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少しでもいいから毎日ふれ続けること

今日は『触楽入門 -はじめて世界に触れるときのように-』(著:テクタイル)から「年をとると、触感を感じ取る力は落ちる?」を読みました。

昨日読んだことを少し振り返りますと「自己主体感(Sense of Agency)」というキーワードが出てきました。何かに触れることで物事に自分が主体的に関わっているように感じる感覚のことです。

事例として、歌手の安室奈美恵さんのGolden TouchというPV(プロモーションビデオ)が紹介されていました。PVの画面の中央にハートマーク(❤︎)が表示されていて、そこに指を置いてビデオを見ていると自分の指先が映像に影響を与えているように感じるのです。

これは因果関係の誤認なのですが、自分から働きかけているわけではないのに主体性を感じる。「主体性とは何なのだろう?」という問いと共に「因果というのは間接的にも見出し得るもの」という感覚を覚えました。

さて、今回読んだ範囲では「触覚は衰えてゆくのか?」というテーマが展開されていました。

触覚は衰えてゆくのだろうか?

「加齢で触覚は衰えるのか?」という問いに対して、著者は「必ずしもそうとは言い切れない」と述べます。

 触覚の感度という観点ではその通りなのですが、しかしながら、年齢が若いほうが「触感」を感じ取る力に優れているとは、必ずしも言い切れません。年を取っていても、日常的に手を使う職人さんなど、モノに触れた経験が豊富な人のほうが些細な触感の差を識別できるからです。

加齢により末梢神経の数や、すべり感覚を司る感覚器官であるマイスナー小体やパチニ小体の数は減少するそうです。その意味では触覚は衰えるのかもしれません。

ですが、モノに触れる経験を豊かにすることで触覚の感度を保ち、磨くことができるという事実は「感覚」が神経の量のみで決まるのではなく、使い方にも左右されるのだから、年齢を重ねるとともに一層積極的に使っていこうというメッセージとも取れるように思います。

 マッサージ師を例にして考えてみましょう。同じ姿勢を取り続けることで、筋肉が一時的に弾性を失ってしまった状態、これが「凝り」です。マッサージ師は、さまざまな人の身体に繰り返し触れることで、骨や腱、筋肉の凝りを触感から検知することを学習します。加えて、筋の緊張がほぐれるマッサージ効果と、そのとき受ける触感の対応がつけられるようになってくる。経験を積むことで、どの触感が目の前の症状(肩こりや腰痛)に影響を与えているのかがわかるようになるわけです。

著者はマッサージ師を例にあげています。私は定期的にマッサージに通っているのですが、少し触れただけでその日の自分の筋肉の状態、疲労している箇所が分かってしまうのが不思議です。

著者いわく、経験を積む中で触感データベースが構築されるのだそうです。一人ひとり骨格や体型、筋肉の質も異なるわけですが、同じ人の身体を時間を変えて何度も触れるうちに違いがわかってくる。あるいは、違う人同士の身体の状態の比較を積み重ねることで違いが分かるようになってくる。

様々な物に触れて経験を積み重ねてゆく中で「違いが分かる」ようになる。「感覚が研ぎ澄ませること」と「違いが分かること」はとても近い関係にあるように思いました。

少しでもいいから毎日ふれ続けること

著者は「モノに触れる経験を積み重ねると脳も変化してゆく」と述べます。

 モノに触れる経験を積み重ねると、それに応じて脳も変化します。例えば、プロの演奏家では、楽器を演奏するのに使う身体の部分(例えばピアニストなら指)に対応する脳の体性感覚野の表面積が、ふつうの人より大きくなっていることが知られています。ごく最近、スマートフォンの利用ですら、知らず知らずのうちに指先の触力を向上させている可能性があることが示されました。脳波計を使った実験で、スマートフォンを使う時間が多いほど、指先の触感を司る体性感覚野の活動が活発になっていたのです。

体性感覚野とは体性感覚を司る脳領域で、皮膚感覚と深部感覚で構成され、皮膚感覚は触覚・温度感覚・痛覚、深部感覚は筋や腱、関節などに起こります。

ピアニストが指先の感覚を司る脳領域の表面積が大きくなることは何となく想像がつきます。ですが、スマートフォンを触っているだけでも触力を向上させている可能性があるというのは驚きでした。

毎日何かに触れ続けて生活しているわけですが、ここから見えてくるのは「同じモノに繰り返し触れ続けることで感覚が磨かれる」ということではないでしょうか。

少しでもよいから毎日ふれ続ける。その積み重ねがいつか大きな感覚の変化となって現れる。最初のうちは気付かない変化かもしれないけれど。大切な気付きをあらためて。

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