見出し画像

作詞家という職業の謎

作詞通信講座ATOZism
作詞通信講座ATOZism

 23年間、作詞家という職業で名乗ってきました。この作詞家という職業は、なかなかに謎が多い、不思議な仕事だと思います。

 日本の作詞家の名前を何人知っていますか?と誰かに聞けば2、3人の有名な、あの先生方のお名前は思い浮かぶことでしょう。

 でもきっと、僕の名前を知っている人なんて稀有。作曲家について尋ねてもそうなのだと思う。10人ほどの作家名を言える人は音楽業界に片足を突っ込んでいるか業界の人。世間の人々は案外、クリエイターの名前なんて気にして音楽を聴いていない。音楽は音楽。作家は作家。

 この23年、どうすれば作詞家になれるのか、と聞かれることもよくありました。僕がデビューした際の経緯について興味を持つ人もいました。

 作詞家になるための方法、実際の作家の方々のデビューまでの経緯も様々で、もしも今、僕にこの質問を投げかけられたなら「奇跡があればなれると思う」と答えます。

 僕の場合も偶然に偶然が重なって、三田・田町にあった作家事務所にお世話になり、初めてお仕事として書かせていただいた歌がヒットしたことで次のお仕事につながり、何曲かのヒット曲を書かせていただきました。恐れ多いようなほどのお名前のアーティストのお仕事を多くさせていただいてきました。
 恵まれたことに、僕の場合、コンペよりも名指しの依頼が多くて、国民的な歌手、紅白歌手などと実際に打ち合わせさせていただくという貴重な経験もさせていただいてきた。

 自分の歌がコンサートで歌われる際には、ほとんどの場合招待していただけるので、公演後の会場での打ち上げでご挨拶させていただくことも多い。
 夢の世界にいるような気持ちで過ごした日々もありました。

 もしも僕が、これからの人生で出会う作家志望の人などがいて、その人の作品に、僕が目を見張るような、あまりにもの才能を感じたりした場合は、僕も誰か知っているクリエイターやディレクターなどに紹介することもあるかもしれない。

 そこで、もしも天文学的な奇跡が起これば、その人は作詞家としてデビューすることもできるのかもしれない。あり得るかないかでいえば、あり得るというだけの話ではあるのだけれど、それでも、そこから先、歌がヒットするか、人々の心の琴線を響かせ、世の中に受け入れてもらえるか、となると、はたまた天文学的確率の奇跡になってしまう。
 きっと、宝くじの方が可能性はある。
 YouTubeで自分たちの音源を公開する、程度なら簡単なのだろうけれど、メジャーレーベルから歌をリリースするというハードルはやはり高い。

 歌詞を書くというと誰にでもできるように思う人は多い。実際AIなどを使用してもある程度の歌は仕上がってしまうことでしょう(それはきっとそこそこの作詞家が書くよりもレベルが高いでしょう)

 歌にはメロディーがあり、リズムがあり、世界観がある。
 仕事となれば、時代があり、世相があり、運の向きがある。

 A4の用紙に想いを書きなぐったからといって、それがすぐに歌になることはあり得ない。

 楽器経験もない芸能人が初めて作詞に挑戦しましたみたいな記事を見て、その気になる人もきっと多い。

 音楽として昇華される歌詞を書いて、歌で人に感動してもらうって、結構、生半可なことではないです。しかも、数万、数十万人、数百万人の人の心を揺さぶる、人生の歌として大切にしてもらえるとなると、やっぱり限りなく奇跡に等しい。

 収入、暮らしの時間割、仕事の経過、順序、仕事の得方。あらゆることがベールに包まれているような作詞家という職業。

 自分としては、なんとか下っ端の片隅で糸にぶら下がって、ギリギリで生息させていただいている立場ではありますが、それでも、この職業に出会えてよかったなと思うことはいっぱいで、人生に本当に感謝しています。

 全ては出会いがもたらしたものでした。

 歳を重ね、今では描きたい歌の世界観も随分変わり、度を越したような
仕事への執着も静寂になり、それではダメなのだけれど、もしも世の中にまだ僕の書く歌が必要とされるような場面があれば、全力で向き合い、足跡を残したいと心に確かめています。

 あるとき、音楽業界をしばらく離れていたとき、友人クリエイターからもらった言葉があります。

 「あとじさんは本人はやめたつもりになったとしても、作品がある限りいつまでも作詞家ですよ」

 謎の多いこの職業。まっとうしたいなと思います。

 人生というのは不思議なものです。

 ちょっとしたことで泣きそうになるくらい、世の中には様々な思いが詰め込まれている。心を許せば人生のありがたさでいっぱいになって空を見上げながら泣いてしまいそうなときもある。そうして普段はそういうことは放擲して、行為と役目に専念して、僕の場合は歌でそれを表現できれば嬉しい。

 思想が商品になる職業。書いた歌が自分自身で輝き収入を生み出し続けてくれるお仕事。僕自身、次のお仕事がどんな奇跡から始まるのか検討のついていないお仕事。いつも変化球か魔球かのように見ていなかった角度から依頼が入る。

 そうしてこれからも僕の暮らす田舎の片隅で、どのようなお仕事を?と聞かれて「作詞家です」と答え、よくわからないような空気が流れるということを体験するのでしょう。

 晴れ渡る土曜日の午前に思ったことを書いてみました。

 Makoto ATOZI


作詞通信講座ATOZism
オンライン作詞通信講座ATOZism
作詞教室ATOZism
オンライン作詞通信講座ATOZism











 





 




いただきましたサポートは活動生活資金として大切に使わせていただきます。創作活動を持続できますよう温かな御心とサポートいただけましたら幸いです。よろしくお願いいたします。あなたが幸せでありますように。