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札幌アンダーグラウンドneccoの閉鎖からイベントスペースについて考えてみる


札幌の市電通り沿いにある知る人ぞ知るイベントスペースneccoが6月23日に10年の歴史を持って幕を閉じた。最後はイベントは、オーナーの荒木由聖氏自らの作品を展示した「復活」というアート展である。訪れたのはおよそ一年ぶり。時間の都合等で私が訪れたのは22日の午後6時頃で、その頃にも何人か人が集まっており、次から次へと来場者が耐えなかった。荒木さんは久々でも自分を明るく自分を迎えてくれた。

公式ウェブサイトによると、「サッポロアンダーグラウンド「ネッコ」 とは、近未来美術研究所の荒木博士(アラキヨシキヨ)が運営する、ギャラリー/イベント/インディーズ物販をおこなってゆく札幌のアングラ&サブカル発信基地である」とある。

かつて札幌には、ATTIC、OYOYO、オノベカといったユニークなイベントスペースがあったが、いずれも2010年代で施設老朽化やビルの建て替え等の理由ですべて姿を消した。neccoの閉鎖によって、札幌の文化的なイベントスペースはこれで消失してしまった。それは同時に、札幌のイベントスペースの歴史が切断されたことを意味する。

neccoオーナーの荒木さんによると、コロナ禍だからやめるというわけではなく、10年を一区切りとしてずっと閉じることを考えていたそうだ。会場には、荒木さんの作品が壁一面に展示されていた。

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neccoでの思い出はいろいろある。ビブリオバトルや、ゲンロンの中継、球体展などたくさんあるが、久しぶりに荒木さんと再会して真っ先に話題に上がったのは、札幌限界研究会のことだった。

札幌限界研究会

そもそもneccoを知ったきっかけは、東浩紀さん主宰によるゲンロン友の会メンバーの北海道オフ会が2012年の夏頃に行われたことに遡る(もう9年経ってしまった!)。主催者のはどぼさ氏がtwitterで、北海道在住のゲンロン友の会メンバー可視化を呼びかけたことで、すすきのにある居酒屋でオフ会が実現した。(そのときはじめて顔を合わせた友の会メンバー(とその友達)とは今も付き合いがある)。

その後、オフ会メンバーがまた集まるときの場所をどうしようかということで、はどぼさ氏がneccoの荒木さんと知り合いだったこともあり、読書会やプレゼンイベントなどでよくneccoを使わせてもらった。2013年の初頭からgenronの講義イベントが開始したときには、日本各地で配信され、neccoが札幌での中継所を務めた。だが、あまりにも集客が悪すぎて、毎回2,3人、多くても5人居ればいい方で、しかもメンバーがほとんど固定化していた。そのうち、当時札幌にあったコワーキングスペース36の真野さんもneccoに来ていた縁から、genronの札幌中継がneccoからコワーキングスペース36に変更し、2013年の5月か6月くらいで中継も終了した(と記憶している)。なお、コワーキングスペース36もSAILING DAYS 36と看板が変わったが、2016年に閉店したようだ。

そんなわけで、集客があまりにも悪かった札幌での中継は、一体どこに原因があるのか?それをもっと深く考察してみようと思ったことがきっかけで、札幌でアートやイベントなどについて本音をぶっちゃける「札幌限界研究会」なる催しを急遽neccoで2回開催する運びとなった(第1回第2回についてはリンク先を参照)。3回目は私を含め周囲でもいろいろ「限界」を感じて開催されることはなかったが、今振り返ると実に濃いトークが飛び出した。それは決してディスる事が目的ではなく、現状を俯瞰した上で、どうしたらいいか、という問題をどう改善できるのかを意識しているメンバーが集まっていたからだろう。

当時は、今のようにYoutubeLiveは存在せず、中継はUSTREAMがメインで使われていた。スマホユーザーも少なく、ネットの炎上もごく限られた騒動だったものだ。
「今札幌限界研究会を中継したら炎上しているね」と荒木さんは笑っていた。また荒木さんによると、今になって札幌の「限界」を騙る人が周りに出現したそうで、8年前のイベントはあまりにも最先端過ぎたのだ、なんて冗談とも付かない笑い話になった。それが真実かどうかはともかく、まちが抱える問題や文化が取り巻く状況を、本音でいろいろ語り合えたのは、とても貴重で楽しい体験だった。

イベントスペースは文化の発信基地である

今や中国で大活躍している山下智博さんが「モテナイト」なるイベントを爆誕させたのはATTICだった。OYOYOではsapporo6hが主催していた「札幌ユーストバー」のような生配信番組が毎週月曜日に放送されていた。今思えば、まだYoutuberなんて言葉自体存在しなかった時期に、毎週生番組を配信するのは、Youtuberの先駆けと言ってもいいであろう。オノベカも、札幌オオドオリ大学の授業や新年会の餅つき大会等で使わせてもらうなど、大変お世話になった。文化の醸成や偉人(奇人?)を排出するためには、イベントスペースは切っても切り離せない関係にある。

とはいえ、イベントスペースを運営するのは決して容易なことではない。ましてやコロナ禍である。zoomのようなオンラインツールは、場所に関係なく人がデジタルで集うことを可能とするが、イベントスペースで集った面白さを体験した身としては、実際に人と会ってざっくばらんに語り合ったり、情報を交換したり、別の場所でも再会したり、といった予期せぬ偶発的な出会いがあることに醍醐味がある。neccoは、他のどの場所とも違う、なにか独特の、居心地のいい雰囲気があった。それは適切な広さ、デザインされた空間設計、淡い雰囲気を醸し出す照明だけではない。一番大きいのはオーナーの荒木さんの人柄によるところが大きい。デジタルが進化しても、結局は人がすべてなのだと思う。

neccoは閉鎖したが、荒木さんは次なるステージを見越してプロジェクトを計画中とのことだ。今後も大いに期待したい。

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