素材の触感を変えるということ
今日は『触楽入門 -はじめて世界に触れるときのように-』(著:テクタイル)から「これまでに存在しないモノをつくってみよう」を読みました。
触覚のセンサーは2つに大別されるのでした。一つは皮膚の変形を感じとるセンサー。もう一つは温度を感じとるセンサーです。
昨日は触り間違いの例として「温度の錯覚」、具体的には相互温度参照現象という事例にふれました。中指で常温のコインに、人差し指と薬指でそれぞれ冷たいコインにふれると、なぜか中指のコインも冷たく感じてしまうというものです。温度をバラバラに感じるのではなく、多数決のように統合的に感じとっているようです。
また、視覚の盲点についてもふれました。盲点とは網膜上の神経が束になって集まっている部分で、視細胞がありません。そうすると、常にある箇所が見えていないはずですが、日常生活の中で「見えていない」と意識することはありません。
その秘密は「推論による補完」にあります。片方の目をつぶっている場合は周辺の視覚情報で、両目で見ている場合にはもう片方の眼が捉えた視覚情報も使って視野の欠損を穴埋めしているのです。
「おそらくこうだろう」と割りきることでつながっているように見えている。逆説的なようですが、割りきれなさを割りきることで世界がなめらかに連続しているのだと思うと、時には適度な割りきりも大事なのかもしれないと思えてきます。
さて、今回読んだ箇所では「触感を変える」「素材の交換」というテーマが展開されています。
どんなものの触感を変えたら面白いだろう?
著者は「どんなものの触感を変えたら面白いだろうか?」という問いを投げかけます。
たしかに金属に触れるとヒンヤリと感じることがあります。それが心地よいと感じる場合もあれば、そうでない場合もある。金属は「冷たいだろうな」と想像させる質感があるように思いますが、触ってもヒヤッとしない金属が
存在するとしたら、ふれる際の心理的ハードルが下がるのかもしれません。
「冷たさを感じるとき、鋭い痛みに似た嫌な感じが同時に起こることがある」
ヒヤッとする驚きには神経伝達のメカニズムが関係している。では、これを逆手に取ることで冷たさを意識させないことが可能になるのでしょうか。触感の肝は「素材のふれ方」にあるという原点に立ち返ると、素材を変える、ふれ方を変える、という2つの方向性が考えられます。
まるで木材に触れているかのような金属?
著者によれば「冷たくない金属」の試作が進んでいるようです。素材そのものを変える取り組みですね。
「金属の冷たさを木材に触れているような触感に変える?」
とても不思議な感じがしますが、どのように実現するのでしょうか。金属と木材。人工物と自然物がどのように融合、調和していくのでしょうか。
身体の接触面積を小さくすることで身体からの放熱量を抑える。それによりヒンヤリとした感覚を和らげることができる。「素材の交換」というと素材の成分構成を変えるようにイメージしてしまうのですが、素材の触感を(溝を掘って形状を)変えることで「素材のふれ方」が変わる。
そのふれ方の変化はヒトが意識的にふれ方を変えるのではなくて、「素材が人の手を迎えにいく」という感じがします。
これまで「インターフェースを変える」という言葉を耳にしても意味を深く理解できていませんでしたが、「ふれ方の変化が質感・感情の変化を促す」というイメージを持つことができました。
数多ある素材の可能性。それは選択された「引き出し方」の数だけあるということ。
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