実施基準一 2 事業上のリスク等が財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす可能性

監査人は、監査の実施において、内部統制を含む、企業及び企業環境を理解し、これらに内在する事業上のリスク等が財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす可能性を考慮しなければならない。

実施基準一2

監査人は、監査計画の策定に当たり、景気の動向、企業が属する産業の状況、企業の事業内容及び組織、経営者の経営理念、経営方針、内部統制の整備状況情報技術の利用状況その他企業の経営活動に関わる情報を入手し、企業及び企業環境に内在する事業上のリスク等がもたらす財務諸表における重要な虚偽表示のリスクを暫定的に評価しなければならない。

実施基準二2

監査人は、企業が利用する情報技術が監査に及ぼす影響を検討し、その利用状況に適合した監査計画を策定しなければならない。

実施基準二6

(3)経営者及び監査役等の責任
経営者には、…財務諸表に重要な虚偽の表示がないように内部統制を整備及び運用する責任があること
(4)監査人の責任
財務諸表監査の目的は、内部統制の有効性について意見表明するためのものではないこと

報告基準三

◆内部統制の理解
監査に関連する内部統制の理解には、内部統制のデザインの評価と、それが業務に適用されているかどうかを判断することが含まれる。
内部統制のデザインの評価には、内部統制が単独で又は他のいくつかの内部統制との組合せによって、重要な虚偽表示効果的に防止又は発見・是正できるかどうかを検討することを含む。

◆事業上のリスク
企業目的の達成や戦略の遂行に悪影響を及ぼし得る重大な状況、事象、環境及び行動の有無に起因するリスク、又は不適切な企業目的及び戦略の設定に起因するリスクをいう。

事業上のリスクには、直ちにアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクにつながるものもあれば、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクにつながるものもある。

◆事業上のリスクに含まれるもの
事業上のリスク
・企業環境
内部統制
→リスク評価の最初の段階で十分に理解する。

今日、事業上のリスクが動機となって生ずる経営者不正や、内部統制を無視した経営者不正が多くなっている。そのため、事業上のリスクや内部統制を含む企業及び企業環境の十分な理解が重視される。

◆経営者が評価の対象とする事業上のリスク

◇企業のリスク評価プロセス
財務報告に影響を及ぼす事業上のリスクを企業が識別し、識別したリスクへの対処方法を決定するプロセスをいう。

◆監査人が評価の対象とする事業上のリスク
 監査人が被監査会社の事業上のリスクを評価する目的は、より的確に重要な虚偽表示のリスクを識別し評価することである。
 評価の対象とする事業上のリスクは、経営者が評価の対象とする事業上のリスクのうち、財務報告の信頼性に影響を与え、財務諸表の重要な虚偽表示のリスクとなる可能性のあるものに限られる。
 監査人は、全ての事業上のリスクを識別し評価する責任を負っているわけではない。

◆事業上のリスクと財務諸表の重要な虚偽表示のリスクの関係
事業上のリスクは財務諸表の重要な虚偽表示のリスクを含み、それよりも広義のリスクである。監査人は財務諸表の重要な虚偽表示のリスクを識別するために事業上のリスクを識別する。


◆リスク評価手続の一環として内部統制を含む企業及び企業環境を理解することの必要性
不正又は誤謬による重要な虚偽表示のリスクを評価するため
・リスク対応手続を立案し、実施するため

企業及び企業環境を十分に理解しない場合
重要な虚偽表示のリスクの評価が不十分となる。

■監査基準の改訂2005
現実の企業における日常的な取引や会計記録は、多くがシステム化され、ルーティン化されてきている。

財務諸表の重要な虚偽の表示は、経営者レベルでの不正や、事業経営の状況を糊塗することを目的とした会計方針の適用等に関する経営者の関与等から生ずる可能性が相対的に高くなってきていると考えられる。
また、経営者による関与は、経営者の経営姿勢内部統制の重要な欠陥、ビジネス・モデル等の内部的な要因と、企業環境の変化や業界慣行等の外部的な要因、あるいは内部的な要因と外部的な要因が複合的に絡みあってもたらされる場合が多い。

一方、監査人の監査上の判断は、財務諸表の個々の項目に集中する傾向があり、このことが、経営者の関与によりもたらされる重要な虚偽の表示を看過する原因となることが指摘されている。

そこで、リスク・アプローチの適用において、リスク評価の対象を広げ、監査人に、「内部統制を含む企業及び企業環境を十分に理解し、財務諸表に重要な虚偽の表示をもたらす可能性のある事業上のリスク等を考慮すること」を求めることとした。


経営者不正に対処するためには、監査人が財務諸表の個々の項目に集中するだけでなく、財務諸表全体レベルのリスク評価も重要であり、そのために企業及び企業環境の十分な理解を求めている。
経営者の関与に起因する重要な虚偽の表示を看過しないためには、監査人が企業及び企業環境を十分に理解する必要がある。

◆内部統制
企業目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスをいう。

★内部統制は企業目的の達成に関して、絶対的ではないが合理的な保証を経営者に提供する仕組みであるといわれる。絶対的ではなく合理的である理由は?

①経営者の判断:コスト・ベネフィット
内部統制の有効性をどの程度とするかは経営者の判断に委ねられている。通常、経営者は内部統制の整備・運用に伴う費用とそれから得られる効果とを勘案して、その有効性の程度を決定する。

②内部統制の限界:機能しない場合
・内部統制担当者の判断の誤りや不注意により、内部統制からの逸脱が生じた場合
・内部統制担当者等が共謀した場合
・内部統制の責任者自身が内部統制を無視した場合
・内部統制を設定した当初は想定していない取引が生じた場合


監査人が重要な虚偽表示リスクを識別し評価する際に、監査に関連する内部統制を理解することは、内部統制の有効性に対する意見を表明するためのものではない。

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