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文体の舵を取れ|練習問題①〈文はうきうきと〉問1

Twitterに踊る「文舵」の文字。
なんなんですか、文舵。と、横目で眺めていたそれは、どうやら、ル・グゥインによる小説教本「文体の舵を取れ」の、略称であるらしい。わたしが見ていたのは、本書を捲るブンゲイクラスタによる、本書を軸とした議論、合同練習にかかるやりとりのあれこれ。練習問題を披露してくださる方も多々あり、また、自学自習にとどまらず、共に学ぶかたちがいたく愉快そうで、いわゆる小説指南書的なものには世話になどならん! と決めていたはずのわたくしもつい躍り出るという始末……

(というわけで、早速、練習問題に挑戦してみました)

第一章 自分の文のひびき
練習問題① 文はうきうきと
問1:1段落~1ページで、声に出して読むための語り(ナラティヴ)の文を書いてみよう。その際、オノマトペ、頭韻、繰り返し表現、リズムの効果、造語や自作の名称、方言など、ひびきとして効果があるものは何でも好きに使っていい
――ただし脚韻や韻律は使用不可。

<練習>

大亀の口から、玉子がこぼれ続けている。大人のこぶしほどの、それはぬらりと光る、永遠の、いのちのあかしと男がいう。いびつな白玉をぽこぽこ吐きつづける亀の、あうあの咆哮がひびき、わたくしはふたたび耳をふさいで逃げ出した。ぽこりぽころの湧き水に、うろこのないさかなにも似たはらひらの足を、すくいあげるようにして出口を探す。指で割く水の、甲で割る波の、ぬくとい水を蹴散らして、にごりのない、しぶきをあげて。くだんの白の玉子を手にとれば、うその数だけ、だんだら模様がうかんではぜる。こぼれた露のしたたりの、つやめく玉子のはちはちに耳のうろを押しあて、濡れそぼるのもかまわずに、入口をなだらかにふさぎ、息を合わす。殻の内には、いとけなき子亀のちきちき声が、かすかに溜まりふるえてあるようで、背骨をもたぬ、へちゃりのからだをひきずりだしてしまえたら、などと考えてしまったりもするけれども、それは。

己の出来栄えはともかく。皆さんのトライがたいへん刺激的です。
あたらしい取り組みには、やっぱり、うきうきしてしまいますね。

■アーシュラ・K・ル=グウィン (著), 大久保ゆう (翻訳)「文体の舵をとれ: ル=グウィンの小説教室」(2021)


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