リスク・アプローチの考え方

■監査基準の改訂2002
1991年の監査基準の改訂でリスク・アプローチの考え方をとり入れたところであるが、なおも監査実務に浸透するには至っていない。 その原因の一端は監査基準の中でリスク・アプローチの枠組みが必ずしも明確に示されなかったことにもある。
リスク・アプローチに基づく監査は、重要な虚偽の表示が生じる可能性が高い事項について重点的に監査の人員時間を充てることにより、監査を効果的かつ効率的なものとすることができることから、国際的な監査基準においても採用されているものである。日本の監査実務においてもさらなる浸透を図るべく、改訂基準ではリスク・アプローチに基づく監査の仕組みをより一層明確にした。

監査人は、監査リスクを合理的に低い水準に抑えるために、固有リスク統制リスク暫定的に評価して発見リスクの水準を決定するとともに、/監査上の重要性を勘案して監査計画を策定し、これに基づき監査を実施しなければならない。

2002実施基準一1

★リスク・アプローチの意義
リスク・アプローチに基づく監査は、重要な虚偽の表示が生じる可能性が高い事項について重点的に監査の人員や時間を充てることにより、監査を効果的かつ効率的なものとすることができる。
監査実務においてさらなる浸透を図るべく、リスク・アプローチに基づく監査の仕組みをより一層明確にした。

★リスクの諸概念及び用語法
固有リスク、統制リスク、発見リスクという三つのリスク要素と監査リスクの関係を明らかにすることとした。監査実務において、これらのリスクは、実際には複合的な状態で存在することもあり、必ずしも明確に切りわけられるものではないが、/改訂基準ではリスク・アプローチの基本的な枠組みを示すことを主眼としており、実際の監査においてはより工夫した手続が用いられることになる。

◆監査リスク
監査人が、財務諸表の重要な虚偽の表示を看過して誤った意見を形成する可能性をいう。

◆固有リスク
関連する内部統制が存在していないとの仮定の上で、財務諸表に重要な虚偽の表示がなされる可能性をいい、
・経営環境により影響を受ける種々のリスク
・特定の取引記録及び財務諸表項目が本来有するリスク
からなる。

◆統制リスク
財務諸表の重要な虚偽の表示が、企業の内部統制によって防止又は適時に発見されない可能性をいう。

◆発見リスク
企業の内部統制によって防止又は発見されなかった財務諸表の重要な虚偽の表示が、監査手続を実施してもなお発見されない可能性をいう。

★リスク・アプローチの考え方
リスク・アプローチに基づく監査の実施においては、監査リスクを合理的に低い水準に抑えることが求められる。
監査人の権限監査時間等には制約もある中で、財務諸表の利用者の判断を誤らせることになるような重要な虚偽の表示を看過するリスクを合理的な水準に抑えることが求められる。
このため、固有リスク統制リスクとを評価することにより、虚偽の表示が行われる可能性に応じて、監査人が自ら行う監査手続やその実施の時期及び範囲を策定するための基礎となる発見リスクの水準を策定することが求められる。

例えば、固有リスク及び統制リスクが高い(虚偽の表示が行われる可能性が高い)と判断したときは、自ら設定した合理的な監査リスクの水準が達成されるように、発見リスクの水準を低く(虚偽の表示を看過する可能性を低く)設定し、より詳細な監査手続を実施することが必要となる。
固有リスク及び統制リスクが低いと判断したときは、発見リスクを高めに設定し、適度な監査手続により合理的な監査リスクの水準が達成できることとなる。
このように、固有リスクと統制リスクの評価を通じて、発見リスクの水準が決定される。

★リスク評価の位置付け
リスク・アプローチの考え方は、虚偽の表示が行われる可能性の要因に着目し、その評価を通じて実施する監査手続やその実施の時期及び範囲を決定することにより、より効果的でかつ効率的な監査を実現しようとするものである。
これは、企業が自ら十分な内部統制を構築し適切に運用することにより、虚偽の表示が行われる可能性を減少させるほど、監査も効率的に実施され得ることにもなる。
したがって、リスク・アプローチに基づいて監査を実施するためには、監査人による各リスクの評価が決定的に重要となる。
そのために、
その他経営活動に関わる情報を入手することが求められる。
監査人がこれらの情報の入手やリスクの評価を行うに当たっては、経営者等とのディスカッションが有効であると考えられ、こういった手法を通じて、経営者等の認識や評価を理解することが重要となる。

★監査計画の充実
リスク・アプローチのもとでは、各リスクの評価と監査手続、監査証拠の評価ならびに意見の形成との間の相関性が一層強くなり、この間の一体性を維持し、監査業務の適切な管理をするために監査計画はより重要性を増している。

■監査基準の改訂2005
リスク・アプローチに基づく監査は、重要な虚偽の表示が生じる可能性が高い事項に重点的に監査の人員時間を充てることにより、監査を効果的かつ効率的に実施できることから、1991年の監査基準の改訂で採用し、2002年の監査基準の改訂で、リスク・アプローチに基づく監査の仕組みをより一層明確にしたところである。

★リスク・アプローチの基本的な考え方
財務諸表に重要な虚偽の表示が生じる可能性に応じて、発見リスクの水準を決定し、これに基づいて監査手続、その実施の時期及び範囲を計画し、実施する。

◆定義
重要な虚偽の表示が生じる可能性が高い事項について重点的に監査の人員時間を充てることにより、監査を効果的かつ効率的なものとすることができる監査の実施の方法

◆採用の根拠
重要な虚偽の表示を発見するという財務諸表監査の目的
監査資源の制約


経営環境等の評価と重要性の基準設定を基礎におき、その上で内部統制の有効性に関する評価を監査実施プロセスの基軸とする。

監査計画を立案する段階における内部統制に関する有効性の予備的評価の重要性


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