離婚後の共同親権が「百害あって一利なし」? ― バカバカしい議論だけど、反論するよ

1. フライデーの記事 22.6.24付

 まずは、この記事をお読みください。橋本智子弁護士が「離婚後の共同親権」に反対する理由を、それらしい言葉で書き連ねています。一見、もっともらしく見えてしまうのですが、きちんと考えるとその全てが理由になっていません。
 それでは、一つずつ、その理由を潰していきましょう。

2. 「今の法律でできます」というウソ

橋本弁護士は
 「『共同親権』を導入すべきという主張は要するに、夫婦が別れても、子どもの父母として子育ては共同でしていくことが子どもにとって望ましい、ということですね。一般論としてはその通りです。そしてそれは、今の日本の法律でも十分に可能なのです。」
と言います。そして、その根拠として民法766条1項の規定、「《父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、……その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める》と」規定されていることを挙げます。
 法律や家裁の実務に詳しくない人であれば、「なんだ、できるのか」と思ってしまいます。違います。
『できません。親権者の同意がない限りは』
 現在の民法では、離婚の事由や帰責性に関わらず、離婚後に親権者となれるのは父母の一方のみ、すなわち絶対的単独親権制度です。そして、単独親権者が嫌だと言っているのに、家裁が共同養育を命じるような審判を下した例は日本には存在しません。
 そもそも、「共同養育」と言うからには50対50、もしくはそれに近い割合での子どもとの関わり合いを保証するような養育形態を考えるべきです。しかし、現実に766条1項を根拠に面会交流調停を申し立てても、裁判所の多くは『月1回数時間』程度の面会交流しか認めてくれません(最近は、月2回も微増していると聞きますが)。月1~2回、数時間程度の交流で「共同養育ができる」と言えますか。言えませんね。これを「ウソ」と言います。

3. 「別居親に、同居親に対する拒否権を与えるのに等しい」というウソ

 次に、橋本弁護士が挙げるのが
「『親権』とは、子どもにまつわる重要な意思決定をしたり、子どもにとって重要な行為を代理したりする『権限』のことですが、これを、離婚後、子どもと一緒に暮らしていない親(別居親)と、子どもと一緒に暮らして実際に子育てをしている親(同居親)とが対等に持つ、ということは、別居親に、同居親に対する拒否権を与えるのに等しいといえます。」
という理由です。
 これは、見方を無意識に一方の側に固定させるという、ウソの高等技法ですね。こういうときには、親権を得た側と親権を失った側の両者の視点をもってものごとを観察する必要があります。親権を得た側から見れば「拒否権」となりえますが、親権を失った側から見れば「無権限=自分の子どものことなのに何も言う権利はない」ということになります。この無権限がもっとも無慈悲な形で現れるのが、『代諾養子縁組』という制度です。離婚して非親権者となってしまうと、実の親も全く知らないうちに自分の子が他人の養子にされてしまいます。「そんなバカな」と思うかもしれませんが、今の日本の民法ではそれが許されており、また、実際にそういう例はたくさんあります。
 また、「父母が離婚後もきちんと話し合いができる関係ならば、話し合いで解決できます。『権限』を共同で持つ必要などありません。話し合って決めればいいのですから。」というのもよく言われます。
 しかし、「話し合い」をしたとしても、常に最終決定権は親権者ただ一人が持っています。それは正しいのでしょうか。
 親権者が、子の希望や子の最善の利益に沿った親権の行使をするという保証は何もありません。
子どもが希望する私立に行かせたいと同居親が思っても、別居親がこれに反対すれば、制度上はおそらく、家庭裁判所で決めてもらわないといけないことになるでしょう。しかし、家庭裁判所の手続は通常、短くても何か月もかかりますから、普通はそれでは間に合わない。現実問題として、子どもは希望する進路をあきらめざるを得なくなります。」という例を橋本弁護士は挙げますが、この例で単独親権者が反対した場合を考えればすぐに分かります。共同親権の場合以上に、子どもには救済のみちはありません。むしろ、離婚後の共同親権を原則とした上で、親権者と子の意思が食い違った場合にはどのように解決するのかをきちんと法定する必要があります。親権者の意見の食い違いは、婚姻中の共同親権下でも起こりうるのですから。都立大学の木村草太教授は『そんな場合は離婚すればいい(離婚して単独親権者を決めればいい)』と言いますが、それこそ進学の機会を失します。
 一方、橋本弁護士は
「もちろん、同居親が常に子どものために正当な判断をするとは限りません。しかし、そのような場合に別居親がすべきことは、拒否権を行使することではなく、まずはきちんと話し合うことです。その話し合いがうまくいかなければ、家庭裁判所で話し合い、場合によっては親権者変更の手続も考えられるでしょう。」
とも言っています。どうして、この場合は親権者変更の手続に要する期間は無視できるのですか?自説が破綻していることが分かりませんか?
 つまり、離婚後の共同親権でも婚姻中の共同親権でも、共同親権者に意見の相違が生じた場合の解決策を考える必要があるというだけの話なのです。現行民法の欠缺には見て見ぬふり?それとも、本当に気が付かない?

4. 外国の「共同親権」とは「親権」の内容が異なるというウソ 

橋本弁護士は、さらに
「日本の『親権』は家父長制の名残で、“権利” のようにイメージする人が多いと思います。」「欧米の『共同親権』を忠実に日本語に訳すと、『共同監護』とか『共同責任』になると思います。欧米では “権利” が感じられるような言葉ではなくなりつつある」
と言います。これもひどい大ウソです。
「親権」という言葉には、確かに親の権利という誤解を与える響きがあって、この法律用語自体を変えた方が良いという意見も多くあります。私もこの意見には賛成です。しかし、「親権」は子どもに対する関係では「親の責任」=子どもを適切に養育・保護し教育等の機会を与える責任ですが、第三者に対する関係では「親の権利」=未成熟な子どもに代わって子どもの権利を親自身が主張する権利として機能します。この「親の権利」としては、・子どもの居所の決定権 ・子どもの受ける教育の決定権 ・子どもの受ける医療の決定権などが挙げられます。私は、欧米諸国の法制を詳しく知っているわけではありませんが、親からこの権利を取り上げた国の話など聞いたことがありません(旧社会主義国は除く)。
 そして、この親の責任と親の権利は、本来一体のものであり、そのように扱うときにこそ、その機能をもっともよく果たしうるでしょう。
 日本の親権が、本当に橋本弁護士の言うように「家父長制」的な強い権限のものならば、「単独か、共同か」に関わらず、子どもの権利を守るために変えなければならないはずです。でも、橋本弁護士はそういう主張はしていません。そういう事実はないと分かっているからではないでしょうか。

5.共同親権だと両方の親のサインが必要?

「より日常的な例では、子どもがスマートフォンを契約する場合も、『別居親』が『まだ早い』と言えば、契約できなくなる可能性があります。」
 『子どもにスマホを持たせる場合には、親が契約して子どもに持たせるのが普通なんじゃないの?』というツッコミはさておき、両方の親のサインが得られないために子どもが困るようなケースは本当にあるのでしょうか?
 橋本弁護士は、スマホの契約の他に【パスポートの取得】と【原付免許の取得】を挙げています。まず、原付免許ですが、これは道交法によって16歳に達した者に取得が認められる免許ですので、親の許可(サイン)はいりません。現に、運転免許試験場でも親のサイン(同意書)などは求められていませんね。次に、パスポートですが、「父母の共同親権のもとにある子の法定代理人は、親権者である父又は母です」と東京都のHPに書かれていました。この運用が改められる可能性は否定できませんが、少なくとも現行の運用では両親のサインがないとパスポートも持てず、修学旅行に参加できないということはなさそうです。
 あと、医療も挙げられていますが、医療については主要病院ではガイドラインが作られており、実際に両親権者の同意が得られなかったために未成年者が必要な治療を受けられなかったという事態はほとんど考えられません。
 ただし、現在でも両親権者の同意がなければできないこともあります。それは、原告となって裁判を起こすなどの訴訟法上の行為やアルバイトなどの労働契約の締結(ただし、使用者によっては全く親権者の同意を確認しないザルみたいなところもありますが)、不動産の売買契約のような重要な法律行為です。アルバイトを除けば、ほとんど未成年者が経験するようなことのないものです。そして、共同親権を取り入れている諸外国では共同親権者間の意見が一致しない場合のために司法機関が決定し、親の代わりに許可を与えたり許可しないという決定を下すシステムがとられています。日本もそうすべきでしょう。
 むしろ、日本の場合、婚姻中は共同親権なのに、親権者の意見が一致しないときにこれを調整するための規定がありません。こちらの方が、はるかに多くの子どもの不利益につながりそうなものですが、共同親権に反対する弁護士や学者らは、ほとんどこの問題を無視しています。

6.養育費の支払い向上につながらない

 これは、制度の組み立てによって変わってくると思いますので、養育費の支払いが向上するともしないとも、にわかには断言できません。
 ただ、現行法の下でまじめに養育費を支払ないながらも全く子どもとの面会交流を拒否されている親がいることや、面会交流が認められていても月1回数時間程度しか会えない親が圧倒的多数であることを考える必要があります。
橋本弁護士は、「養育費は、権限があるなしとは関係ない。親である限り絶対的に負う義務なわけです。それなのに、権限を与えることで義務の履行を促すというのは、そもそも考え方としておかしい。」と言いますが、それ以前に『親権は子どもに対する親の責任と親の権利なのに、なぜ養育費という金銭の支払責任以外のものを、離婚したというだけの、何の落ち度もない親から剥奪するのか』という根源的な問いに答えるべきです。おそらく、この問いに明確に答えられる人はいないでしょう。だから、諸外国では共同親権を採用しているのです。

7.『原則面会交流』という大ウソ

橋本弁護士は、
「『別居親』が申し立てをすれば、家庭裁判所はほぼ『面会させろ』という判断になるんです。 だから、『共同親権』に関係なく、面会は現状でも相当程度実現します。」
と言いますが、これは許しがたい大ウソです。
下記のグラフは「なんでも統計」というHPから借用したものです。また、表は、裁判所のHPにある最新の司法統計です。

「なんでも統計」より
「司法統計」より

 この司法統計から分かるように、申し立てをしても半数近い別居親が子どもに会えないという現実があります。会えると言っても、圧倒的多数が月に1回以下です。子どもの年齢にもよりますが、こんな頻度で十分な親子の交流ができるわけはありません。
 さらに、調停や審判で決められた面会交流の約束を守らない同居親も少なくありません。調停や審判の期間中は子どもに会えない別居親、さらに決められたことを同居親に履行させるために司法手続きを執らねばならない。その間にも、子どもはどんどん成長していきます。
 「原則面会交流」どころか、『日本の家事司法は絶望的である』というのが現実でしょう。

8.日本は欧米に比べてDVや児童虐待対策が甘い?

 橋本弁護士は、
「欧米では、DVを規制する法律や子どもを虐待から守る法律が充実しているんです」
と言いますが、日本にもDV防止法や児童虐待防止法は制定されています。私は、欧米のそれらの法規については勉強不足でよく知りませんが、橋本弁護士が詳しいのであれば、比較法的に検討して、日本の法制度のここが足りないとか、ここをこう変えるべきだと主張するべきでしょう。
「2017年に公開された、『ジュリアン』というフランス映画があるんですが、これがすごくリアルだと当時たいへん評判になりました。すごいDV夫なのに、裁判所が見逃して『共同監護』になったことで子どもにとっても母親にとっても辛い状況になり、命の危険にすらさらされる。」
 まず、最初に断っておきますが、この「ジュリアン」という映画はフィクションです。ただし、フィクションと言っても、現代フランスの家事司法の一側面をリアルに切り取った映画なのかもしれません(残念ながら、私は未見です)。なので、フィクションだからと言って絵空事と言うつもりはありません。この映画の父親のようなサイコパスは一定割合で存在すると思います。
 しかし、面会交流や「共同監護」で「裁判所が見逃して」しまうことがあるなら、なぜ、単独親権者の指定の際にはそのような親を正しく単独親権者の指定から排除できるのでしょうか。DVや児童虐待をするような親が単独親権者となった場合の方が、子どもにとってはより重篤な危険にさらされることになります。
 さらに、「日本のように、協議離婚で裁判所のチェックなく離婚できる国では、さらにそういうことが起きる危険性があります」と考えるのであれば、滝本太郎弁護士や他の弁護士が主張しているように、未成年の子のある夫婦の離婚について協議離婚を禁止して、全件家裁関与の体制を作れと主張すべきでしょう。
 共同親権に反対する理由として、よく持ち出されるDVや児童虐待ですが、今の日本の法律ではDVや児童虐待がない場合でも必ず一方の親は親権を失います。共同親権の制度がなくても協力し合える夫婦は共同養育や共同監護ができるとも言われますが、できるかできないかは親権者の意思一つにかかってきます。例えば、不倫をして離婚となったときに、不倫をした側が親権者になることもありますし、不倫をされた側が親権者になることもあります。そういうときに、親権者が冷静に子どもの利益を第一に考えて共同養育や面会交流をスムースにできるような例はごくごく僅かでしょう。
 諸外国の例では、多くの国で離婚の際に「共同監護計画」を離婚する夫婦に作らせて、その約定を機械的に守るということで子どもの利益を確保しています。このような制度が日本で作れない理由はありません。

9.結び

 長くなりましたが、日本でいま議論されている「共同親権」は、もはや世界の常識です。日本だけ、世界の常識から30年以上も遅れています。
 橋本弁護士以外にも、ウソの理由を並べ立てて共同親権の導入を妨害しようとする弁護士や大学教授などがいますが、こうしたウソやゴマカシに騙されずに、自分の目で真実を見極めてください。
                          ~終わり~
 













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