見出し画像

音は行為のフィードバックとして実感・意味を与える

今日は『触楽入門 -はじめて世界に触れるときのように-』(著:テクタイル)から「触感に耳を澄ませながら、歩いてみよう」を読みました。

昨日は「触れているように感じる音(触感を想起させる音)」というテーマにふれました。

紙袋に手を入れてガサゴソと探っているときの音、紙が破れるときの音。生々しくもあり、耳の奥がくすぐったくなるような、心地よさがある。こうした感覚をもたらす現象は、ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response:感覚的な喜びの自発的応答)として知られています。

イヤホンで音声を聞いているとき、あたかも耳元で囁いているような、そこに人が存在している気配を感じることがあります。「バイノーラル録音」と呼ばれる手法を用いることで実現できるそうです。具体的には、2つのマイクロフォンを人間の両耳と同じ間隔に配置して録音するのです。

視覚と触覚が切り離せない(未分化である)ように、聴覚と触覚も切り離せないのだと感じました。

さて、今回読んだ範囲では「音が触感を増幅する」というテーマが展開されています。どういうことなのでしょうか。

音は行為のフィードバックとして実感・意味を与える

著者は「足で感じる触感の心地よさ」について次のように述べています。

 ふかふかした絨毯、乾いた砂浜、長靴で水たまりに足を踏み入れるときの感じ - 触覚/触感というと、どうしても手で触れることが中心になりますが、足で感じる触感もまた、得も言われぬ喜びをもたらします。歩いているといろいろな音がしていることに気がつきます。雪の中を歩くときの、サクッサクッとした音。落ち葉を踏みしめて歩くときの、カサカサと葉のこすれる音。日本庭園の玉砂利を歩くときの、ザクッザクッとした音。このような音は、足の裏で感じている触感にある種のリアリティを与えてくれます。

雪道を歩いているときのサクサクした音。落ち葉を踏みしめたときのカサカサした音。玉砂利のザクザクした音。文字を見ただけでも、頭の中でその音と光景が思い起こされて、どこかくすぐったい感覚になりました。実際に歩いているわけではないのに不思議ですね。

ふと「行為のフィードバック」という言葉が降りてきました。

音は空気の振動ですが、ある地点からある地点まで振動が耳に届くまでには時間があります。つまり、自分の行為に伴う現象の結果として音が生まれている。音は行為に対するフィードバックとして、因果的な意味を与えているのではないでしょうか。

著者は「ある種のリアリティ」と表現していますがリアリティというのは「実感」「意味」という言葉で言い換えることができるように思います。

一旦、行為と結果の因果関係が見出されると音(結果)から行為(原因)を時間を逆転して復元できてしまう。言葉を見ただけなのに、あたかも地面を踏みしめているような感覚になったのは、「身体的感覚に伴う記憶」の中で時間をさかぼったからなのかもしれません。

想像(イメージ)というのは実態的感覚を伴うこともあるとすると、やはりバーチャルとリアルの間には明確な境界線はなくて連続的なグラデーションなのだなと感じます。

音が触感・食感を強める

著者は「音で触感・食感を強めることができる」と述べてます。

 例えば、ある実験では、ポテトチップスを食べている音を録音し、その音を増幅して、食べている人に聞かせました。すると、音量を大きくすることによって、いつもよりもポテトチップスがサクサクしていると感じさせることができたのです。また、高い音を担う成分(2〜20キロヘルツ)を強調することでも、同様の効果が得られました。そう、音をうまく調整することで、触感/食感を強めることができるのです。

たしかにポテトチップスを食べるとき、サクサク音がすると「食べた!」という実感があります。最初は味に意識が向くのですが、舌が味に慣れてくると、サクサク音のほうに意識が向くように思います。味を楽しみたいというよりもサクサク音の心地よさを感じたいから、ついつい手を伸ばしてしまう。そんなことはないでしょうか。

もし、ポテトチップスが湿気っていたら、サクサク音はせず、ベトっとした食感が強調されるように思います。

食感は触感だけでなく音にも左右されている。人の感覚・知覚は統合的なのだなと感じます。

 触感の中には音があり、音の中には触感がある。今後は歩きながら、もしくはご飯を食べながら、音に耳を澄ませてみましょう。いつもよりも鮮やかに足裏の触感を感じたり、歯ごたえが増して感じられるはずです。

歩いているとき、食事をしているとき、何かに触れるとき。音に耳を澄ませてみたいと思います。

そして、裏側には「自分はどのような音に囲まれているのだろう?」という問いがあるのだと気付きました。日常を新鮮に感じ続ける。その秘訣は音にあるのかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?