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みかんブロックについて(抜き型の作り方)

新しく制作しましたみかんブロックについて説明したいと思います。
今回はどういう風に設計しているかというところが中心になります。

みかんブロックとは

日本の方なら説明不要なみかんですね。

正確には「温州みかん」で英語だと「Satsuma mandarin」「satsuma」「mikan」とか呼ばれるそうで、なぜ薩摩かというと温州みかんの原種はインド→中国→不知火海沿岸(現熊本・鹿児島)から日本に入り、明治に薩摩から温州みかんの苗木がアメリカに渡ったためsatsumaとなっているそうです。
みかん属のことを「Mandarin orange」といい、「mandarin」というのはざっくりと言って中国を意味する言葉です。
だから「Mandarin orangeの中のSatsuma mandarin」という感じで「薩摩中国」と意味の分からない言葉になっているそうです。
wikipidia情報なので興味のある方はチェックしてみてください。
ウンシュウミカン - Wikipedia

そんなみかんをモチーフにしたブロックです。

前回説明した雪の結晶ブロック
寒波にせめて暖かくて柔らかい雪の結晶を(雪の結晶ブロックの説明と雪の本の紹介)|MAKOTO IWAKI|note
とは違い、あまり「みかんとはなんなのか」ということにはこだわっていません。
どちらかというと皆さんの思い描く「概念としてのみかん」を大事にしています。

ひとまずその完成品はこちらです。

みかんブロックの制作の手順

何角形か決める

前回の"寒波にせめて暖かくて柔らかい雪の結晶を(雪の結晶ブロックの説明と雪の本の紹介)|MAKOTO IWAKI|note"で簡単に説明しましたが、ブロックはすべて多角形をベースにしています。

今回は三角形をベースにするということはみかんという題材を決める前から決めており、そしていつもは組み合わせても隙間が出来ないよう突起と穴をつけるという制約がありましたが今回はありません。
今回は三角形の頂点に突起と穴を付けています。


これがみかんの型の線画と設計のときの補助線なんですが、これでわかりますかね?
今までであれば隙間が出来ないように辺の中心に突起と穴を付けていましたが今回は頂点なので隙間が出来ます。
だいぶ雑ですけど下のようになります。


この隙間をうまく使うことができれば面白い組み合わせができると思い新しい仕組みに挑戦しました。

観察

まずみかんをじっくり観察します。

みかんと三角形の組み合わせを作るためにどんな形にしたらいいのか。

そして「皮を三等分に剥いて実が中央にあるような形」がいいのではないかという考えに至りました。

形としても悪くなさそうです。

さらにもっと細かく観察します。
皮はどんな形に開くのか?実はどういうバランスで分かれているのか?皮と実のバランスは?
などなどを知るためにデッサンしました。

正直絵は上手くないですが、デッサンをすることでなんとなく見ていたときには気づかなかったことに色々気がつくことが出来ます。またiPadでデッサンしているので絵をそのまま取り込んで資料とすることが出来ます。

こうしてきちんと捉えてみると皮を突起にするには少し大きすぎる気がしてきました。

設計

ボツを含めた設計したものをすべて重ねると下のようになります。


大きいバージョンでは8通りですが、突起や穴と本体の組み合わせなどを色々考えると20パターンくらい試した気がします。
試すまでもないと消した線も多いので正直あまり覚えてません。

細かく遍歴を分けていくと

まずデッサンの感じの皮を作っていき、一番外側のものが実物のバランス通りで、大きすぎるのでどんどん小さくしていきますが、小さいと今度は皮っぽさがなくなり全体の形もいまいちでした。

穴はみかんの実を分けた形で、みかん感を出しすぎると穴が大きく結合が緩くなってしまうので見た目と実用のバランスのちょうどいいところで4パターンほど試してこの時点で決定していました。

身はとりあえずサイズ感だけを決めるためにまだ円の状態で、皮が決まってから詰めていく予定でした。
刻みを入れて実が分かれているようにしようとは決めていたのでとりあえずすこし入れておきました。

皮をそのまま使うのは違うとなったのでどうしようかと悩み、みかんっぽさを出すためにいっそのこと実で突起を作ってみるか?と考えつきました。

これは違う。2パターンだけ考えてみて即ボツにしました。

思い切って皮を剥く前のみかんをつけてみるとどうだろうか?

と試してみたらいい感じでした。
輪郭をきれいな楕円状にせず、いびつにみかんを思わせる形にして見ると不思議と全体にみかん感が生まれました。

大枠は決まったのでまず、突起の輪郭の歪な感じを出すために数パターン微調整したものを作り突起の方向性を確定させました。

実の部分の刻みをみかん感が出るように増やし、刻みの深さやカーブの具合を調整しました。
あまり「刻んでますよ!」というアピールをしてしまうとノイズになってしまうので0.5mm程度のかすかな刻みにとどめました。フェルトなどで作った際は生地のボリュームで埋もれてしまう可能性がありましたがそれも良しとしました。

紙をカットして実物を試して穴や突起の形をさらに微調整し全体のバランスを確定させ、最後に全体の大きさを拡大縮小で微調整を行って最終決定しました。

和紋や刀のツバのような和風の雰囲気に仕上がりモチーフとの相性も良いかと思います。

抜き型制作

設計した型のデータを抜き型工場さんに送り制作してもらいます。
今回心配なところは刻みと突起の付け根の細かい部分です。

細かいものも作ることはできるのですが、型の種類も色々あり使いやすさやコストが様々です。
過去に「作ったはいいものの使えない」「相場を知らず高すぎた」という経験が何度かありそれを踏まえて「こういうふうに作ってください」という要望も一緒に送ります。

抜き型に限らずですが分からないからと言って「おまかせで!」というのはあまりお互いによくありません。
最低限「こういう目的でこういう使い方をします」ということを伝えると相手もそれに沿ったものを提案して作ってくれます。

私は以前パタンナーをしていた経験がありオーダーメイドのパターンも引いたりしていたのですが、その際に店舗側から寸法だけ渡されて大して情報のない指示書を「おまかせでいいから」ともらうことが何度もあったのですが、作る側はプロなので相手の想像が出来ないと何通りもの仕様を数少ない情報の中から選び抜かないといけません。
そうしないと「違う…。」とお客様を落胆させてしまいます。
おまかせが本当におまかせであった試しはありません。
伝えた側もおまかせと言ったのであればその言葉に責任を持たないといけません。

伝える側はなんでもいいので関連する情報を伝えてあげると、受け手が「つまりこういうことか」と解釈してより鮮明にしてくれるので初めての人ほど伝えてみたほうがいいです。
良い相手であればきちんと確認して解釈してくれます。
ものづくりをする方もそうやって少しでも相手を見ることが出来たほうが作っていて楽しいですし、うっかり「せっかくだから」とサービスしちゃう職人さんもいます(笑)

他には最低限どんな種類があるかを知っておくとミスが少ないです。
抜き型で言えば加工方法が色々あり「うちの作り方はこれ!」と決まっている工場もあります。
複数ある場合は確認があると思いますが、1つだけの場合は有無を言わさず「うちに頼むってことはこの方法で作ります!」と決められます。
初めて頼んだときはそれを知らずに、安く作ろうと思えば作れた値段の4倍くらいの型代になりました。その分良い型ではあるんですが……。
どんな種類があるか知っていれば間違いはなく、調べるのが難しい場合は常識の範囲で相見積もりを出せば違いを具体的に知ることが出来ます。

コストに関してもある程度相場を知っていれば予め予算を伝えて、オーバーする場合は安くできそうな修正箇所を「予算をオーバーするときはここをなくしてしまって簡略化を考えています」などと伝えておくことで工場さんも相談にのりやすいです。
これも上記と一緒でデザイン的に修正できるところと出来ないところを伝えておくことで工場さんは無駄な提案をせずにすみます。

だいぶ脱線しましたが、気になっていた細かい部分は問題が無いようで制作をスタートしていただきました。

裁断

型が完成してしまえばあとはプレス機を使って裁断するだけです。

みかんブロックの素材

初めのフェルトだけのときから、和紙が加わり、人工皮革が加わりこのあたりまでは限られた素材しかなかったため、いつもは色々な種類の生地で色々な色で作成していましたが、先日ついに長年色々試し続けた結果、樹脂加工によって普通の生地も使うことができるようになったため格段に生地のバリエーションが広がったため今回からは素材を絞って作成していこうと思います。(もちろんリクエストがあれば今までの素材でお作りすることも可能です。)

みかんブロックの素材として選択したのは、白のコットン100%の薄手だが少し厚みのあるのブロード生地と、赤みの強いオレンジのシルク40/コットン60%の張りの強い白よりは少し薄いブロード?生地です。(生地の種類覚えるの苦手で多分正確には違ってますので雰囲気だけ…)
どちらもみかんに内包されている色ですね。
この配色とても好きです。

黄色系やグリーン系も考えたのですが、ひとまず白とオレンジで制作して展開していこうと考えています。

アクセサリーの展開

ワードとしてみかんなものづくりは下のようなイメージです。

(赤が強く出ていますが写りの問題です)

ネックレスの紐部分は線香花火ブロックを使用します。みかんに合わせて作ろうとも思ったのですが、先端の火花がみかんのヘタのようですし、反対側の手がみかんの筋を取っているみたいで絶妙に関連づいていたため合わせることにしました。

先日ライブをしながら色々作ってみましたがおもったよりも苦戦してしまいました。
予定ではジグザグに組み合わせた2本のパーツを編むように絡ませたりすると面白いものが作れると思ったのですが、ブレスレットやネックレスのような小さいものだと難しいようで悩ましかったです。
なんとなくですが方向性やパーツの癖はわかってきたのでこれから詰めていきます。
和っぽい印象や、配色のコントラストなど面白い要素はあるのでそれを活かしていきます。

他にはバッグを制作予定で、形はシンプルですが白の組み合わせとオレンジの組み合わせを編むように絡めた作りにしようと考えています。2月上旬までには作成したいと考えています。

ドレスも制作予定で、バッグ同様に絡めた2重構造で面白い軽やかで可愛いものができると予想しています。
2/9までにとあるコンテスト用にデザイン画を描く必要があり見せれるものであれば先に公開したいと思っています。

おわり

せっかく作ったしすぐ忘れてあとからやると中身が薄く適当になってしまうので記憶の新しいうちにどういう手順で作られたかを公開しました。

本当はみかん以外に三角形のブロックとして「イチョウ」や「柿」も考えていました。
秋の間にそれらもデッサンをしていたのですが、イチョウは見るからに三角形で考えやすそうですがそれから展開させていくことが難しく、柿はただ好きだったからでいまいち思いつかず冬になりました。
みかんも冬に作ってたらシーズンが終わってしまいますが、夏みかんとかありますしね!

アクセサリーは制作しましたらまた発表いたします!

最後に小話で、最近アール・ヌーヴォー関連の本を読み直していましたら下の作品に目が止まりました。

少しわかりにくいですが、素晴らしいデザインですね。
たんぽぽをモチーフにしたランプですが、たんぽぽであることに無駄が一切ありません。
地に沿う葉を足として、綿毛が光とともに拡散する。その下にはまだつぼみの花が。素敵です。
ドーム兄弟は知っていましたが金具部分を作成した「ルイ・マジョレル」という方は初めて知り、この方の作品が素晴らしい。

アール・ヌーヴォーだからかどこか日本的な要素もあり、この方の作品と日本の装飾的なインテリアを比較しながら見ていくと面白そうと思い作品集を買おうかと思いましたが洋書しかなくだいぶお高いのでGoogle Arts & Cultureで我慢しておきました。素敵なので良かったら見てください。
ルイ・マジョレル — Google Arts & Culture

自分の視点はまだまだだなと感じ、こういった視点があればもっと面白いブロックとそれを使った作品を作ることができるはずです。
このような作品作りをしていきたいと思った新しい目標の紹介でした。

みかんブロックはこちらで販売しています。

みかんブロック【織り生地】 | MAKOTO IWAKI(マコトイワキ)ECサイト⁤

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