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本日「3杯セット」記念日

池袋ジェイズ・バーで僕が「3杯セット」を正式に始めたのは2009年の7月24日でした。今から丁度14年前のこと。

振り返れば隔世の感があります。

「どうしたらウイスキーを愉しんでもらえる様になるだろう」。
僕は毎日そんなことを考えていて、それは今でも変わりません。

最近は毎月50本程度のニューリリースのウイスキーを扱っています。40本を切ることはほぼないでしょうし、週に一度顔を出せば新入荷のウイスキーが10本はある。そんな様子が日常的なのが池袋ジェイズ・バーです。

僕がスコッチ・ウイスキーを愉しみ始めた頃はオフィシャルのものが大半で、GMやシグナトリーやケイデンヘッドなどから「瓶詰業者」という仕事があることを知りました。

この文章を読んでいただいている皆さんに「シングル・カスク」という言葉の意味を説明する必要はないと思いますが、ひと樽ごとに違うウイスキーとして瓶詰めをされれば、商品アイテム数は無限に増加していきます。

例えば、ラフロイグと言えば「オフィシャル10年」が当たり前でした。バーで「ラフロイグを下さい」と注文すればそれはオフィシャル10年であり、バーテンダーに聞かれるのはせいぜい「飲み方はどうしますか?」という程度のことでした。

もちろん、今でもラフロイグの10年からウイスキーが始まったという方は少なくないでしょう。でも現在は、そんな方でも「その先」があるのです。

瓶詰業者各社は様々なシングル・カスクのラフロイグを(つまりひと樽ごとに)瓶詰し始め、オフィシャルからも限定品やシングル・カスクのウイスキーがリリースされ、ラフロイグと言えば「オフィシャル10年」が当たり前という認識では混乱が生じるような世の中になりました。

商品アイテム数の増加を僕は素直に喜んでいます。そしてその多様性を愉しんでいます。しかし、選択肢が豊富になることはある種の混乱をもたらします。ましてや「ウィリアムソンって何ですか?」という状況にもなっていますから尚更のこと。

何を頼んだらいいか分からない。
これからますますそんな時代になっていくのだろう。
14年前には確実にそう予見していました。

ある種のパラドックスですが、多様性を志向すれば混乱が生じるということです。ならば、多様性を担保しつつ混乱を抑えるにはどうしたら良いか?を考えるべきだろうと。そして、その答えが「3杯セット」ということでもありました。

まず、その豊かな多様性を愉しんでいる人には「既に理解がある」。
その多様性こそ混乱の元凶であるという人には「まだ理解がない」。
そう分類してみることから始めました。

ワクワクしてしまうか、物怖じしてしまうかと言ってもいいでしょう。

では「まだ理解がない」人と「既に理解がある」人との境界には何があるのか?

答えは「少し理解したい」なのではないかと僕は考えました。
「少し理解したい」とはワクワクしてみたいということでしょう。

ワクワクのためになら、その「多様性のパラドックス」を受け入れ、乗り越えられるのではないかと。

誤解のないよう申し上げておきますが、理解とは勉強や事前の学習ではありません。何度も申し上げておりますが「蒸留所の住所と電話番号を暗記すること」に大きな意味はない。というのが僕のスタンスです。もちろん、その背景や歴史を知りたいという人の邪魔はしません。大切なのはそれぞれのワクワクに向かうことだと思うのです。

それでも、一番大切なのは知識より体験。消えてなくなる快楽もまたウイスキーの本質であります。目の前の1杯を愉しみ、そこに何を感じるか、それを誰かとどのように共感できるか。そんなことに人生の豊かさを感じられるなら、僕らは「多様性のパラドックス」を乗り越え、ウイスキーの愉しみの持続可能性は高まるのだと思います。

例えば、池袋ジェイズ・バーに来店したあなたの前に100種類の「3杯セット」対象商品があったとして、その中からランダムに3杯を選んだとして、そしてその3杯を愉しんだなら、あなたはその違い、ウイスキーの持つ多様性を感じることができるということ。

ウイスキーは座学ではない。
体験である。

そして、今夜のあなたの「3杯セット」はまだ未完成。
昼休みに、あるいは来店前の電車の中でTwitterを眺めながら「何を飲むか」目星を付けるのもよし。もちろん、カウンターに座ってから相談するもよし。

「3杯セット」記念日である本日から3日間。
7月26日(水)まで、14年前の価格 ¥2,000(税抜)にてご提供します。
あなたの「3杯セット」を完成させましょう。

ご来店をお待ちしております。

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