、陸自は1発が命中し、1発が外れた。ここで重要なのは、米陸軍と陸自という2つの部隊が、「マルチ・ドメイン・オペレーション」(MDO)という作戦演習に参加するだけでなく、相互に地対艦ミサイルの実射演習を行ったという事実である。つまり、米陸軍の第1列島線配備態勢が、実戦段階に入りつつあるということだ(上の写真は、リムパックで発射された米陸軍のナーヴァル・ストライク・ミサイル[NSM])。

 このリムパック以前から、陸自は毎年のように米陸軍との実戦的な共同演習を行っている。その1つが、日米共同実動訓練「オリエント・シールド19」(2019年9月17日)である。この演習は、熊本県の大矢野原演習場で、「地上から艦艇を攻撃する戦闘訓練」として行われた。

 米陸軍は、陸から艦艇を狙うミサイルを扱う部隊が参加し、高機動ロケット砲システム「ハイマース」(HIMARS)を、日本国内での共同訓練で初めて展開した。日本側は、西部方面特科隊などの「12式地対艦ミサイル」(SSM)の部隊が参加した。この演習では、演習場を離島に見立て、攻めてくる艦艇から陸地を守る戦闘訓練を共同で実施したという(ハイマースは、対艦ミサイルに転用可能で、2016年から沖縄キャンプ・ハンセンの第12海兵連隊にも配備)。

 陸自・西部方面隊は、同演習について次のように発表している(西部方面隊サイト)。
  「本訓練の特色は、領域横断作戦に必要な能力の獲得・強化を目的とした初の試みであり、米陸軍MDTFとの共同作戦における連携要領等を、指揮機関訓練及び実動訓練を通じて演練・検証しました。訓練を通じて、日米の編成・装備を駆使した 『領域横断作戦』と『マルチドメイン・オペレーション』に基づく共同対処の一手順を具体化しました」

 このように、米陸軍は、最近自衛隊との協力を重視しており、また、西太平地域の島嶼での作戦や沿岸部からの対艦戦闘能力の向上に重点をおき始めている。
 2021年7月に行われた「オリエント・シールド21」では、米陸軍はパトリオット対空ミサイルを奄美大島に展開し、「ハイマース」を米本土から北海道の矢臼別演習場に展開、陸自の多連装ロケットシステムと共同の実弾射撃を行ったのである(以下略)。

オリエント・シールド22(奄美大島)


●「マルチドメイン作戦における米軍2028」

(要約ノート) 
  スティーブン・J・タウンゼント(米国陸軍司令官・2018年11月27日)

*「国家防衛戦略」の未公表の要約に定義されている、統合軍の主要任務である「競争と紛争の両方における中国とロシアの侵略の抑止と撃退」に陸軍がどのように貢献するかを「国家防衛戦略の概要」の未公表分として記述。

●目的「マルチドメインバトルからマルチドメインオペレーションへ
「Army in Multi-Domain Operations 2028」は、以前に MultiDomain Battle で説明した考えを発展させたものである。この教範は、「国家防衛戦略の非機密な要約」で定義された統合軍の主要任務である「競争と紛争の両方における中国とロシアの侵略の抑止と撃退」に、陸軍がどのように貢献するかを説明する。
マルチドメイン作戦における米陸軍のコンセプトは、中国やロシアのような脱工業化、情報化国家の軍隊がもたらす具体的な問題に対する詳細な解決策を提案している。このコンセプトは中国とロシアに焦点を合わせている」

●「競争状態にある中国とロシア
中国とロシアは、継続的な競争状態において、米国の同盟、パートナーシップの決意を分断することによって、武力紛争に訴えることなく目的を達成するために、作戦環境の条件を利用する。外交・経済活動、非従来型戦争、情報戦(ソーシャルメディア、虚報、サイバー攻撃)、通常兵力の行使または威嚇を統合することによって、スタンドオフを生み出そうとするのである。
中国とロシアは、国や同盟の中に不安定さを作り出すことによって、政治的分離を生じさせ、その結果、戦略的曖昧さが友好的な認識、判断、反応の速度を低下させる。こうした競争的な行動を通じて、中国とロシアは武力衝突の閾値以下の目標を達成できると考えている。」

●「武力衝突における中国とロシア
武力紛争において、中国とロシアは、米軍とパートナー軍に容認できない損失を迅速に与え、米国が効果的に対応できるよりも早く、数日以内に作戦目標を達成するように設計された反アクセスおよび領域拒否システムを幾重にも使用することによって、物理的スタンドオフを達成しようとする。
過去 25年間、中国とロシアは、武力紛争における時限的かつ領域連合的な作戦アプローチを採用する統合軍の予測可能性が高まるのに対抗し、空戦を「分断」する体系的アプローチに投資し、これを開発してきた。その結果、反アクセス・領域拒否システムは、時間、空間、機能にお統合軍の諸要素を分離させる戦略・作戦上のスタンドオフを生み出している。さらに、中国とロシアはこうした反アクセス・領域拒否システムを改良し続け、関連する技術と技術を他の国家に広めている。統合軍は、こうした動きに追いついていない。統合軍は航空・海軍の優位を前提とした、予測可能なアプローチに基づく連続的な作戦を可能にする、比較的無防備な環境での作戦のために設計されている。」

●「中心的な構想
陸軍は、統合軍の一部門として、競争に勝つために多領域作戦を行う。必要な場合、陸軍は敵の反アクセスおよび領域拒否システムに侵入してこれを解除し、その結果生じる作戦の自由を利用して戦略目標を達成。
統合軍はどのようにして、支援地域の奥深くまで敵の反アクセス・領域拒否システムを浸透させ、戦略的・作戦的な機動力を可能にするのか?
武力紛争の場合、陸軍は敵の長距離システムを無力化し、敵の機動部隊に対抗し、戦略上および作戦上の距離から機動することによって、敵のアンチアクセスおよびエリアデナイザルシステムに即座に侵入する。

多領域編隊は、統合軍やパートナーとの能力を結集し、敵の長距離システムを迅速に攻撃する。前方展開部隊は、複数の領域で敵の攻撃に即座に対抗する。前方展開部隊は、敵の長距離監視・偵察能力を低下させ、欺瞞、分散、防護を併用することで、通信回線を維持することもできる。総兵力全体の能力を適切にバランスさせることで、結束力のある完全な能力を備えた前方展開部隊と、戦略的に適切な期間内に展開可能な遠征能力を提供する。」

●「多領域作戦と戦略目標
統合軍は、競争、武力紛争、および競争への復帰において、敵を倒し、戦略目標を達成しなければならない。競争において、統合軍はパートナーに向けられた強制、非従来型戦争および情報戦に対抗するため、積極的な関与を通じて競争空間を拡大させる。これらの行動は同時に、エスカレートを抑止し、敵対者が「戦わずして勝つ」試みを打ち破り、武力紛争に速やかに移行するための条件を整えるものである。

武力紛争が起きた場合、統合軍は、複数の領域からの効果を決定的な空間で最適化し、敵の戦略的・作戦的な反アクセス・領域拒否システムを突破し、敵の軍事システムの構成要素を解体し政治的結果に有利な状況を作り出す戦略・作戦目標を達成するために必要な行動の自由を活用することで、侵略を打ち負かす。競争への復帰において、統合軍は、戦力の再生と米国の戦略目標に沿った地域の安全保障秩序の再確立を可能にするために、獲得したものを統合し、さらなる紛争を抑止する。」

●戦略目標を達成するために、陸軍は統合軍やパートナーの一員として、またパートナーとともに、5つの作戦上の問題を解決する。
(1)「地域を不安定化させる敵の作戦を撃退し、暴力の拡大を抑止し、万一、暴力が拡大した場合には、武力紛争への迅速な移行を可能にするために、統合軍はどのように競争するのだろうか。
これまで米軍は、文化的、法的、政策的な理由から、武力紛争以下の競争ではしばしば消極的な姿勢に終始してきた。競争を成功させるには、陸軍が領域(宇宙やサイバースペースを含む)、EMS、および情報環境において積極的に関与することが必要である。陸軍は、米国に有利な条件での紛争を抑止し、紛争の閾値以下に競争空間を拡大しようとする敵の努力を打ち負かし、統合軍が武力紛争に迅速に移行できる条件を整えることにより、統合軍と省庁間が競争における主導権を獲得し維持することを可能にするものである。陸軍の態勢、能力(必要な権限を含む)、多領域作戦を実行する態勢は、敵のエスカレーションを抑止し、敵の情報戦や非通常戦に対抗し、武力紛争の脅威で米国のパートナーを威圧する敵の努力を弱め、紛争発生時の状況を設定するものである。敵の通常戦力が代理人に提供する支援を拒否または制限することで、米国のパートナーは自国を不安定にする企てにより容易に対抗することができる。武力紛争で勝利する能力を示すことで、米国を弱い、あるいは不屈のパートナーとして描く敵対者のシナリオに対抗することができる。このような行動により、統合軍が武力紛争に迅速に移行するための有利な環境が整う。」

(2) 統合軍はどのようにして、支援地域の奥深くまで敵の反アクセス・領域拒否システムを浸透させ、戦略的・作戦的な機動力を可能にするのか?
武力紛争の場合、陸軍は敵の長距離システムを無力化し、敵の機動部隊に対抗し、戦略上および作戦上の距離から機動することによって、敵のアンチアクセスおよびエリアデナイザルシステムに即座に侵入する。多領域編隊は、統合軍やパートナーとの能力を結集し、敵の長距離システムを迅速に攻撃する。前方展開部隊は、複数の領域で敵の攻撃に即座に対抗する。前方展開部隊は、敵の長距離監視・偵察能力を低下させ、欺瞞、分散、防護を併用することで、通信回線を維持することもできる。総兵力全体の能力を適切にバランスさせることで、結束力のある完全な能力を備えた前方展開部隊と、戦略的に適切な期間内に展開可能な遠征能力を提供する。

(3) 統合軍は、作戦・戦術上の機動性を確保するために、どのように敵の対接近・領域拒否システムを深層部で統合解除するのか?
統合軍は、敵の反アクセス・領域拒否システムを解除して、敵の敗北を促進する必要がある。スタンドオフ能力、残存能力の再統合阻止、作戦の自由を可能にする。エシュロンの陸軍部隊は、敵の長距離システムを撃破し、敵の中距離システムの無力化を開始するために、領域横断的な砲撃を行う。コンバージェンスは、敵を刺激し、観察し、攻撃するために、すべての領域、EMS、情報環境にわたる能力の使用を最適化する。収束はまた、敵の脆弱性を攻撃するための複数の選択肢を統合軍に提供することで、敵の長・中距離システムの隠蔽と防御の試みを複雑にさせる。統合軍、陸軍、および提携軍の機動部隊は、敵の中距離システムをさらに刺激し、敵の機動部隊を固定または孤立させるために作戦行動と欺瞞を実行する。

(4) 近接・深層作戦領域で敵を撃破し、作戦・戦略目標を達成するために、統合軍はどのように機動の自由を活用するのであろうか。
陸軍は近接・深度作戦領域において、敵の指揮系統の弱点及び防空・対地射撃への依存度を利用し、敵の撃破を完成させる。陸軍は欺瞞と他領域との融合により、敵の防衛力を物理的、仮想的、認知的に孤立させ、友軍がオーバーマッチと有利な戦力比を達成できるようにする。統合軍は、米軍の作戦目標を達成するまで、戦術的な反アクセス・領域拒否システムを分解し、さらなる活用を可能にすることを継続する。

(5) 統合軍はどのように再競争し、利益を強固にし、持続的な成果を生み出し、長期的な抑止のための条件を整え、新たな安全保障環境に適応しているのであろうか。
陸軍は、米国の政策立案者に政治的優位をもたらす重要な地形と住民の支配を維持することで、獲得したものを統合し、新たな安全保障環境を有利にするための条件を整備する。陸軍は、持続的な成果を得るために地形や住民を物理的に確保すること、パートナーや統合軍の能力を再生し、領域や情報空間を越えて積極的に関与することによって長期的抑止の条件を整えること、そして新しい安全保障環境に戦力構成を適合させることの3つを同時に行うことで成果を集約していくのである。これにより、米軍が地域の軍事構造を再生し、信頼できる抑止力を提供し続けるための時間を確保することができる。

●「陸軍の必要な能力セット
マルチドメイン作戦における米陸軍のコンセプトは、陸軍が以下のように統合軍内のクロスドメインオプションに貢献する能力を開発または向上させることを求めている。

(1) 中国やロシアの攻撃的な作戦に対抗し、武力紛争への拡大を抑止するため、地理的・陸軍全体の戦力態勢を調整すること。

(2) パートナー(日本等)の能力と相互運用性を構築し、基地とアクセス権の確立、装備と物資の事前配置、準備的な情報活動、EMSとコンピュータネットワークのマッピングなどの活動を通じて、戦域を設定することにより、作戦環境を準備すること。9F(陸軍資材近代化優先順位:陸軍ネットワークによる支援)

(3) 中国やロシアが仕掛ける非通常戦や情報戦が巧妙化する中、それを打ち破るためのパートナー(日本等)や同盟国の能力・体制を構築する。

(4) 作戦上または戦略上特に重要な都市部の理解と能力を高めることで、競争と紛争に備えた作戦環境を整える。

(5) 戦略支援地域から深部作戦地域まで、迅速な戦力投射、多領域作戦、独立作戦を支援するために必要な、信頼性、機動性、応答性の高い維持能力を提供する精密兵站を確立すること。

(6) 通常、紛争時に確保される、または上位組織への必要な権限や許可を確立し、競合状態での活動や紛争への迅速な移行を効果的に行う。

(7) 殺傷効果と非殺傷効果の精度、速度、同調を高める戦術と能力の開発を通じて、あらゆる階層で密集した都市地形で多領域作戦を実施する能力を向上させること。

(8) 中国やロシアの偵察、攻撃、統合兵器、非通常戦能力による脅威を伝え、それに対抗するクロスドメインの行動を通じて、信頼できる米国の情報物語を支援すること。

(9) 各階層の指揮官と幕僚が、すべての領域、EMS、情報環境における戦闘を可視化し、指揮できるようにし、決定的な空間において、組織と外部の能力を収束させること。そのためには、統合軍全体の能力をより迅速に収束させる新たなツール、訓練パラダイムの転換、人事・人材管理慣行の変革が必要である。また、陸軍の陣形が、国家、統合、商業、サービス機関のリポジトリやライブラリから、あるいは収集資産から直接、利用可能なすべての情報をシームレスに、かつ圧倒的な時間で活用するための訓練、人員配置、装備を備えていることも必要である。

(10) 中国やロシアの多層的で相互に補強し合う軍事力やシステムの特定の脆弱性を攻撃する能力を収束させることができるマルチ・ドメインのフォーメーションやシステムを統合軍司令官に提供する。これは、統合軍全体に存在する能力にアクセスし、それを活用する手段と能力を持つ指揮官と幕僚を作り出すことを意味する。(以下略)

●ロシアの軍事態勢
*ロシアの武力紛争以下の競争において目標を達成する。ロシアは、米国と友好国を政治的に引き離し、同盟国の協調的な対応を制限し、標的国を不安定化させようとするもので、競争関係にある。この任務を遂行するため、ロシアは国家・地区レベルの能力、情報戦(ソーシャルメディア、虚報、サイバー攻撃)、非通常戦を駆使して戦略目標を達成するための協調キャンペーンを展開する。ロシアは、通常戦力の存在と態勢を活用して、こうした取り組みを積極的に支援するとともに、武力紛争に迅速に移行する能力を示している(「スナップ・ドリル」など)。また、通常戦力は、統合軍の空・宇宙での行動の自由と遠征機動能力を脅かすため、この態勢はロシアにエスカレーションの優位性をもたらす。このような競争的行動を通じて、ロシアは米国との武力衝突の危険を冒すことなく目的を達 成することを目指している。(本文第2章)

*非従来型戦争
ロシアのSOF、地元の準軍事組織、活動家は、特定の地域や住民の支配を分離することにより、標的とする政府を不安定にするために非通常戦を行う。ロシアの非通常戦活動は、代理人や活動家のネットワークに、テロ、破壊活動、不安定させる犯罪活動、偵察、情報戦、直接行動による攻撃など、さまざまな作戦を実施する権限を与えている。これらの行動は、情報物語に物理的な裏付けを加えるものである。非通常戦能力は、偵察と、米国のパートナー領土内の地形および住民の一部に対する影響力または支配力を行使する能力によって、通常兵力を支援する。

*通常戦力
ロシアは、統合軍とそのパートナーに関して、戦力の有利な相関関係を作り出すために、通常戦力を競うように配置する。演習、デモンストレーション、および「スナップ・ドリル」は、部隊の即応性を高め、国家および地区レベルの ISR能力が収集・分析するための友好的な反応パターンを刺激する。ロシアの通常戦力は、限られた警告で既成事実の攻撃を行う能力を有していることが実証されている。ロシアの地対地ミサイル、長距離地対空ミサイル(SAM)、対抗空間、および統合軍地上部隊は、統合軍が効果的に対応する前に、米国のパートナーを物理的に孤立させ、前方に配置された守備を破壊できる位置にある。このような局地的な軍事的優位は、ロシアの強さを示す情報を支え、通常兵力を秘密裏に支援することで非通常戦を直接的に、あるいは友軍の対応を制約するエスカレーションの優位性を提供することで間接的に支援する態勢を整える。

*武力紛争中のロシア統合軍を切り離し、戦略的・作戦的なスタンドオフを実現する
ロシアの通常戦力は、米軍とパートナー軍に許容できない損失を与え、米国が効果的に対応する前に数日以内に作戦目標を達成するよう設計された、反アクセスおよび領域拒否システムの層を構築することによって、物理的対峙関係をさらに強化しようとするものである。これらの戦力は、米国本土の深部から作戦地域まで、全領域で活動する偵察によって可能になる。大規模な偵察コンプレックスによって強化されたこれらの脅威は、戦場の深さ全体にわたって同時攻撃を行うことができる。ロシアのシステムは、戦略上および作戦上の距離から遠距離システムを使って友軍の遠征作戦を阻止し、中・近距離システムから直接・間接射撃を行い、前方に展開した友軍を孤立させて破壊することによって、時間、空間、機能において統合軍を分離するように設計されている。

* 中距離と近距離のシステム
ロシアの地上連合軍では、中距離システムが射撃の大半を担っている。長距離システムと統合できる高度な中距離レーダーとSAMは、味方航空隊に大きな脅威を与える。標準的なMRLと大砲が大量に発射する火力は、敵の機動部隊と接近する前に破壊される可能性があり、味方地上軍にとって最大の危険となる。ネットワーク化されたマルチ領域偵察部隊は、敵の中距離射撃を可能にするために深く展開される。これらの部隊は、多数の地上観測チーム、無人航空システム、レーダー、信号傍受ユニットで構成される。さらに、敵は攻撃的なサイバー、SOF、宇宙基地、空爆、海上戦能力を投入し、連合軍の地上機動部隊を主戦場とするときにこれを強化することができる。中・短距離防空は、味方の航空監視能力、航空攻撃、攻撃航空、近接航空支援を、局所的にリスクを高めて活動するか、スタンドオフの範囲から効果を低下させることを余儀なくさせ、厳しく制限している。

*競争、武力紛争、競争への復帰におけるロシアの統合オペレーション
ロシア軍は武力紛争中に統合作戦を開始し、競争状態への復帰後もこれを継続する。統合作戦の間、ロシアは軍事力を再生し、再配置する一方、紛争で得た政治的利益を維持する。統合軍とパートナーが軍事的優位を得た状況で統合作戦が行われる場合、ロシアの核システムの使用または威嚇は、その利益を維持するための重要な要素となる。

大量破壊兵器は、競争への復帰の際に軍事的スタンドオフを提供し、ロシアが軍事力を再生・再配置し、利益を固めることを可能にする。大量破壊兵器、情報戦、非通常戦、代理人を組み合わせることで、ロシアは通常戦力が著しく低下しても、競争への復帰時に統合軍との戦いを継続することができる。この立ち回りは、敗走する敵軍に再編成のための時間と空間を与え、統合軍が作戦上の軍事的優位性を発揮できる範囲を限定する。

中国とロシアの軍隊は強力だが、MDOが利用しようとする弱点もある。中露両国は、現在の統合軍のよく知られたパターン、態勢、能力に対して有効な、相互に支援し合うシステムを導入している。統合軍の作戦パターンと戦力態勢を変更することで、既存の能力と能力の格差を緩和し、中ロの作戦上の不足を利用する機会を作ることができる。中国とロシアの軍隊は、重要な能力について、これまでも、そしてこれからも、有限の能力を有し続ける。統合軍がこれらの重要な能力を破壊または打ち負かす能力を実証すれば、中国とロシアが競争において目的を達成し、武力紛争で成功し、または統合作戦に効果的に移行するのを防ぐことができる。

●MDOを実施する(第3章)
*陸軍は、統合軍の一員として、競争に勝つためにMDOを実施する必要な場合、陸軍は敵の反アクセスおよび領域拒否システムに侵入してこれを解除し、その結果生じる作戦の自由を利用して戦略目標を達成し(勝ち)、有利な条件で競争への復帰を強制する。

・前方展開部隊
前方展開部隊は、陸軍の前方展開および交代制部隊と能力セットで構成される。前方展開部隊には陸軍の幅広い能力が含まれるが、競争と武力紛争への移行における役割のために特に価値があるのは、作戦指揮、情報、射撃、維持、治安部隊支援、文民、心理作戦、SOFである。前方展開部隊はまた、以下の能力を強化する。また、危機や紛争時に遠征軍が確立するのが難しい指揮統制、情報、標的、サイバースペースなどの既存の構造に統合することで、パートナーとの相互運用性を高めることができる。陸軍前方展開部隊の存続は、重要な戦闘、維持、防護、任務指揮能力を備えた統合戦略機動が可能になるため、統合軍の動的運用の基礎となる要素である。

・遠征軍
陸軍遠征軍は、敵の偵察、長距離射撃、宇宙、およびサイバースペース能力と接触しながら、米国または他の地域から戦略的距離を越えて機動する準備が整った編成である。空路で展開する部隊は、装備を持参するか、あらかじめ配置された装備を引き出し、警戒態勢に入ってから数日から数週間以内に戦闘態勢に入ることができる。海路で展開する遠征軍は、数週間以内に戦闘態勢に入る。遠征軍は、前方展開部隊がいない場合、あるいは追加的な作戦線を開くために、共同強行作戦を実施しなければならないこともある。紛争時、遠征軍が争点となる通信線に沿って展開する速度と効果は、前方展開部隊、予備役部隊、他国軍、およびパートナーの準備と支援に大きく左右される。

・マルチドメインフォーメーション
マルチドメイン陣形は、複数の領域で活動するために必要な弾力性を生み出す能力、能力、持久力の組み合わせを持っている。陸軍のすべての編隊は、ある程度までマルチドメイン能力を備えていなければならない。マルチドメイン陣形は、独立した作戦を実施し、クロスドメイン射撃を行い、人間の潜在能力を最大化することができる。弾力性に最も重要な資材は、高度な防護システム、シグネチャの低減、敵の妨害に強い冗長な通信チャネル、複数の維持ネットワーク、強固な機動支援能力と能力、多層防空、多層偵察、および多領域隠蔽能力である。

・ 独立した作戦を行う
多領域編隊は、戦域作戦の意図の範囲内で、争いのある環境での作戦を継続することにより、独立した作戦を行う。独立機動とは、作戦環境の制約の下で活動する能力、能力、権限のあるイニシアティブを有する編隊を意味する。多領域編隊は、隣接部隊や支援部隊との連絡を回復するまで、自らを維持し保護する有機的な能力を有している。多領域編隊は、視覚・電磁シグネチャーの低減、敵の妨害に強い冗長な通信チャネル、物流需要の低減、医療支援の強化、複数の維持ネットワーク、強固な機動支援能力と能力、多領域隠蔽能力などの能力により、その機能を発揮できる。

・領域横断的な砲撃を行う
領域横断的な射撃能力は、指揮官に選択肢を提供し、敵の反アクセス・領域拒否システムによる一時的な機能分離を克服するための統合軍内の弾力性を構築することができる。多領域編隊は、近代化された防空・ミサイル防衛と長距離地上砲撃能力を超えて、航空システム、高度防護システム、重層防空・偵察、EW装置、マルチスペクトルセンサー融合弾、サイバー空間・宇宙・情報関連能力を通じて、クロスドメインな砲撃能力を発揮することが可能である。

● MDOと戦略目標
マルチドメイン作戦における米軍は、国家防衛戦略で明示された米国の戦略目標、特に競争と紛争における中国とロシアの抑止と打倒を達成するために考案された作戦レベルの軍事概念である。この概念はまた、陸軍の4つの永続的な戦略的役割、すなわち紛争の防止、安全保障環境の形成、大規模地上戦闘作戦での優勢、利益の統合の遂行を支援するものである。これらの戦略目標は、陸軍が 3-1 章で述べた 5つの複合領域問題を解決することを必要とする。以下の節では、MDOがこれらの問題のそれぞれをどのように解決するのかを説明する。第 3節では、武力紛争に至らない範囲での侵略の撃退と紛争抑止を競うという第 1の問題について述べる。

*マルチドメイン能力を持つ統合軍は、3つの異なる方法で友好的な戦略目標を達成し(勝ち)、敵対者を打ち負かすことができる。戦略目標を達成するための好ましい方法は、エスカレーションを抑止し、敵対者の不安定化努力を打ち負かす効果的な競争である。抑止が失敗した場合、2つ目の方法は、前方展開部隊と遠征部隊を組み合わせて、数日以内に敵の目標を否定し、数週間以内に相対的に有利な作戦上の地位を獲得し、許容できる持続可能な政治的結果をもたらすことである。どちらの側も短期間の紛争で目的を達成できない場合、第3の方法は、長期間の戦争で敵を打ち負かすことである。この3つの方法は相互に関連している。必要であれば長期戦に勝利する意志と能力は、敵対勢力に、武力紛争以下の競争では既成事実を達成できず、目的も達成できないことを納得させるために不可欠な要素であるからである。

*「マルチ・ドメイン・オペレーション」(MDO)の作戦構想
侵入し、統合を解除し、活用する。
武力紛争が発生した場合、陸軍の前方展開部隊と遠征部隊は、調整された戦力配置、マルチドメイン陣形、敵の深部攻撃と直ちに戦うための収束を組み合わせることにより、侵略の迅速な撃退を可能にする。陸軍の長距離射撃は、統合マルチドメイン能力と融合して、敵の反アクセス・領域拒否システムを貫通・解除し、統合軍の戦略・作戦行動の自由を可能にする。戦域内では、陸軍は敵の対接近・領域拒否システムの重要な構成要素、特に長距離防空・射撃システムに対して、多領域にわたる能力を最適に活用するために能力を収束させる。敵の長距離システムに対する収束は、最初の侵入を可能にする。これにより、機動が打撃を、打撃が機動を可能にする空対地統合作戦への素早い移行の条件が整う。近接・深度領域におけるMDOは、射撃、機動、欺瞞を組み合わせて、敵の防衛力を物理的、仮想的、認知的に孤立させ、友軍が局所優勢と有利な戦力比を達成することを可能にするものである。
陸軍は、敵の反アクセスおよび領域拒否システムに侵入し、その統合を解除し始めた後、敵の脆弱な部隊やシステムを利用して敵軍を撃破し、友軍の作戦目標を達成する。陸軍は、統合軍の一員として、与えられた戦略目標を迅速に達成し(勝利)、獲得した戦果を統合する。

*「マルチ・ドメイン・オペレーション」(MDO)の4つの能力
(2) 反アクセスシステムおよび領域拒否システムを貫通する能力
陸軍の長距離射撃を前方に展開することにより、統合軍は敵の長距離システム(IADS、SRBM、長距離MRL、および指揮統制)の無力化を直ちに開始し、数週間の作戦を支援するのに十分な弾薬を戦地に備蓄しておくことができるようにしなければならない。
(4)MDOを支援する能力
陸軍は、統合軍が紛争時の作戦テンポを決定し維持するのを容易にするため、戦力態勢を調整し、多領域編隊を実戦配備しなければならない。これらの任務を確実に遂行するために、戦域と野戦軍は指揮統制機構を確立し、相互運用性を確保し、前方展開部隊を維持・保護する。

●武力紛争時のMDO戦略、作戦上のスタンドオフを貫通
統合軍は、敵の長距離システムを即座に無力化し、全領域、EMS、情報環境における敵機動部隊と競合し、戦略・作戦機動を行って、戦略・作戦スタンドオフの突破を可能にするために、積極的に競争に参加することを活用する。敵の長距離システムを無力化することで、友軍の通信回線への脅威を軽減し、戦略・作戦行動を可能にする。同時に、前方展開部隊は、敵の長距離・中距離システムの範囲内で活動することにより、「内側から」敵のスタンドオフの打破を開始する。これらの取り組みにより、敵の攻撃に効果的に対抗し、戦略・作戦上の距離から作戦地域内への統合部隊の部隊移動の自由度を高め、決定的な空間において敵の長・中距離システムの崩壊を可能にする。

*敵の長距離システムを無力化する。                 競争期間中の広範な準備のおかげで、前方に配置された陸軍の射撃・防空部隊は、武力紛争への移行中に敵の長距離対アクセス・領域拒否システム(弾道ミサイル、巡航ミサイル、長距離IADS)の無力化に直ちに着手する。

・陸軍と軍団は長距離砲兵部隊を採用し、敵の長距離システムを無力化するために統合・連合能力を統合する。これらの階層における火砲隊は、統合軍司令官に対して、近接、深層機動、作戦深層火砲の各領域に対応するクロスドメイン火砲を提供する。他のマルチドメイン能力との組み合わせで、これらの射撃は敵の統合防空・長距離射撃システムを無力化し始める。

・地上からの長距離砲撃は、統合軍に冗長な攻撃手段を提供し、敵にさまざまなジレンマをもたらす。長距離対地射撃は、点状防御を圧倒し、より広い地域の目標を攻撃する能力を備え、(情報により数分以内に)即応性のある攻撃能力を提供する。長距離対地射撃は、敵が有効な対抗手段を持たない多くの異なるシステムに対する複数の形態の攻撃に同時に対応せざるを得ないため、敵の防御を複雑化させる。
陸軍が提供する機動性の高い分散型長距離射撃システムは、敵の反撃、偵察、照準も複雑化させる。陸軍の長距離射撃システムと他のマルチドメイン能力を組み合わせることで、統合軍は敵の長距離システムを無力化するための努力の速度と規模を増大させることができる。

・敵機動部隊に対抗せよ。
前方展開部隊は、敵機動部隊による敵の攻撃に直ちに対抗する。戦力構成と情報・警報の量に応じて、近接戦闘地域の前方展開部隊は、一個旅団から紛争前に空輸で展開された前方展開部隊、ローテーション部隊、遠征部隊の全師団に至るまで様々な強さになり得る。攻撃された場合、近接地域(敵が奪取しようとしているパートナー地域)の前方展開部隊は、パートナー部隊と連携して、敵に損失を与え、作戦目標の達成と利益の統合を遅らせることができる。

・敵の目標を拒否する。
前方展開機動部隊とパートナー国の通常部隊は、特に密集した都市部の地形で防衛の利点を生かし、敵軍を萎縮させて速度を落とし、友軍の遠征部隊の到着を可能にする。陸軍部隊は、敵の前進を遅らせ、その作戦を複雑にするために、競争中の準備を活用して友好都市部を硬化させる。師団と旅団は、通信事情が悪化しても、支援地域(次項参照)からの共同・陸軍のマルチドメイン能力と連携して、有機的なクロスドメイン機動(主に射撃と防空、師団が存在する場合はEWと航空)を駆使する。野戦軍は3つの可能性タスクを達成することにより、近接地域での戦闘を形成し、師団と旅団を支援する。

*長距離射撃システムを攻撃する。
統合軍は、敵の長距離システムを守る点状防御を克服するために、領域横断的なシナジーを生み出す。敵の長距離システムに対する陸軍の主な攻撃能力は、長距離精密射撃(LRPF)である。これは、深層機動領域と深層射撃領域で確認された敵目標を攻撃するための、最も低コスト、低リスク、かつ最も即応性の高い方法である。LRPFは、アクセスするために敵の防衛力を抑制する必要がなく、正確な交戦時間が不明な場合に備えて発射準備ができ、広い範囲にわたって機会目標を交戦することができる。しかし、LRPFは飛行時間が長いため、静止している目標への攻撃に最も適している。海上攻撃やスタンドオフの空爆(空中発射巡航ミサイル等)は、LRPFに近い特性を持つ。第5世代航空機は、移動する目標や、航空機とパイロットが改善できる信頼性の高いが忠実度の低い位置データを持つ目標を交戦させる主要な手段である。陸軍は、統合軍が敵の長距離システムを刺激し、確認し、攻撃することを持続的に可能にすることで、反アクセスおよびエリアデナイアルシステムの統合を解除する最初の重要な作業を行うことになる。

*敵の中距離射撃システムを無力化する。
野戦軍が敵の長距離砲システムを制圧または撃破するのに対し、軍団は敵の中距離砲システム(自走砲と標準MRL)の撃破に重点を置く。この作業は作戦行動(次節)と同時に行われ、軍団は必要に応じてこの2つの間で資源を移動させる。軍団の作戦火器司令部は、陸軍と統合された複数の確認攻撃の組み合わせを収束させることにより、敵の中距離火器を破壊する。敵は各連合軍に数十の長距離システムを持っているが、数百の中距離システムを持っている。長距離システムと比較して、大量の中距離システムを攻撃するには、より迅速に、より大規模に実行できる、より単純な収束方法が必要である。

*敵の短距離システムを無力化する。
全領域、EMS、情報環境(攻撃航空、UAS、短距離防空、EW、対位置・誘導・タイミング、サイバースペース対策、射撃、機動部隊など)の能力を結集して、敵の短距離システムを無力化する。部門は、宇宙制御と宇宙ベースの能力について、劇場軍と調整する。師団は、師団の有機的な防空・航空能力(UASを含む)を統合航空作戦と統合するために、野戦軍(陸戦軍として行動する場合は軍団)と連携する。すべての編隊は独自のサイバースペースを防衛するが、上級戦術司令部(野戦軍または軍団)は、短距離で独自に発生する攻撃を無力化するために、師団に追加のサイバー防衛チームを割り当てる。

*密集した都市地形での作戦
密集した市街地は、作戦のテンポが遅くなりがちで、大量の物資、イネーブラ、戦力を消費するため、友軍の作戦の自由を活用する上で特に困難が伴う。密集市街地では、師団が機動力の基盤であることに変わりはないが、特殊能力を結集し、多国籍および省庁間パートナーと連携するために、野戦軍や軍団からのさらなる支援が必要になる。司令官が密集した都市部を迂回することを決めた場合、マルチドメイン能力があれば、仮想隔離、無人センサーの使用、および欺瞞によって通信線の確保にかかるリスクとコストを削減することができる。他の例では、統合軍は連合軍をマルチドメインの資産や能力で補強することで、連合軍を有効にすることができる。陸軍は、密集市街地が軍事的、経済的、または政治的価値により決定的な空間となる場合、そこで戦うことになる。密集した都市地形は、サイバースペースやEMSベースの武器を使用する可能性を高めるが、それらの能力を的確に使用するための要件も高める友軍や民間人を巻き添えにする可能性があるため、物理的および仮想的な兵器の使用には、詳細な情報の準備、計画、指揮監督を必要とする。

●MDOは、陸軍に対し、統合軍に領域横断的な選択肢を提供するための能力を、以下の方法で開発または改善することを求めている。
(1) 中国やロシアの攻撃的な作戦に対抗し、武力紛争への拡大を抑止するため、地理的・陸軍全体の戦力態勢を調整すること。
(2) パートナー(日本等)の能力と相互運用性を構築し、基地やアクセス権の確立、装備や物資の事前配置、準備的な情報活動、EMSやコンピュータネットワークのマッピングなどの活動を通じて、戦域を設定することにより、作戦環境を準備する。
(3) 中国やロシアが主導する非従来型戦争や情報戦がますます巧妙化していることに対抗するため、パートナーや同盟国の能力・制度を構築する。
(4) 作戦上または戦略上特に重要な都市部の理解と能力を高めることで、競争と紛争に備えた作戦環境を整える。
(5) 戦略支援地域から深部作戦地域までの迅速な戦力投射、MDO、独立作戦を支援するために必要な、信頼性、機動性、応答性の高い維持能力を提供する精密兵站を確立すること。
(6) 通常、紛争時に確保される、または上位組織への必要な権限や許可を確立し、競合状態での活動や紛争への迅速な移行を効果的に行う。
(7) 殺傷効果と非殺傷効果の精度、速度、同調を高める戦術と能力の開発を通じて、あらゆる階級で密集した都市地形で MDOを実施する能力を向上させること。
(8) 中国やロシアの偵察、攻撃、統合兵器、非通常戦能力による脅威を伝え、それに対抗するクロスドメインの行動を通じて、信頼できる米国の情報物語を支援すること。(以下略)
 
●付録B 「マルチ・ドメイン・オペレーション」(MDO)の主な要求能力
*高度に競合する環境で MDOを実施するには、陸軍はパートナーの能力と相互運用性を構築し、基地とアクセス権の確立装備と物資の事前配置、情報活動の準備、EMSとコンピュータ・ネットワークのマッピングなどの活動を通じて戦場を設定し、作戦環境を準備する能力が必要である(陸軍の近代化優先事項:陸軍ネットワーク)。

c. 陸軍は、高度に紛争化した環境でMDOを実施するため、中国やロシアが推進する非通常戦や情報戦がますます巧妙化する中で、パートナーの能力や能力を高める能力を必要としている。

d. 高度に競合する環境で MDO を実施するためには、陸軍部隊は、作戦上または戦略上特に重要な選択された都市部の理解と能力を高めることによって、作戦環境を競合と紛争のために準備する能力を 必要とする。

●密集した都市部の地形
a.密集した都市部の地形の特徴。密集した都市部の地形は、武力紛争の閾値以下の競争、敵の反アクセスおよび領域拒否システムの侵入と解除、敵軍を倒すための機動力の活用、利益の統合など、友軍と敵軍の作戦のあらゆる側面を複雑にする独自の特性を持っている。物理的特性(都市部の規模、都市密度、インフラなど)は、機動力を制限し、状況把握を制限し、敵の陣地に照準を合わせて効果を発揮するための独自の問題を引き起こす。認知的特性(例えば、内外のつながりの度合い、人的地形の人口統計、制度、統治)は政治的決定に影響を与え、それが作戦、交戦規則、物語を形成する。最後に、DUTにおける作戦特性(敵の種類、共同アクセスの程度、任務、統合部隊の種類など)は、兵力と能力の必要条件を押し上げる。

(1)フィジカル被占領地の物理的特性は、競争と武力紛争のあらゆる側面に影響を及ぼす。人工の地形と自然の障壁は、機動作戦を断片化し、挫折させる。構造物の密度と多様性は、敵の位置と強さを不明瞭にし、味方の通信を困難にし、破壊されると機動性と対消滅の問題を引き起こす瓦礫を生み出す。非戦闘員の大規模な集団は、機動作戦と射撃作戦を複雑にし、後方地域の能力を圧倒し、情報収集と戦闘に困難をもたらす。各都市にはそれぞれ課題があるが、すべての都市作戦は、戦闘と安定の両面で大規模な兵力投入を必要とする。

●付録F 実戦部隊から得た教訓
*米陸軍のマルチドメイン作戦のコンセプトを伝えるための教訓―陸軍は、マルチドメイン作戦における米軍のコンセプトをさらに伝え、洗練させるために、実験と分析の厳格なプロセスを開始した。2017年、陸軍参謀総長(CSA)は、MDOの側面を実行できる前方駐留フォーメーションとして、マルチドメイン・タスクフォース(MDTF)の設計とテストを指示した。
MDTFは、長距離精密統合打撃と、航空・ミサイル防衛、電子戦、宇宙、サイバー、情報作戦を統合するよう設計されており、競争と紛争の両方で、すべての領域、EMS、情報環境にわたって活動し、敵の反アクセスおよび領域拒否戦略を打ち破るための新しい能力を統合軍と連合軍に提供するものである。MDTFは、その競争力と初期浸透力を考えると、現在開発中の他の多領域編隊の先駆けとして、2028年までにMDO対応陸軍を実現するための不可欠な第一歩となる。

*太平洋地域では、最初の実験的な MDTFを構築し、将来の MDTF設計に情報を提供するため、複数年にわたる合同・複合実験プログラムを実施している。すべての領域、EMS、および情報環境で能力を発揮する前方駐留MDTFは、敵に新たなジレンマをもたらし、敵の潜在的戦争計画を複雑化させることで抑止力を強化する。

紛争時には、MDTFは敵の反アクセスおよび領域拒否システムを早期に消耗させ、内部から戦闘部隊を支援することにより、戦闘作戦の成功を可能にし、それによって今日危険にさらされている統合および複合機動を再び可能にする。
2018年の数多くの実験と演習を通じて、MDTFは、これまで達成されなかった方法で、すべてのドメイン、EMS、および情報環境にわたるシステムとサービスの連携に成功した。
最も重要なのは、MDTFが、海上と空中の標的に対する複合的な運動論的戦闘を成功させるための条件整備に役立つ、層状の非運動論的効果(EW、宇宙、サイバースペース、情報作戦)を採用する方法を実証したことである。太平洋軍の取り組みは、陸軍と統合軍の双方に重要な教訓をもたらし、MDOのコンセプトから実戦能力への移行を迅速かつ効果的に行うことを可能にしている。
2028 年までに MDO対応の陸軍を実現するために、JWA演習は陸軍に「MDOの運用化」に向けたアプローチに焦点を当てる貴重な機会を提供する。

●参考資料 『ミサイル攻撃基地化する琉球列島―日米共同作戦下の南西シフト』


私は現地取材を重視し、この間、与那国島から石垣島・宮古島・沖縄島・奄美大島・種子島ー南西諸島の島々を駆け巡っています。この現地取材にぜひご協力をお願いします!